私達が過去の経験や他人の意見を脳に溜め込み、これらの情報をもとに日常生活を送る。

このシステムのおかげで私達は効率的に日々のタスクをこなせるが、一方では多くの人を苦しめる呪いにもなる。

現実はこうなるだろうという予断や、現実はかくあるべきという思い込みのせいで、新しい視点や斬新なアイデアなどの重要な情報を見落としてしまうからである。

ところが、自己が鎮まった後は、脳内に現れる思考と感情から距離を取れるため、予断と思い込みには簡単に流されないし、誰かの裏切りに失望したり失敗の挫折感に打ちのめされることもない。

それどころか、知識と経験の呪縛にとらわれなくなった結果として、見慣れた物事にも好奇心と驚きを持つマインドが生まれ、物事を斬新な目で見つめる視点が備わる。

もちろん、過去の経験に基づく未来の予想が無意味だとか、失敗を反省しないのが正しいと言いたいわけではない。

無我が生む初心者の感覚は、あらゆる可能性に対して自分をオープンにし、日常の些事にも無上の甘露味を感じられるメンタリティを育てる。

過去の経験や他人の意見を十分に吟味した上で、それが正しいければ素直に採用し、それが間違いならば別の道を探す。

そんな柔軟な態度が身に付くわけである。