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Food|Go To Eat キャンペーンはガストロノミーを救うかもしれない

Go To Eatキャンペーンが10月からスタートして、まもなく1カ月が過ぎようとしています。「予約管理が煩雑になった」とか「ポイントを使える11月からの混乱が心配」といった意見も聞きますが、まわりのレストランの話を聞く限りでは、おおむね利用者は増えてきているようです。

レストラン予約サイトに登録しなければGo To Eatキャンペーンの対象店になれないため、申請をしていないお店もあって不公平感があったり、そもそもそんなことをしなくても強烈なリピータをもって客席15席以下くらいの高級店では、あいかわらず予約が取れない状況が続いていたりと、一概に「よい政策だ!」とは言えない側面もありそうです。

あわせて、Go To Eatキャンペーンでぼんやりと見えてきた消費者の動向としては、鳥貴族錬金術のような例は別として、「日常使いのお店で貯めたポイントを高級店で使う」という流れが出てきています。

じっさい、僕もそのようなことを考えていて、うまく予約サイトを活用してポイントを稼いで、行きたいと思っていたレストランに行こうと計画をしていますので、同じような人はかなり多いはずです。

Go To Eatキャンペーンで付与されるポイントは、基本的には国が国民から徴収した税金によって賄われています。これって、ちょっと前によく言われたベーシックインカムの実装実験なのかもなと思ったときに、「Go To Eat キャンペーンはガストロノミーを救うかもしれない」と思うようになりました。

ガストロノミーに税金を投入すればいいのか

僕は以前から、「ガストロノミーには税金を投入すべき」という意見をもっていました。それは、文化・芸術とよばれるものすべてに言えることなのですが、経済活動に必ずしも直結しない高度な文化・芸術活動については、国が保護して支えるべきだと思うのです。学校や宗教のように課税の形態を変えるのでもいいと思います。

それは前提に「文化・芸術を推し進めることによって人類は進化してきた」という僕自身の価値観によっています。以前もちょっと書いたのですが、文化や芸術は、経済的に満たされなくても人生を豊かにすることができるもので、経済活動にすべてを取り込むことでは、発展を阻害するのではないかと思うのです。

たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった4月、飲食店の営業自粛の要請に対して、高級レストランのシェフたちが立ち上がり、休業補償を国に求めました。その行動に対して、「一生食べられないような高級店は潰れてもよし」という意見が一部ありました。

レストランを愛する者としては、非常にくやしい言葉であると同時に、「なぜ高級店は高級な価値があるのか」を広く伝えてこなかった業界(もちろん飲食メディアにいた僕自身も含まれます)にも改善点があると思いました。

一方で、高級飲食店がなぜ素晴らしいのか、という価値を伝えたところで、金銭的な理由で実際に食べに行けない人たちもいるわけです。もちろん、飲食店の企業努力で、料金を下げて利用しやすくすることも一つの方法ですが、そうするとほとんどの負担がそこで働く人にのしかかってくる構造下では、かえって飲食店全体の寿命を縮めるだけです。

ただし、すべての人が高級店に行けるようにしようというのはちょっと違うと思っていて、興味がない人に何をしても届かないので、それよりも高級店で地域の食材を積極的に使って、地元に経済的なメリットを与えることができるレストランや、フードロスやマイノリティ料理(アレルゲン、ヴィーガン、ムスリムなど)を解決しようとするレストラン、その他、経済的な結果は出なくても、文化的芸術的意義の高いものについては、何らかの第三者機関を置いて審査して保護していった方がいいのではないかと思うのです。

もちろん、文化・芸術的な価値を持ちながら、同時に経済的な価値を生み出しているレストランもありますが(特に海外)、日本は当たり前のように安くておいしいものが多いこともあって、食事に高いお金を払う習慣がないので、海外に比べては絶対的に難しいと思いのではないかと思っています。

ただ、それを考えたときに「文化・芸術のためです」と、たいして経済的な努力をせずに補助金だけもらうというのは、補助金など狙わずにきちんと利益を出して人気店になっている飲食店に対して、あまりに失礼過ぎて「ガストロノミーなんて単なる自慰行為だ」という批判がおきても仕方ないと思い、そう簡単には美食を税金で守るなんていのは難しいか、と自分の浅はかな考えを恥じていました。

保護する店を消費者が決める

しかし、今回のGo To Eatキャンペーンは、そのあたりの不公平感がぬぐわれているのかもしれないと思っています。

じっさい、ポイントをもらうのも使うのも、経済活動をしているお客様です。ですので、あまたあるお店のなかから魅力のある店を選んでいるはずです。ポイントがほしいから、食べたくもないお店に行くわけがありません。そして、ポイントを使うときも「せっかく貯めてポイントだから」と高級店の中で魅了的なお店を選ぶはずです。

保護する店を消費者が決めるというのは、僕が考えていた税金を使った高級店の保護よりは平等に思えます。

そうすると、飲食店側も選ばれるための努力をすることになり創意工夫が生まれます。高級店のなかでの価格競争が起きるかもしれませんが、価格が下がっていけばいくほど、今度は「ポイントを使うにはもったいない」というプライスゾーンに接近するので、料理の内容やサービスなどで勝負をすることになるのではないでしょうか。

Go To Eatキャンペーンをベーシックインカムの実装実験と考えた場合の可能性なので、そううまくはいかないと思いますが、すくなくともコロナ禍で客単価2万5000円~2万円のレストランが苦しんでいたなかで、すこし盛り返してきたという実例をみていると、格差社会が広がる未来にあって、ベーシックインカムの導入は画期になるのではないかと、思い始めています。

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ちなみに、ちょっと話はそれるのですが、Go To Eatキャンペーンによってオンライン予約が増えてくれば、事前決済の文化も進めるのも良いのではとおもっています。

ドタキャン・ノーショー(無断キャンセル)による経済損失は年間2000億円(経済産業省『No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート』、2019年)もあるといいます。

こんなことに耐えながら、飲食店をやってる人たちにとっては、やっぱり好きな料理をたくさんの人に食べてもらいたい、という一心に尽きると思います。

飲食業界にベーシックインカムを導入するかどうかは別として、飲食業界に夢を持って入ってきた人たちの一人でも多くが、夢をかなえられるような社会になればいいなと、強く感じています。

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明日のテーマは「Human」。野球の雑誌を作っていたときに感じた「努力し続けられる人が記録を作る」ということを感じたことを思い出したので、そのことについて書きます。

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