見出し画像

アフリカ・ウガンダで世界の中間支援団体と学ぶ、若者起業家支援のアプローチ(2023年6月29日号)

こんにちは、ソーシャルイノベーション事業部の川島です。急に暑くなりましたね、最近ようやく家でも冷房をつけ始めました。

先日、中間支援団体のグローバル会議の出席のため、アフリカ・ウガンダに行ってきました。英国の起業家支援ネットワーク団体が主催のもと、インドネシア、ウガンダ、ケニア、ドイツ、トルコ、ナイジェリア、ポーランド、ボツワナ、日本の9カ国が参加し、各国で行う起業家支援の具体的な取り組みや経験について共有し、学び合ってきました。

今回は、この会議で話された起業家支援において話されたグローバルトレンドについてお話しします。

若者の起業支援にコミットする世界9カ国の仲間たちと

なぜウガンダに行ったのか?

世界で活躍する起業家支援団体のグローバルネットワークで、ロンドンを拠点とするユース・ビジネス・インターナショナル(YBI)が主催しています。参加した9カ国は、英スタンダード・チャータード財団(SCF)から若者の起業家支援のための助成支援を受けており、今回は、その活動を通じた学び合いの場が目的となっています。昨年のトルコでの会議に引き続き、今回も2名で参加しました。

今回の会議では、女性や障がい者など多様なニーズを持つ起業家のためのインクルーシブ施策や、若者起業家のファイナンシャル・ヘルスを主な焦点とし、各国の支援団体による取り組みをもとに共有・議論しました。

起業家支援におけるインクルーシブ施策

YBIとSCFが行う助成枠組みでは、女性や障がい者など、通常の支援枠組みからはとり溢れてきた層に対して、起業のための支援を届けるインクルージョンの考えがひとつの柱となっています。

会議の初日には、参加国の中でも女性や障がい者を対象とした支援を新たに開始した団体の取り組みが紹介されました。

FATE Foundation(ナイジェリア)

  • YBI/SCFによる支援をきっかけに、障がいを持つ参加者も参画できるよう、障がい者支援に知見のある団体とパートナーシップを組みながら、支援プログラムの内容を再編した。

  • 対象層を広げたことにより、障がいを持つ参加者は40%に増加(視覚障害、車いす利用者、小人症の人など)。カリキュラム構成も変更し、例えば、既存のオンラインハイブリッドでは障がいを持つ参加者がプログラム内容にうまくついていくことができないので、対面の場を持つことで直接そばで誰かがサポートできるような体制を確実にするなどの工夫をした。

  • 今回の学びとして、障がいを持つ起業家に対してはどんなふうに語りかけるか、エンパシー(共感)のあるコミュニケーションや、彼らのニーズは何かを理解・尊重しようとしていることが重要であることがわかった。

Cordaid(ウガンダ)

  • CordaidではこれまでYBI/SCFの支援枠組みの中で700人の起業家に支援を提供。そのうち、142人(うち、53人は視覚障害者)の何らかの障がいを持つ方に、今回改めてプログラムのインクルーシブ性についてニーズアセスメントを実施したところ、特に障がいを持っている起業家は資金調達(投資や融資など)が特に困難であること、障がい者同士のコミュニティが見えづらく多様なステークホルダーとの関係づくりが難しいこと、そして障がいを持つ起業家に対して適切にメンタリングできる人材が不足していることがわかった。

  • アセスメント結果に基づき、Cordaidでは特別助成金を提供することで障がいを持つ起業家の財務実績を改善し、金融機関への接続を支援した結果100人が新たに融資を獲得することができた。また、起業家支援を行う他の団体とも連携することで障がいを持つ起業家がより受け入れられやすくなる環境づくりに取り組んだほか、トレーニングを通じてメンタリングにおけるインクルージョン志向の導入にも取り組んだ。

  • 残る課題は、複合的な社会課題を抱える対象層への支援が挙げられており、特に障がいを持つ起業家の中でも、女性・女子のインクルージョンが課題となっている。今後は、女性障がい者で起業を目指す人たちの可視化に取り組む他、彼女たちの社会参画の推進、性に基づく暴力の減少や経済エンパワメントが重要であると議論した。

