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ソーシャルワーカーのスタンス・立ち位置

はじめに

 今回は、ソーシャルワーカーの立ち位置(ポジション)について、個人的に気をつけていること書きたいと思います。
 なお、立ち位置と言っても、面談の際の立ち位置・座る位置の話ではなく、クライエントとの関係、あるいはソーシャルワーカーのスタンス、といったことについて話をしていきたいと思います。
 これがうまくできるようになると、相談相手とのラポール形成(信頼関係構築につながり、面接も行いやすくなります。
 また、この考え方を知らない(と思われる)相談員の対応を横目でみていると、トラブルになったり、相手からの苦情が入ったりすることもあります。

この記事について

 この記事は、これからソーシャルワーカーを目指す人や、現にソーシャルワーカーとして働いている初任者〜中堅ワーカーの方向けに書きました。特に、「ソーシャルワーカーとして相談業務を行いたい」という方に、大切にして頂きたい考え方だと思っています。
 また、この記事は約10分で読むことができます。

ソーシャルワーカーの2つの立ち位置

 それでは、さっそく本題に入っていきたいと思います。個人的には、ソーシャルワーカーは、次の2つのどちらかの立ち位置・スタンスをとっていることが多いのではないかと思っています(研究等によっては、その他の立ち位置・スタンスもあるかと思いますが、今回は、次の2つを取り上げてお伝えします)。

 それは、①対面型と、②伴走型(横並び型)の2つです。

▼①対面型について

 ①対面型では、次のような特徴があると思います。

・表明されたニーズのみに着目している
ニーズとクライエントが一緒(セット)であると捉えている
・そのニーズに、自身の提供するサービスが合致するかどうかのみをみている

 では、これらのことについて、より詳しくみていきたいと思います。

・表明されたニーズのみに着目している
 
 ニーズには、次の4つがあると言われています。

ブラッドショウの4つのニーズ(ニード)
・ノーマティブニード(規範的ニード)・・・
ソーシャルワーカーなど専門家が判断するニード
・フェルトニード(感得されたニード)・・・
本人が自覚しているニード
エクスプレスド・ニード(表明されたニード)・・・本人がニーズを自覚うえで、申し出たニーズ
 コンパラティブ・ニード(比較ニード)・・・他者との比較によって判断されるニード

 これらの内、対面型では「表明されたニーズ」だけに着目し、その他のニーズをみていない(あるいは、みようとしていない)ことがあります

・ニーズとクライエントが一緒(セット)である
 
 次に、「ニーズとクライエントが一緒(セット)である」についてみていきます。これは、次の②伴走型と比較するとわかりやすいかもしれませんが、ニーズとクライエントをセットで考え、それに対してソーシャルワーカーが机を挟んで対面で向き合っているイメージです。
 図で書くと、こんな感じです。

 クライエント(CL)とソーシャルワーカー(SW)が向き合っています。そして、クライエントの表明されたニーズに対して、ソーシャルワーカーは「サービスにあてはまるかどうか」だけを考えています。これは、次で詳しくみていきます。

・そのニーズに、自身の提供するサービスが合致するかどうかのみをみている

 先程の「表明された」ニーズのみに対して、対面型では、自身の提供するサービスが合致するかどうか(言い換えれば、自身の所属する機関で提供できるサービスに合致するかどうか)の判断だけをしています。
 悪い言い方をすれば、「縦割り行政的」、「お役所仕事」と揶揄されるような場合もあるかと思います(決して行政職員を批判しているわけではありません)。

悪い八百屋さんの例

 ここで、①対面型について、具体例をみていきましょう(極端な例かもしれませんが、来所された方の中には、その相談機関でどのような相談ができるか、その機関がどういう役割を果たしているかがわからずに相談に来所される方もみえます)。悪い八百屋さんの例です。

お客さん 「牛肉を買いたいんですけど・・・」

悪い八百屋さん 「うちは八百屋だよ。肉は売ってないよ。」(と、断って終わる)

 さて、次に、普通の八百屋さんの例をみてみましょう。

お客さん 「牛肉を買いたいんですけど・・・」

普通の八百屋さん 「うちは八百屋だよ。肉を買いたいなら、あっちのお肉屋さんに行くといいよ。」(と、断りつつ、他を案内して終わる)

▼②伴走型(横並び型)について

 それでは、次に伴走型の特徴について説明させて頂きたいと思います。そのうえで、先の「悪い八百屋さん」の例と対比して、「良い八百屋さん」の例も交えてお伝えしたいと思います。

 ②伴走型では、次のような特徴があると思います。

・表明されたニーズだけでなく、その背景にある本当のニーズに着目する
・ニーズとクライエントをわけて考え、クライエントと横並びの位置で話を伺う
・そのニーズに、自身の提供するサービスが合致するかどうかだけでなく、「その人に何が必要か」「どのような支援が必要か」を考える

