美浜えり✍

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色なき風と月の雲 1

「長与(ながよ)、喫煙所に吸い殻溜まってたから片付けといてー」 高校を卒業し、この会社のイベントスタッフとして働き始めてからはや3年。 この現場には私よりも若いスタッフはおろか、女性スタッフもいない。そのため、私は新人と同じように雑用を押し付けられる。 一応、某有名男性アイドルのコンサート現場なので、気軽に若者を入れるわけにはいかないらしい。 特に熱狂的なファンは若い女性が多い。アイドルを狙ったストーカーや、本当に恋をしている所謂〈リアコ〉などを近づけないようにし、ト

    • 芸能人妻、デビューします!出会い篇

      ~出会い篇~ 結婚して5年、夫とは離婚を考えている。 出会いは7年前。学生時代のアルバイト先であるカフェにそのまま就職した私は、当時23歳だった。   裏口の鍵を開け、サクッと着替えてブラウンのエプロンを身につける。腰紐をキュッと締めると、7時。 私の朝は始まる。 「聖和(せな)さん、おはよーございます」 エスプレッソマシンの電源を点け、朝一のドリップコーヒーを淹れてテイスティングをしているとバイトたちが出勤してくる。 「おはよう」 とだけ返し、またひと口コー

      • 生理にまつわるアレコレ【女性キャストによる座談会】

        美浜「こんにちは、美浜えり(みはまえり)です。今回は物語の中から女性の登場人物の皆さまにお越しいただきました。題材は〝生理〟です。それぞれ違った悩み等があると思うので、話を聞いていきたいと思います。よろしくお願いします」 「「「よろしくお願いします」」」 美浜 「それでは皆さん、軽く自己紹介をお願いします」 紗楽 「長与紗楽(ながよさら)です。『色なき風と月の雲』に登場しています。職業は女優とモデルです。芸名は美崎サラ(みさきさら)でやってます」 碧 「こんにち

        • #上司ガチャに失敗したので辞めたい

          理想の会社、理想の同期、理想の先輩、理想の上司─ そんなもの、存在しないのがこの世の中である。 製菓学校を卒業し、皆が働きたいお店を掲げて就活しているなか、そんなものが一切無かった私は結局、地元のケーキ屋さんに就職した。 今どきはやりのキラキラしたお店ではなく、素朴で老若男女に長く愛されるお店。しかも、この地域で何店舗か展開している地元密着のお店だ。 それぞれの店舗は昔ながらのケーキをベースに、少しアレンジを加えて個性を出している。 入社式なんてものはなく、事前に社

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        色なき風と月の雲 1

          3度目の初恋

          20代、30代があっと言う間に終わり、 僕は40代に突入した。 学生時代から長く付き合っていた彼女とは、28歳の時に結婚した。しかし同棲もしてから結婚したのにもかかわらず、結婚してから1年で別れた。 結婚しても何も変わらない、そのまま穏やかに過ごしていければそれでいいと思っていたのに、彼女は違ったようだ。  僕はしばらく2人での生活を楽しみたかったのだが、子ども好きな彼女は早く欲しかったようだ。 結婚前に意見をすり合わせておけばよかった。 「私は早いうちに子どもを産み

          3度目の初恋

          ありがとうの強要ってキモイ │端役の徒然 7

          ありがとう その言葉って、強要されて言うものではないですよね? 言われると嬉しいのは確かだけれど。 そしてその〈ありがとう〉を言われたからってへりくだって 「いえいえ」 とかって言う必要も無いと思う。 「ちょっと、これってまだ在庫ある?」 開店直後のこの時間、開店待ちをしていた客の対応と入荷してきた商品を陳列するのに大忙し。 話しかけてこないでほしい。店内はそう広くないので、自分で探してほしい。 少しイライラしながら仕事をしていると、タメ口で話しかけられた。

          ありがとうの強要ってキモイ │端役の徒然 7

          ハルジオン

          みなさんは、ラブレターを貰ったことはありますか。 今、私の手もとには 《好きです。お付き合いしたいです。OKならクリスマスデート行きませんか》 そう書かれたラブレターがある。 それは仲の良い男友達から渡されたもので、宛先は私ではない。 ─ごめん、最低だ 男友達だと思っていた。そのラブレターを受け取るまでは。 彼は服装や持ち物は大人びていて、中学生らしくない。 でも年相応に可愛らしくて。男子らしい少し汚い字だけれど一生懸命書いているのが伝わってきた。 運良く封

          オリジナル小説│端役の徒然 6 無

          ハロウィンが終わると世の中は一気にクリスマス一色に染まる。うちの店も例外ではない。 10月31日の営業終了時刻が近づくと毎年いるのが、 「まだハロウィンの仮装グッズありますか」 と訪ねてくる客だ。 結構多いのだが、例に漏れず仮装グッズは早々に売り切れる。31日当日に残っているのは、インテリアなど置物ばかりだ。 営業終了後すぐにハロウィンのオバケやカボチャなどの飾りはバックヤードにしまい込まれ、すぐ出せるように仕分けしておいたクリスマスグッズを入り口付近に並べる。 す

