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小さなキノコ模様が生み出す絶対水に濡れない新素材

水をはじく超撥水技術というのは、傘やレインコートのみならず様々な材料に応用が期待されています。

水だけでなくさまざまな液体に対して濡れない生き物の代表例としてトビムシという昆虫がいます。これまでも何度が紹介しましたが、このトビムシは体の表面に微細な構造があり水を完璧にはじくことができます。

このトビムシの体を参考にして、科学者たちは新しい超撥水材料を作ろうとしているんです。今回はそんな研究の1つを紹介したいと思います。

トビムシの持つ微細な表面

この写真を見るとわかりやすいと思いますが、トビムシの表面に水滴がたくさんついています。水をはじく能力が高すぎて濡れずに水滴としてくっついていますね。

水をはじいて水滴にしてしまうトビムシとその表面の凹凸構造(参考論文より引用)

このトビムシの体の表面にはこのような微細な構造とそれが織りなす凸凹構造が存在します。この2つのスケール感の構造が、水をはじく効果を発揮しているんです。

さて、研究者たちはこのトビムシの構造を人工的に作るべく、いろんな工夫をしています。生き物が作り出す構造を人間が人工的に作るのは意外と難しく、全く同じものを安価に作るということはほぼ不可能といっていいでしょう。

とはいえ、全く同じものを作れなくても、同じような構造を作り出すことができれば、同じ原理で水をはじくと考えられます。そこで、どうにかしてトビムシとよく似た構造を作れるように頑張るわけですね。

人工的に小さなキノコ模様を作り上げる

それでは、どのようにすればトビムシと同じ効果を持つ人工的な表面構造を作れるのでしょうか?

研究者たちは小さなキノコ型の形状を大量に用意すればトビムシの表面と同じ効果を持つ撥水材料を作れると考えました。


参考論文より引用

まずキノコ型のナノ構造を作り上げるために、ポリスチレン(PS)基板上に、直径約400 nmの金ドットを約400 nm間隔で配置した正方形のナノパターンを、通常のナノインプリント法により作製しました。

ここで一工夫として、キノコの平均高さを実際のトビムシの表面のナノ構造の高さ(約300 nm)よりも大きい約600 nmに設計しました。どうやら研究者たちの過去の実験結果からキノコが高い方が隣接するナノ構造間に液体をピン留めして、液体をはじきやすくするということがわかっているんです。
次に考えられたのがT字型のキノコの形状に関してです。

ただのT字ではなく、セリフTを採用しています。セリフ体とはフォントの種類ですが、ただのTとは違いちょっと角ばったでっぱりがあるやつですね。

このような角ばった構造があるとより、他のノーマルな構造に比べて、空気を閉じ込める効果を生むことができるんです。ナノ構造で作るのは簡単ではないですが、研究者たちはこのセリフT型のナノキノコをを大量に生やしたシートを作製しました。

参考論文より引用

さらにシート自体がシワを持っており、さまざまなスケールに複雑な構造が織り込まれていることがわかります。このナノスケールのセリフT型と少し大きなマイクロスケールのシートのシワの2つの効果により、超撥水効果を生み出しているというわけですね。

ただのディスク、T字、セリフT字の様子(参考論文より引用)
エタノールにおいてもセリフT字が最も高い接触角を持つ=濡れにくい(参考論文より引用)

このように作製された超撥水トビムシシートは、水だけでなくエタノールなどのアルコールにも有効だったようです。科学に詳しい方なら知っているかもしれませんが、水に比べてエタノールははじくのが難しく、すぐに濡れてしまうという難しさがありました。

しかし、今回作製されたトビムシシートは、まさにその難しさをクリアしたといっても良いでしょう。

最後に

今回はトビムシの持つ表面構造を模倣して、絶対に水に濡れない材料を作る研究を紹介しました。

日本では基礎研究はお金の無駄遣いだと考える人もいるようですが、学術界ではこんな面白い研究をしてるんだと知ってもらえれば、もしかしたら無駄遣いとは思わないのかもしれないです。

また生物の面白さとそれをテクノロジーに応用できる人類の研究力のすごさについても持って知ってもらえたら嬉しいですね。

参考文献

Springtail-inspired superomniphobic surface with extreme pressure resistance


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