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2 女教皇 ー 生命を育むために

「生まれてくる子は(子の)父より聡明で強くなり、お前の代わりに神々の王の地位につくだろう…」

この予言を聞いた王たちは予言が実現することを恐れ、我が子が生まれるとすぐに、または生まれる前に子どもを呑み込んでしまいました…。

これはギリシャ神話のお話です。

王「たち」というのは、ほぼ同じ予言が王権二代に渡って繰り返されたから。
最初はこのタロットの主役(?)の時の神クロノス(サトゥルヌス)です。
クロノスは、妻の女神レアが生んだ子を次々と丸呑みに。

次はクロノスの息子ゼウス。
父と同じ予言を受けると、自分の子どもを身籠った知恵の女神メティスを騙し、彼女ごと体内に取り込みます。

今回の「女教皇」は、先ほどのレアやメティスのような女性もイメージして描きました。

予言を知ってしまったとき、
我が子を呑み込もうとする夫の意図を察したとき、
それでも受け入れるしかないと悟ったとき、

レアやメティスの様々な瞬間が想像できますが、いずれにせよ静寂の中にあって凛とした佇まいです。
ある種の透明感が漂う瞳で、じっとこちらを見据えています。

二元論

新たな世界の創造に取りかかろうとした「魔術師」の次は「女教皇」。
数字も「始まり」を表す1から2に進みました。

過去と未来、始まりと終わり、光と影、表と裏、生と死、男性原理と女性原理…

などなど、「対」となるものは数多くあります。
ウェイト版に描かれた二本の柱は二元論を表していると言われるように、その間に座る女教皇はあらゆる「対」の均衡をとろうとする存在であるかのようです。

「こちら」と「あちら」という概念で生まれる二元性は、柱だけではなく「前景」と「後景」にも。

まず、「前景」には手に持った巻物で、やや膨らんだお腹を庇っているかのような女教皇が。
彼女の中に存在している(かもしれない)生命をそっと隠している巻物には、彼女の大切なものを守る知恵が書かれているのかもしれません。

そして、女教皇はまるで門番であるかのように「後景」の前に。
女教皇が座っているために「後景」の全容を見ることができませんが(意図的に隠しているのかはわからない)、隙間からは凪いだ海や(島になっているのか)御神木のようなザクロの大樹が。
海は生命の源、女性性や豊かさ、神秘性。
ザクロは出産や生命の繁栄と豊穣のシンボルです。

女教皇の頭上では、月明かりが世界を優しく照らしています。
これから満ちていく月は、海やザクロと同じように女性性や生命を表すだけでなく、物語がまだ始まったばかりであることも表しています(逆位置になると、新月前の欠けていく月の向きになるのも面白いですね)。

はたして、「前景」と「後景」はどんな関係なのでしょう?
前景にいる女教皇によって後景にある生命の神秘は守られているのか、それとも、後景にある生命の神秘によって前景にいる女教皇の巻物(叡智)が生まれたのでしょうか……?

※ 「月」「女性性」「生命」「海」「聖母マリア」の象徴とされるものは何でしょう?探してみてくださいね。
ヒント:丸い

生命を繋げるために

さて、冒頭の神話には続きがあります。

再び出産したレアは、子どもの代わりに産着で石をくるんで赤子と偽り、クロノスにいつものごとく丸呑みさせました。
密かに安全な場所に預けられ、クロノスの知らぬところで立派に成長したのが後の神の王ゼウスです。
(その後ゼウスに追い出されたクロノスの姿が、「愚者」のカードの旅立ち)

一方、ゼウスの体内に取り込まれてしまったメティスは、引き続き「知恵の女神」として体内からゼウスに助言を与え続けます(これによりゼウスは知性がアップしたそう)。
そして、メティスの胎内にいた子は、ゼウスの大のお気に入りの娘「女神アテナ」としてゼウスの頭から誕生しました(アテナも知恵の神)。

こうしてレアやメティスは「慈愛」と「悲しみ」という二つの狭間にありながら、「知恵を使う」ことで生命を繋げたのです。

ところで、本来の女教皇には、女教皇ヨハンナ(男装し教皇の地位まで登り詰めたものの、出産によって女性であることが発覚したという伝説の女性)がモデルとされていたり、聖母マリアの姿も重ねられています。

高潔・純潔・純粋さを表す百合を手に、マリアに神の子が受胎したことを告げる大天使ミカエル

生命の神秘を知る「母」であり、我が子(キリスト)が背負う運命を既に理解していたという点で、聖母マリアもレアやメティスと同じであると言えるでしょう。
このタロットでは、聖母マリアのシンボルである百合は巻物の背を彩っています。

このように、レアやメティスが持つ「女性原理」が生み出す生命にとって、ゼウスやクロノスの行動のような「男性原理」が時に脅威となることも。
豊穣や繁栄、平和を願いつつも、時には厳しい自然の掟や私たちが伺いしれないような神の摂理が働くことがあります。

女教皇の姿は、そのような時にあっても静かに受け入れる精神性-しなやかな強さを持つこと、苦難は叡智によって乗り越えられることを伝えています。

女教皇が知る「生命の真理」を伝授してもらい、タロットの主役(?)サトゥルヌスはまた次の物語へと進んでいきます。

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