「結界」という言葉を知っているだろうか?

結界(けっかい)
①修行や修法のために一定区域を限ること。また、その区域に仏道修行の障害となるものの入ることを許さないこと。②寺院の内陣と外陣との間、または外陣中に僧俗の座席を分かつために設けた木柵。

古来より、日本人が何事かをなす際には、いつも結界が重んじられてきた。

仏道に入った者が寺で暮らすのも、葬儀の場に鯨幕を巡らせるのも、神社の入口にしめ縄や鳥居を置くのもみな結界の一形態。

何らかの象徴で聖なる空間を設定し、参加者を穢れた存在から守るための処置である。

その発想は日本人の日常に浸透しており、たとえば由緒ある商家では、帳場を囲う衝立や店前に下げる暖簾のことを、今も結界と呼ぶ。

茶道にも似た発想は見られ、師範が立ち位置禁止区域に止め石を置き、茶室のにじり口をわざと狭くあしらうのも結界の一種である。

結界の効能を一言で言えば、それは安心感の演出となる。

寺の門をくぐれば、煩悩の対象など存在しない。
神社の鳥居より内は、穢れのない清浄な区域である。
茶室のにじり口の向こうでは、ただ喫茶だけが許される。

いずれも事前に独自のルールを決めることで、安心感が生まれ、そのおかげで参加者は気を散らさずゴールだけに集中できる。

俗世で仏道や茶道を修めるのが不可能とは言わないものの、「私は今守られている」という安心感のあるなしで、修行の難易度が格段に変わるのは当たり前の話だろう。

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