世界で最も幸福な部族
世界で最も幸福な部族。
ピダハン族のことをそう呼ばれた。
ピダハン族はアマゾンの熱帯雨林で暮らす狩猟採集民である。
今もジャングルの中で狩りや釣りを行い、原始時代に近いライフスタイルを維持している。
彼らの存在が科学界で注目を集め始めたのは2008年のこと。
言語学者のダニエル・エヴェットがアマゾンの奥地で1977年から30年に及ぶフィールドワークを行い、その成果を1冊にまとめたのがきっかけ。
エヴェットの発見は多岐に渡り、言語の独自性や狩猟採集社会に特有の思考法など興味深いトピックに事欠かないが、中でも特筆すべきはピダハン族の精神的な健康さである。
言うまでもなく、ピダハン族にはカウンセラーも心理学者もおらず、向精神薬を飲むこともできない。
にもかかわらず、部族の中に自殺、不安障害、鬱病といったメンタルの問題はほぼ存在せず、怒りや落胆といった一般的なネガティブ感情すらほとんど見かけなかったというから驚きである。
先進国の暮らしはピダハン族よりずっと楽。
それでも普段の生活で気が狂いそうになることがたくさんあるのに、彼らにはそのような兆候はない。
事実、ピダハン族の生活はプレッシャーに溢れている。
毒を持つ爬虫類や虫に襲われ、治療手段のない伝染病に怯え、土地に侵入したよそ者から暴力を振るわれることも珍しくない。
そんな暮らしのなかでピダハン族は、先進国でも見られないレベルの幸福を手に入れているのである。
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