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【復活記事】『イハナシの魔女』 総括感想

☆シナリオ(44/50)

☆キャラ(35/40)

☆その他(2/10)

☆総括(81/100)

 プレイ時間は約20時間。王道のボーイ・ミーツ・ガールを最後まで描き切り、涙腺を崩壊させてくる名作。ファンタジー要素にややくどさを感じたり、UIが致命的に使いづらい部分もありますが、シナリオ、キャラを楽しみたい方にはおススメできる作品でしょう。



〈注意 この先ネタバレを含みます〉




☆作品紹介

 本作は所謂インディーゲームでして、2022年8月に発売した同人作品です。同人作品らしく、一枚絵が10枚とかなり少なく、背景もほぼ実在の写真を加工したものという作品です。Steamのセールで、各種クーポン込みで、約1400円で購入。

 内容としては叔母一家に捨てられて、沖縄の離島での小島での生活を余儀なくされた主人公、西銘光(にしめひかる)。彼が島のアイドル的存在で、声優を目指している赤摘明(あかつみあかり)。なかなか仕事がうまくいかない24歳、比嘉紬(ひがつむぎ)。そして、国籍不明の不思議な少女、リルゥ。彼女達と出会い、何とか生活していき、成長していく中でファンタジー(おとぎ話)要素が交わり物語が展開されていくというものです。また、本作の大きな特徴として、アカリ編、保険販売員編、リルゥ編の三編によって各ヒロインに焦点を当てているという点が挙げられます。この点、非常に分かりやすく、読みやすかったですね。

 私自身、久しぶりの同人作品です。同時に私は低価格ゲームには概ね、高い点数を点けられずにいました。低価格ゲームは特性上、キャラとシナリオの掘り下げのどちらかが疎かになる傾向にあり、苦手意識があるからです。本作にも最初は同様のイメージを抱いていました。この印象を払拭できるのかが私にとって重要になってきそうです。しかし本作はインディーゲームながら極めて高い評価を得ているという情報を耳にします。期待半分。不安半分のままプレイしてみました。その内容を早速紐解いていきましょう。

☆シナリオ(44/50)

〇王道のボーイ・ミーツ・ガール

 皆さんは、ボーイ・ミーツ・ガールと聞いて何を思い浮かべるでしょうか。そう、「少年が少女に出会い成長する恋愛劇」です。ボーイ・ミーツ・ガールとは「主人公の少年が、少女に出会って恋に落ち、そこから関係が育っていく」物語を指すとWikipediaにありました。本作はその定義にまさに矛盾なく当てはまっていると感じたのが、クリア後の最初の印象です。

 さて、主人公光ですが、率直に好感が持てます。初期からできないことを努力して適応していこうとする姿勢がありありと見えてきました。何より高校生ながら大人同様に働く描写を丁寧に入れているおかげで(しかも沖縄のホテル従業員というかなり激務が予想できる職場の話です)、その真摯に頑張る努力をプレイヤーに納得させることができています。特にリルゥ編での光の努力は客観的に見て賞賛されるべきでしょう。翻訳作業の描写なんかは努力が生々しく日付、時間単位で描かれています。とても痛々しく、光がかわいそうになりましたし、もうやめてくれと叫びたくもなりました。

 そう、本作の魅力は何ということもない普通の少年(魔力は多少ありますが)が、様々な困難に等身大ながらぶち当たり、その度に仲間との交流を基に解決するというストーリーラインが綺麗だということです。昔ながらのストーリーラインでありながら、現代風にアレンジされている点(以下で言及するヒロインの掘り下げ等)、そうでない点(ファンタジー要素)を巧みに扱っている部分に魅入られました。ちなみに私事ですが、光の台詞には感銘を受けました。例えばリルゥ編の「不幸を許すな。運命を許すな。抗え。戦え。世界のルールなど壊してしまえ!」や「運命なんてのは人間が名前をつけた過去のことだ。俺に言わせれば、壁が壊れる運命だったってだけだ」等です。私も苦しい時、困難を乗り越えようと自分を奮起させるようになりたい。そう思いました。


〇ヒロインの掘り下げがかなり丁寧

 もう一つ良い点で言及したいのが、ヒロインの掘り下げが低価格ゲームとは思えないほど丁寧である点です。ライターさんからは絶対にヒロイン、サブキャラの掘り下げを全力でしてやるぞ、という強い意志を感じました。

 というのも、物語に三つの構成がある(アカリ編、保険販売員編、リルゥ編)というのは、完全に『車輪の国、向日葵の少女』、『穢翼のユースティア』に代表されるような所謂「ヒロイン脱落型」のノベルゲームと同一だということです。このヒロイン脱落型は本編で、マルチエンドではない一本道で各ヒロインの掘り下げを全員分行えるという大きなメリット。同時にマルチエンドゆえ、他√と展開が異なるようにできる方式を捨てるというデメリットがあります。しかし、本作ではデメリットが意味を成しません。なぜなら、低価格ゲームとして尺がそこまで長くない想定だからです。

 ゆえに低価格ゲームにありがちなサブキャラの掘り下げができていないといった現象が起こっていません。こうなると、低価格の尺の短さは「要点がまとまり、短時間で楽しめる娯楽」としての側面を前面に出すことができる、長所になります。

