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0 愚者ー旅の始まり

はじめサトゥルヌスが天の高みから
息子のユピテルを逃れて降り来た
その領国を放逐されて。
往時、高い山々に
散らばり居た人々を
一緒に集め、法を守らせるべく
皆にそれを示した。
その郷は、当初彼が
隠れ潜んだことからラティオと呼ばれた。
彼の支配のもとにあるうちは
幸福な黄金時代であったとやら言う。
彼はその民を義しく司り
安息と平和を与えた、と。

カルターリ・大橋喜之訳(2012) 西欧古代神話図像大鑑全訳『古人たちの神々の姿について』

カルターリの『古人たちの神々の姿について』は、サトゥルヌスの章を歴史と寓話をまじえたものとしてヴェルギリウス(B.C.1世紀頃のローマの詩人)の詩の紹介から始まります。

サトゥルヌス=ギリシャ神話のクロノス(時を司る神)とローマ神話のサトゥルヌス(農耕の神)が融合した神様です。

占星術では土星(Saturn)に対応し、「試練や制限をもたらすもの」として古くは「凶星」として恐れられていました。

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ゴヤの絵画「我が子を食らうサトゥルヌス」のように陰惨で憂鬱なイメージもあるサトゥルヌスですが、ローマ神話では豊穣な大地を司る農業の神様なのです。

ゼウス(ユピテル)とクロノス(サトゥルヌス)による神々たちの壮大な親子喧嘩 戦い「ティタノマキア」により世代交代した後、ローマで人々に農業やブドウの剪定を教えて感謝され、サトゥルヌスが統治した時代は「黄金時代」と呼ばれました。

また、「ティタノマキア」以前のクロノスの統治時代も、ヘシオドス「仕事と日々」によれば同じく「黄金時代」だったそうです。
その間は、「老い」も「争い」もなく、食べ物など必要なものは自然に生まれるので「労働」もなかった…。

……サトゥルヌス、いい神様じゃん

ギリシャ神話では「Phaenon(ファエノン):輝く者」という名も持ち、「錬金術のシンボルとしては、サトゥルヌスは黄金に近い存在とみなされ、大鎌を手にした老人サトゥルヌスの図像は重要な役割を果たしている」(ハンス・ビーダーマン「図説世界シンボル事典」より)など、土星の「暗い」象徴とは正反対のまばゆい面も。

いろいろと土星について調べているうちに冒頭の詩を読み、心躍りました。

素晴らしい黄金時代を築いたものの戦いに負け、ここからまた新しい神話が始まります。
息子ゼウス(ユピテル)に追い出されたにも関わらず、ワクワクしているクロノス(サトゥルヌス)の姿が頭に浮かんできたのです。

まさに、タロットの「愚者」のイメージ。

この絵を描いた後、「『愚者』がタロットの始まりの物語なら、サトゥルヌス(クロノス)の新たな旅の物語を最後まで描いてみたい」という気持ちが生まれました。

とはいえ、タロットの一般的な枚数は78枚。
か、描けるのかしら……。

途中で飽きるのかもしれないし、描けたとしてもいつ完成するのかわかりません。
まさにこれから何がどうなるのかわからない、始まったばかりのあやふやな「愚者」の状態です。
「愚者」のサトゥルヌスは私自身でもあり、タロット制作の旅も始まったところなのです。

しかし、土星は物事を根気よく続け結果を出すことを後押ししてくれる星でもあります。
時間は掛かっても、いつか完成できますように。
(サトゥルヌスの加護があることを信じて)



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