 では、これらのことについて、より詳しくみていきたいと思います。

・表明されたニーズだけでなく、その背景にある本当のニーズに着目する

 しばしば、本人が口に出して表明するニーズは、本当のニーズの一部分でしかなかったり、相談機関の役割をわかっておらず、わかりづらい言い方だったりすることがあります
 例えば、「緊急小口資金(生活福祉資金)の申請をしたい」という方は、「お金に困っているからなんとかしたい」というニーズがその背景にあるかもしれません。「ヘルパーを利用したい」という方は、「介護負担を軽減して少しでも自分の時間が持ちたい」というニーズもあわせ持っているかもしれません。
 このような背景にあるニーズについても目を向けます。

・ニーズとクライエントをわけて考え、クライエントと横並びの位置で話を伺う

 本人の「表明したニーズ」の背景にあるニーズにも着目しながら、クライエントと横並びで、同じ視点で、そのニーズ(あるいは問題・課題)に向き合います

 図で書くと、こんな感じです。

・そのニーズに、自身の提供するサービスが合致するかどうかだけでなく、「その人に何が必要か」「どのような支援が必要か」を考える

 上の図のように、クライエントと横並びになって、「その人に何が必要か」「どのような支援が必要か」を考えます。
 繰り返しになりますが、クライエントの中には、その相談機関でどのような相談ができるのか、その相談機関がどのような役割を持っているか等わからず来所する方もみえます。

 しかし、このようなスタンスで対応ができると、「声かけ」の内容も変わります

 例えば、先の「緊急小口資金の申請をしたい」という方に対して、例えその制度に該当しない場合(例えば、12月から無収入であり「コロナの影響による収入減」とはみなされない事例の場合)でも、その背景にある「お金がなくて困っている」というニーズに着目すれば、「家賃はどのぐらいだろうか(住居確保給付金の申請の検討)」「食べるものに困ってはいないか(フードバンク活用の検討)」「支出の内訳はどうだろうか(延納相談や免除となるものはないだろうか)」等についても確認が必要であることがわかるかと思います(ただし、これらについて伺うときは、なぜそれを伺うのか、意図を相手に伝えることも必要です)。

 それでは、この伴走型(横並び型)について、「良い八百屋さん」の例をみてみましょう。

良い八百屋さんの例

お客さん 「牛肉を買いたいんですけど・・・」

良い八百屋さん 「お、今夜は焼肉ですか?」(表明されたニーズの背景にあるニーズを探る)

お客さん 「最近暑いからカレーライスを作ろうと思うんだけど、夫にパワーをつけてもらいたいから奮発して牛肉カレーにしようかと思って」

良い八百屋さん 「最近暑いですもんね。なに、ご主人さん、暑くて元気が出てないんですか?」

お客さん 「そうなんですよ。食欲も落ちちゃっているみたいで。完全に夏バテですね。」

良い八百屋さん 「そりゃ大変だ。そうそう、ちょうどあそこの薬局で、夏バテに効く漢方を配ってたから、みてみたら?あと、夏バテなら、夏野菜カレーもいいんじゃない。いいカボチャとナスがあるよ。」

お客さん 「あら、それなら買っていこうかしら。」

良い八百屋さん 「ありがとうございます。そうそう、牛肉なら、あっちのお肉屋さんに行くといいよ。」

 どうでしょうか。先ほどの「悪い八百屋さん」「普通の八百屋さん」と比べて、対応が違ったんじゃないでしょうか。それによって、「牛肉を買いたい」という「表明されたニーズ」の背景に、「夏バテの夫の為に、体力回復できるような料理を作りたい」といった本当のニーズがみえてきたのではないかと思います。

 また、このスタンスによって、質問内容もかわってくることも分かって頂いたのではないかと思います。そして、結果として、八百屋さんでも買い物をしてもらえるなど、「自分の所属する機関でも対応できるニーズがあった」こともあるかもしれません。

まとめ

 今回は、ソーシャルワーカーの立ち位置・スタンスについて書かせて頂きました。

 表明かされたニーズだけに着目して、自分の機関で扱っているサービスの適用の可否だけをみて判断する【対面型】ではなく、その人の背景にあるニーズを汲み取り、相手と横並びで、状況、事情を聞きながら専門職として「その人に何が必要か」「どのような支援が必要か」を考え支援を展開していく【伴走型】の支援が、今後重要になるのではないかと思います。

 これらのスタンスを基本として、クライエントへ情報提供し、また選択肢を伝え、決定は本人にして頂く(自己決定)。

 このような立ち位置・スタンスを大切にすると、クライエントにとってソーシャルワーカーは「自分のために考えてくれる人」というのが伝わります。これらは、面談における「信頼関係構築(信頼関係構築については、こちらのnoteも参照ください)」にも役立ちます。

 以上、私がソーシャルワーカーとして個人的に気を付けているソーシャルワーカーのスタンス・立ち位置についてお伝えさせて頂きました。少しでも参考になれば幸いです。

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