香りは記憶のロードショー

夏の夜の香りに導かれて、幼い子供だった頃を思い出す。懐かしい感覚に襲われ、泣き出してしまいたくなる。私が感じる夏の夜って、そんな香り。

わたしは大人になって、灰色の世界に染められてしまった。けれど、幼い頃見ていたわたしの世界はほんとうに色とりどりだった。自由な発想で、自由に世界を塗って、自由にそれを表現した。それは怖いものではなかったし、当たり前のことであった。

いつから色を表現することに気を遣い、規制され、濁っていってしまったのだろう。今や自分がどんな色を持っているのかずっとわからないでいる。

けれどその香りは灰色に染まってしまったわたしに、いろんな色に溢れていた世界を思い出させた。懐かしくて、懐かしくて。でも、絶対に戻ることのできない日々を回想させる残酷な香り。
胸が締め付けられ、叫び出してしまいたくなる。
けれど、そんな私をしっかりと包み込むことも忘れない。もう戻れない時を回想させ、今を生きていることを再認識し、地面を踏み締める。

ひとときの色彩を噛み締め、その色彩を忘れないように胸に刻む。香りは記憶と結びつくというから、また幼いあの日に戻れるように、大切に仕舞うのだ。
自分がどんな色をもっているか、どんな色を自由に出せるかはわからないけれど、幼い自由な私は、なんだってできたし、もっと自由に見える大人に夢見てた。

こどもから見たら私はもう立派な大人なのだろう。
あの頃の私が夢見ていたような大人になれるように頑張りたいけれど、あの頃の香りがする夏の夜だけは、大人の皮を脱ぎ捨てて、色彩豊かな世界に夢見るのだ。

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