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Art|幅45m、高さ7mの巨大スクリーンに映し出された若冲の鶏の間で、あなたは何を感じるのか?

現在、東京・大手町の大手町三井ホールで開催中のデジタルアート展「巨大映像で迫る五大絵師」の内覧会に招待いただきました。

安土桃山時代から江戸時代の絵師、俵屋宗達

宗達の装飾性を引き継いだ江戸元禄期の絵師、尾形光琳

京都でひたすらに細密な絵を描き続けた伊藤若冲

江戸時代後期の浮世絵師の葛飾北斎歌川広重

誰もが名前を聞いたことがあるだけでなく、その作品を思い浮かべることができる絵師が総登場する展覧会ですが、会場には現物の作品はありません。あるのは3面になった総幅45m、高さ7mもの巨大スクリーン。

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このスクリーンいっぱいに、高細密にスキャニングされた五大絵師の作品がさらに拡大されたり、ビジュアル効果や音楽、が加えられたり、時には動いたりして、映し出されるデジタルアートの展覧会です。

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たとえば、宗達の《風神雷神図屛風》と尾形光琳の《風神雷神図屛風》を並べてみたり、重ね合わせてみたり、実際の雷や風の映像や音の効果を加えることで、まったく別の映像作品として作り上げています。

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伊藤若冲の《仙人掌群鶏図》は、大阪・豊中市にある「西福寺」の6枚の襖に描かれている作品です。幅45mものモニターに映った目がくらむような黄金の世界のなかに、6枚の作品1枚づつ映し出されます。

この黄金の世界の鶏という感覚は、本来の作品をみているだけでは得られない体感で、自分自身もその黄金の世界の中にいるような錯覚が生まれます。そのなかに現れる、若冲の鶏。夢や幻のような虚構の世界に、細密に描かれた鶏こそが、そのリアルな世界を信じさせる仕掛けになっていることに気付かされます。

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俵屋宗達の《源氏物語関屋澪標図屏風》には、住吉大社に光源氏が参詣に訪れた日に、偶然かつての恋人・明石の君と鉢合わせになる「澪標図」や、紫式部と空蝉が再開する「関屋図」には、主人公の光源氏や明石の君、空蝉の姿は描かれておらず、ひたすらその周囲で翻弄される人々の描写に終始しています。

その一人ひとりの表情がクローズアップして大画面に表示されるわけです。これがおもしろい。めんどくさそうな顔をしている従者もいれば、コソコソ話を周囲としている者、場面に関係なく職務を全うしようとしている者もいます。こうした細部の拡大表示は、高細密なスキャニングのたまものではないでしょうか。

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この巨大スクリーンでのデジタルアート作品の上映の前には、これから搭乗する五大絵師の作品を部分拡大をしながら、予習的に解説していく解説シアターがあり、これもまた面白いんです。

たとえば、葛飾北斎の有名な浮世絵《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》では、押送船を飲み込むように立ち上がった波の白い泡の部分に下地になる和紙そのものの風合いをみることができるというのは、部分拡大を駆使した解説シアターなら。知らなかった五大絵師の細緻な表現の数々に驚かされます。

この解説シアターは、美術講座の一つとしてとても面白いので、ぜひシリーズ化してもらいたいなぁ。3面シアターとは違った、楽しみ方ができそうです。

3面シアターの上映が見終わると、Digitalh北斎×広重コーナーとして、2人の絵師の代表作「冨嶽三十六景」「東海道五十三次」の一部58点がデジタル展示がされています。

展示が終わると、展覧会グッズの販売もしています。いろいろとチェックしてみてくださいね。

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来場者が「フォトタイム」でクリエイターになる?!

基本的には、撮影は不可なのですが3面シアターでの作品上映のあとにある「フォトタイム」とDigitalh北斎×広重コーナーのみ。「フォトタイム」は、3面シアターの1mくらいまで近づいて撮影することもできます。

これは、来場される人たちの「クリエイティブ魂」に火を付けそうな気がします。

というのもこれまで撮影可能な展覧会はありますが、その多くは「作品の記録」するためのものでした。しかし、今回の「フォトタイム」では、本物の作品を記録することはできません。それよりも、この貴重な巨大な映像空間でどんな撮影をするのかということを考える方が、素直な楽しみ方のような気がします(チームラボの展覧会のような)。

内覧会では、参加されていた方々のお行儀がよく、全体感を撮影している人が多かったですが、違う視点でものすごく拡大したり、人を取り入れて五大絵師とコラボした新しい映像や画像作品が生まれることもありそう。

僕は、この空間にできる人影がおもしろいと思ったので、影ばかりを撮影していました。

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あくまで絵師の作品という前提があるので突き抜けられない僕のクリエイティビティでは、これくらいの発想しか生まれませんでしたが、感性が豊かで既成概念にとらわれない人であれば、巨大と実像をうまく組み合わせてみたり、静止画だけでなく動画も使った五大絵師×Tiktokクリエイターのような現象も生まれるかもしれません。

それまで、とくに古典美術の作品展では作品を鑑賞者が享受する縦型体験が基本でしたが、今回の「巨大映像で迫る五大絵師」では、クリエイターの作品を、さらに鑑賞者の手によてクリエイティブな作品に作り変えていく、横方向でかつ同時進行型なのです。

展覧会の楽しみ方を、来場する人と一緒に作り上げていくといくような完成は、先日書いためるるさんの記事でも指摘したようなことです。現実の世界と距離があった絵師の世界が、これによってぐっと近づけばいいなぁと思います。

実際の作品を見るという楽しみ方ももちろんありますが、たとえば小説から映画までされた《ダヴィンチ・コード》のように、名作とされる作品を使って、いかに別の楽しみ方を提供していくか、という名作の再コンテンツ化の流れの上で、デジタルアートという手法を取り入れた作品を上映しているというのがこの展覧会の本質かなと思います。

そのうえで、付随しているフォトタイムには、アートは享受するだけではない、その作品をさらに作品にする、「北斎で何を表現するのか、若冲から何を伝えるのか」ということを目指している。鑑賞者がクリエイターになりえる、共創型、並走型の新しい美術展の姿があるのではないでしょうか。

展覧会名
巨大映像で迫る五大絵師 ─北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界─
会期
2021年7月16日(金) ~ 9月9日(木) 
会期中、プログラムが毎日入れ替わります。「開催カレンダー」と「上映作品一覧」にてご確認ください。
開催カレンダー 上映作品一覧
開館時間
10:30〜19:30(最終入館は閉館の60分前まで)
会場
大手町三井ホール (東京都千代田区大手町1-2-1 Otemachi One 3F)
観覧料(税込)
一般 2,000円
大学生・専門学校生 1,500円
中学生・高校生 1,000円
※満70歳以上、小学生以下は入場無料。
※障がい者手帳をお持ちの方(付添者は原則1名まで)は無料。
※ご来場時、年齢証明ができるもの、または学生証をご提示ください。

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明日は、Foodの話を。

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