 上記の通り、本作は物語の構成に補助される形でヒロインの問題を深掘できるという他にはない要素が光るのです。


〇展開は予想できるが、陳腐ではない

 さて、以下は本作の気になった点です。まず、一点目。それは本作の展開は大筋として予想できてしまう部分があることです。例えば、リルゥ編でリルゥの魔力が弱まっていることが分かった時点で、言語問題が重要になるだろうなということが予想できてしまいました。他にも予想できる展開は何箇所かあります。私がプレイしていた時はその予想にどれだけ一枚絵という衝撃を与えてくれるかどうかが勝負だなと思いました。しかし実際に用意されている一枚絵は10枚。同人作品であることを加味してもお世辞にも多いとは言えません。その意味で、本作は敗北しているとも言えます。

 しかし、私は不思議と本作にストレスを感じていません。理由は、陳腐に感じなかったからです。本作のキャラクターは最終的には幼稚、意味不明な行動をする者がいません。どのキャラも信念を持って生きています。そのキャラクター達の頑張りも丁寧に描写されています。よって私は、本作は「予想はできたけど、陳腐、幼稚には感じなかったので結果オーライ」だと感じています。

〇ファンタジー要素がややくどい

 次に気になった部分の二点目。それは沖縄由来のおとぎ話要素と、リルゥ周りの魔法要素があまりにもくどく、複雑すぎるという点です。本作は下記で述べますが、UI面が非常に貧弱です。このUIで複雑な設定を完全に読み込むほどの周回を読者に強いるのは無謀だと私は感じます。

 無論、ファンタジー要素が不必要だとは全く思っていません。ただ、全体の構成からもう少し減らして、キャラクターの掛け合いや恋愛描写に回して欲しかったと一プレイヤーとしては思ってしまいます。だからこそ、物語の重要な真実の公開でさえも、本編に導入せず(尺を掛けず)、物語終了後に好きな人だけ見る形式にしたのは正解だと私は思いました。

☆キャラ(35/40)


 上記の通り、キャラクターには非常に好感が持てました。特に紬が出てきたあたりから、キャラクターの掛け合いが面白くなってきましたね。
 そして、何よりこの作品のキャラクターの良い点はキャラクターデザインの段階で所謂他の二次元キャラのようにおっぱいが不自然ではないということです。つまりおっぱいの膨らみが大変リアルなことですね。リルゥや紬が作中で巨乳扱いされています。本来、現実を見ればこれが適切な反応なのです。私達プレイヤーは他の作品に毒され過ぎている面があります。その意味で、キャラには点数を加えたくなりました。
 さて、キャラクターとして最も好きなのはリルゥです。やや記号的なキャラであると感じる面もありましたが、彼女の警戒心が島の仲間と、何より光によって徐々に解かれていく様は本当に丁寧でした。それでいて無器用なリルゥには本当に愛らしかったです。
 明、紀里子、紬、兼城も良いキャラをしていたと思います。特に明と紬はそれぞれ単独で章をもらっているだけあって、素敵なキャラをしていました。明は生意気可愛く、紬はおっとり巨乳ほんわか可愛いです。特に紬の仕事の描写は、「何ができていないのか」が明確に描写されていたため、非常に分かりやすく、読んでいて心に刺さりました。
 そして、何より主人公である光。彼は賞賛されるべきでしょう。最後まで努力し、覚悟を決めた光は非常に格好よく感じました。
 総じて、低価格ゲームにできる限界まで、キャラクターの魅力を引き出せていたと考えます。

☆その他(2/10)

 本作の最大の弱点はシステム面です。最低限の機能はあるものの、やはりQセーブ、Qロードくらいは導入して欲しかったです。また例によって、バックログからのシーンジャンプもない。加えてセーブも50スロットあるものの、起動してからいちいちスクロールしなければならないタイプでストレスになりました。

 音楽はフリー音源だけあって、良曲だと思いますし、場面毎の選別も上手いと感じます。

 世界観ですが、これは弱いと言い切れます。上述した通り、あまりにもファンタジー要素が独り歩きしている印象がありました。複雑過ぎる上に、正直、ご都合主義を感じる場面も多々ありました(リルゥ編です)。

 総じて同人作品であることを考慮しても音楽の分、2点が限界だろうと考えています。かなり残念な要素です。

☆総括(81/100)

 総合的には名作(A)認定です。とにかく安価で良シナリオ、特徴があるキャラクターを楽しみたいという方にはおススメできます。あとがきで森氏が仰っていたこととして、ミステリーに頼らず、心理描写だけで勝負するというコンセプトがある。ストーリーで勝負したいと考えていることが挙げられていました。私はいずれもある程度は実現できたのかなと思います。

 何より、私が伝えたかったのは、ボーイ・ミーツ・ガールをヒロイン脱落型のシナリオ(本作はギャルゲーではありませんが)で実現できた点。そして、キャラクターに焦点を当て切ることに成功している点。この二点だけで魅力を感じます。これほどの作品を制作するのは、主に取材面で非常に大変であっただろうと想像できます。制作陣の方々には心からの賛辞を送りたいと思います。本当にありがとうございます。また、稚拙な長文感想にここまで付き合ってくださった読者の方々にもお礼申し上げます。


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