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BUMP OF CHICKENに寄せて――あなたはぼくらの運命の人

突然だが、私はBUMP OF CHICKENが好きだ。
BUMPファンは尋常じゃなく熱狂的な人が多いので、あまり声高に主張するのは憚られるけれど、小学生の頃からずっと、一番好きなバンドだ。

年末、カウントダウンジャパンにもBUMPを見に行った。来場者の7割くらいがBUMPグッズを身に着けているという、これはフェスではなくワンマンライブなのでは? という異様な状況で、一番でかいステージの前で数万人がみっしみしに密集して生BUMP、藤君の生歌を聴いた。聴きながら、なぜBUMPの曲がこんなにも刺さるのかわかったような気がしたので、書く。

以前、BUMPの曲をあまり知らない知り合いから、「BUMPは綺麗ごとを歌っているイメージがある」と言われたことがある。
BUMPって意外と、ぱっと見でわかるような癖というか、わかりやすい特徴がないので、傍目に見てそういうイメージを持つ理由はわからないでもない。でも実際には、彼らの曲はその真逆だ。ほぼすべての作詞作曲をしているボーカルの藤原基央ほど、綺麗ごとを徹底的に排した歌詞を書く人間はいないと思う。

そもそも、BUMPの歌は圧倒的に「再会できない」「そばにいない」「君は一人じゃなくない」「特別じゃない」。
たとえば、『天体観測』も、『スノースマイル』も『Ever lasthing lie』も「君と僕」の恋愛感情的なものが歌われるけれど、最後はどれも「僕」は一人きりで、「君」との奇跡の再会はない。『天体観測』は“二分後に君が来なくとも”だし『スノースマイル』は“君の居ない道を”だ。『Everlasthing lie』の二人に至っては再会できないまま死んでしまう(!)。

世の中では、数えきれないほどの楽曲が散々「僕がそばにいるよ」「君を守るよ」と歌っているのに、藤原基央は絶対にそうは書かない。書けない。
なぜかというと、現実に「僕=藤原基央」が「君=私たち」のそばについていたり、助けに行ったりすることはできないからだ。

「そばにいる」と歌うことは簡単だ。そんな歌に救われることもあるだろう。でも、その歌は、誰も味方がいない、自分は独りきりだと感じる誰かの手元で必ず嘘になる。

もう何年も前だけれど、ラジオで藤くんは「俺は頑張るって言葉が嫌い」と言っていた。それは、表面的な励ましの言葉が、極限の状況にいる人間をかえって傷つけ、追い詰めてしまうことを知っているからなのだと思う。
だから彼は決して「そばにいる」と歌わない。

BUMPの楽曲を聴くたびに私は、彼の曲はすべて「僕は君を救えない」というところからスタートしているのではないかと思う。
その中でも、まじで究極だなと思うのはこれだ。

「僕らは皆解ってた 自分のために歌われた唄など無い」(才悩人応援歌)

すごくないですか、これ。
これだけ圧倒的な人気のなかで、これを歌ってしまえる藤原基央のすごさ。
この歌詞を初めて聴いた時はショックだった。でもそれと同時に、藤くんのすさまじいまでの、音楽とリスナーに対する真摯さを感じた。

だって、私のために歌われた歌なんかないことは、圧倒的に事実だ。アーティストが熱烈に「愛してる」「そばにいる」「君を守る」と何百回歌ったって、「君」は「私」じゃない。CDに何万枚か焼かれ、何万回かダウンロードされ、YouTubeで何万回再生される、大量消費される商品だ。

それはもちろん仕方のないことだ。藤原基央も草野マサムネも桜井和寿も越智志帆もユーミンも、どんだけいい曲を書いたって私の為だけに歌ってはくれない。
でもこの世にはたった一人だけ、私のためだけに歌える人がいる。
『才悩人応援歌』はこう続く。

「僕が歌う僕のためのラララ君が歌う君のためのラララ」

誰にだって絶対にいる特別な一人。
それは「自分」だ。
私には私がいる。私のために歌える。藤原基央も草野マサムネも桜井和寿も越智志帆もユーミンにもできないことができる。
これが(たぶん)「僕は君を救えない」から始まった藤くんが編み出した「君」を救う歌だ。

すごいのは、この考え方がBUMPの初期から現在まで貫かれていることだ。
これを書いていて、改めてBUMPの歌詞をあれこれ見ていたのだけど、切り取り方や角度は少しずつ変わっても、全ての曲の根底にこの考え方があるのを感じた。

BUMPの曲は時に残酷なまでに現実だけれど、だからこそどんな立場にいる人のことも取りこぼさないし、同じスタンスを維持し続けているから、あらゆる世代に届く。
一度“BUMP OF CHICKEN”というとげが刺さったら、もう一生抜けない。
そうして雪だるま式にファンは増え続け、物販は異様な規模になり、ツイッターのトレンド入りし、CDJの裏ステージを空っぽにしてしまう。

ああ、BUMPが好きだ。藤原基央が好きだ。
好きになってよかった。

BUMPにとって私は無数にいるリスナーの一人でしかないと知っている。
それでも敢えて言いたい。

あなたたちは私たちみんなの運命の人だ。

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おまけ。
ライブ直後。


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