          オリジナル小説│端役の徒然 6 無

          オリジナル小説│端役の徒然 5 推しと街

          久しぶりに旅をした。 日々に疲れ、仕事のことを忘れたかった。 仕事終わりそのまま電車に飛び乗り、予め買っておいた自由席の切符を改札に通す。 数年ぶりに乗る新幹線は、ガラガラだったあの頃と比べると、だいぶ乗客が戻ってきているような気がする。 都会の駅に停まる度、徐々に座席が埋まってくる。目的地に到着する前には、殆ど空席がなかった。 唯一と言っていいほど、遠い田舎から乗る利点は自由席に座れること、かな。 何年も、恋い焦がれたこの大都市に降り立つと、もう夜もふけた頃なのに

          オリジナル小説│端役の徒然 5 推しと街

          東京カフェ紀行 4軒目

          朝、余裕があればモーニングに行きたい。 いつもと違う場所で目覚めた朝、ベッドの上でゴロゴロしながらスマホで[モーニング]と検索する。 大手チェーンやどこでも食べられるお店を除外しながら、目ぼしいお店をピックアップした。 今いる場所から歩いてすぐだ。 ぱぱっと身支度をし外に出ると、想像以上に明るくて目を細める。 「まぶしい…」 店に着き、自動ドアをくぐると驚いた。まるで高級ホテルのような内装。シャンデリアまである。 来るお店を間違えたかな、と店の名前を確認するも、

          東京カフェ紀行 4軒目

          オリジナル小説│端役の徒然 4 夏の音

          皆さんは何を見て、何を聞いて、夏を感じますか? 私は、子どもの植木鉢を持ち帰るお母さんと、子どもの声。 私の頃は自分で持ち帰っていた気がするのだが、今時の小学生はそうなのだろうか。 よく分からない。 「ひーろ、ひろくん」 バタバタと子どもが店内を走り回る音、おもちゃを買ってもらえなくて泣き叫ぶ音、我が子の名前を呼びまくる音… この時期は、いつにもまして色んな音で溢れかえる。 セミの鳴き声もそうだし、なんならここ数年で急激に増えたハンディファンの音も。 「元気だなぁ」

          オリジナル小説│端役の徒然 4 夏の音

          東京カフェ紀行 3軒目

          暑い、暑すぎる。 せっかくの休日も、暑さで起きてしまう。 もう少し寝ていたいのに。 ミーンミーンなんていう爽やかなセミの鳴き声なんてもう何年も聞いていない。ジリジリシャンシャンと鳴き、暑さを何倍増しにもするセミの鳴き声ばかりだ。 子供の頃の記憶では、クーラーなんて滅多に点けず、扇風機だけで夏を過ごせていた。そんな何十年も昔ではなく、ほんの十数年前の話だ。 びっくりするほど毎年暑くなり、それでもあいかわらず生活するためには外に出なくちゃいけないし、電気代も上げられて、そ

          東京カフェ紀行 3軒目

          東京カフェ紀行 2軒目

          月曜日、午前中は空きコマなので いつもこのカフェに足を運ぶ。 駅から大学の間にある丁度良い場所で かつ、隠れ家のようなお店である。 1階でオーダーし、2階へ。 客席はとても少ないが、 定位置は窓際の3人がけ。 毎週ほとんど開店と同時に行くのだが、 そこにはいつも先客がいた。 3人がけの端と端、 真ん中の1席を空けて座る。 先客はいつも、何かを読んでいる。 資料だったり、冊子だったり、 きれいに整えられた爪や モノトーンで揃えられた服装は いつみても洗練されていた。

          東京カフェ紀行 2軒目

          東京カフェ紀行 1軒目

          日曜の夜。東京の、キラキラを纏う街から 少しだけ離れた場所に、それはあった。 高架になった線路の下をくぐり抜けると 急に雰囲気が変わる。さっきまでの キラキラは夢だったのだろうか。 そう思ってしまうほどに。 そんな中、場違いなほど キラキラと輝く建物があった。 今回の目的地のカフェである。 扉を開くと、驚いた。狭いのだ。 訪れる前に少しだけ、お店のことは リサーチしていたのだが、 サイトの中の写真を見る限り もう少し広かったはずだ。 これは、このパターンは、 写真以上

          東京カフェ紀行 1軒目

          オリジナル小説│端役の徒然 3 駐車場

          田舎の店には駐車場が必須だ。 しかも広めの。 大概客は車で来店する。 しかしこの店は駐車場が狭いのだ。 すぐ満車になり、 空き待ちの列が交通の邪魔になる。 クラクションの音が鳴り響き、煩い。 周りには他店の広い駐車場があるのに、なぜ そんなにもここへ停めたがるのだろうか。 待つなら向こうに停めればいいのに。 どうせ買い物するでしょ。 そう思いながら眺めている。 田舎あるあるなのかもしれないが、 駐車の仕方が雑だ。まっすぐ駐車しないし 線からはみ出す。酷いやつは2車両

          オリジナル小説│端役の徒然 3 駐車場

          オリジナル小説│ぼくが僕になるまで│パラレルワールド

          ぼくには父親がいない。 戸籍の父親の欄は空いている。母はぼくを 未婚のまま産み、育ててくれている。 やりたい事は何でもやらせてもらえて、 片親ながら何不自由なく育ってきたと思う。 ただ母は、いつも忙しそうだ。 朝から晩まで働きに出て、家に帰ってきても パソコンと向き合っている。しかし、 いつも学校が終わって帰宅するときちんと 夕飯が用意されていて、 冷めていても美味しいところが凄いと思う。 〈学校お疲れさま。レンジでチンしてね。 大好きだよ ママ〉 そう書かれたメモは

          オリジナル小説│ぼくが僕になるまで│パラレルワールド