【雑記】マズルの長い犬が好き

 人生で初めて犬を認知したのは、母の実家で買われていた犬だったと思う。茶色一色の雑種で、今も残っている写真を見ると、ゴールデンレトリバーや柴犬が混じっているように見える。
 記憶にある中では彼は非常に大きかったが、おとなしく、吠えなかった。母曰く、生まれた直後(母は出産予定日のひと月前から実家に帰っていた)に匂いを嗅がせていたのが良かったのだろうとのこと。
 実際、母の実家にお邪魔すると、とりあえず玄関まで顔を見に来てくれた記憶がある。群れの仲間として認められてはいたようだ。もっとも、面倒な相手だと思われていたようで、そのあとは外と家を出入りできる場所から庭に出て行ってしまうのが常だった。
 人懐こいわけではないが、かといって敵意を向けられているわけではないという関係がそこにあった。
 母が結婚する前から飼われていた犬だったので、自分が小学生の頃には虹の橋を渡っている。前述のとおり、触れ合った時間は少ないものの、犬という生物に対して好感を持っているのは彼の存在が大きい。

 一方、当時住んでいたマンションには吠える犬がいた。
 時折、三階の廊下に繋がれており、近づくものにとにかく吠える。
 幼い時分は、あれがブルドッグというものかと思っていたが、今にして思えばあの高めの鳴き声はおそらくパグだろう。
 三階の三号室の前に彼は陣取り、その奥にある自宅に近づこうとする自分を妨害しているように思えた。外に繋がれていた理由は未だに不明だが、不定期に陣取る彼は恐怖の対象だった。住んでいた当時は就学前だったので親が手を引いていてくれたが、それでも怖かった記憶がある。
 ただ思い返してみると、吠えられているだけで誰かが噛みつかれたとかそういう話はなかった。のちに小型犬というものがとにかく吠えるものなのだと理解してからは彼の行動も当然だったと言える。
 しかし、当時の自分は、目の前のパグ以外の犬は母の実家で飼われている吠えることのないマズルの長い犬しか知らない。
 サンプル数がそれぞれ二つしかないのに、顔が潰れている犬は吠えてきて怖い、という印象を受けてしまった。
 この経験から、マズルの長い犬が好きになっている。
 柴犬はもちろんのこと、シベリアンハスキーやコーギーのような犬といえばこの顔と言った犬種が好きだ。ボルゾイのような小顔なタイプも嫌いではない。
 反面、巷で人気のチワワやトイプードルなどは犬というよりはチワワやトイプードルという生物という認識になっている。
 もちろん、小さい頃にマズルの短い犬に吠えられたトラウマがあるからなのだが、マズルの短い犬は自分の中での犬というカテゴリから無意識に外してしまいがちだ。可愛いんですけどね。

 マズルの長い犬を見るとかつての親しかったような気がする彼を思い出す。雑種だったがゆえに特定の犬種ではないというのもマズルの長い犬全般を好きにさせた一因だろう。
 マズルの長い犬を見るたびに可愛いという感情が起こり、同時に、虹の橋を渡った彼を思いだす。
 いつかまた彼のような犬と出会いたいものである。

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