ETIC.スタッフの伊藤(左)と、FATE Foundationの担当者(右)

若者起業家のファイナンシャル・ヘルス

本会議の助成元でもあるSCFは、英国のスタンダード・チャータード銀行を母体としており、金融機関として各国の若者起業家の金融アクセスの改善を社会的取り組みのひとつとして重視しています。こうした背景から、会議の2日目には若者起業家たちのファイナンシャル・ヘルスをテーマに、各国の支援団体が取り組めるアプローチについて、議論・検討しました。

そもそも、ファイナンシャル・ヘルスとはどういう意味でしょう?直訳すると「お金に関する健康」という意味ですが、ここには脆弱層の金融アクセス、お金に関するリテラシーやビジネスに必要な財務スキルなど多様な要素が含まれています。特に若者起業家にとっては、自らの事業を成長させるために必要な資源について理解しているという他、事業のお金が回るよう適切な経営ができるという面で重要です。

こうした若者起業家を取り巻くファイナンシャル・ヘルスの課題は、これまでも社会的に問題提起はされてきましたが、具体的なアプローチや解決の手法というのはあまり議論されてきませんでした。そこで、今回の会議では世界9カ国からの支援団体の経験をもとに、ファイナンシャル・ヘルス改善のための知見を持ち寄り、体系化されたソリューションの検討に取り組んだのです。

各国の団体と、①ファイナンシャル・ヘルスが良いとはどういうことか、②具体的な課題、③アプローチ方法について議論した内容を以下で紹介します。

①ファイナンシャル・ヘルスが良いとはどういうことか

  • 起業家自身が自信を持って事業に取り組める、メンタルヘルスも良い状態

  • 経済的にも安心・安全な状況で事業に取り組める

  • 自転車操業ではなく、事業の拡大や成長を前向きに考えることができる

②具体的な課題

  • 起業家自身のマインドセット(金融知識に対する抵抗感)

  • 適切な知見・アプローチのできる専門家へのアクセス

  • 創業初期の実績の欠如

③支援団体は起業家のファイナンシャル・ヘルスをどうアプローチしていくか

  • 金融リテラシーやリスクマネジメントに関するトレーニングの提供

  • 起業家同士の経験から学び合うコミュニティの醸成

  • 事業計画づくりのサポートやメンタリングの提供

  • 金融機関への接続支援

  • 投資家、事業会社など多様なステークホルダーを動員した資金調達支援

ファイナンシャルヘルスの良い起業家とはどんな状態か、その具体となるアウトカムを議論

日本・海外の知見をミックスしながら、起業家を支えるグローバルエコシステムを目指す

今回の会議は、昨年のトルコの会議に続き2回目だったため、参加団体同士のつながりも深まり、より踏み込んだ意見交換ができたと感じています。

特に、女性や障がいを持つ起業家たちの支援については、これまでのETIC.の支援ではつながりきれていなかった層にどう繋がっていくか議論が活発化しており、他国の支援団体の取り組みからは学ぶことが非常に多かったです。

日本から提供した知見の多くも興味深く受け止めてもらえたと感じており、その一つにエコシステムや多様なステークホルダーを動員した資金調達・事業創造は、ETIC.ならではのアプローチだと再認識しました。

さらには、高齢化・過疎化する地域における起業家支援が、地域経済やコミュニティ全体の再活性に有効であるという視点も、人口動態の変化の先をいく日本だからこそ提供できる知見だと思います。人口ボーナスの渦中にあるアフリカの国々では、日本のように高齢化率が30%近い社会というのは想像し難いものとも思うのですが、若者の雇用機会創出という意味で起業支援が重要であることは、社会環境が違えど日本と同じです。

海外での取り組みや知見は、日本に持ち込み、そのまま転用できるものではないかもしれません。一方、その社会背景や文化など丁寧な文脈を共有することで、自社会との共通性を自社会との共通性を見出し、クリエイティブな解決策の創出につながっていく可能性も感じます。

今後もこうして、海外との相互交流をインスピレーションに、日本・そして世界の起業家支援のエコシステムを豊かにしていくことに貢献していきたいと思います。

編集後記


再び、川島です。
今回の旅は人生初めてのアフリカ訪問だったのですが、現地の方々のホスピリティのおかげで素晴らしい経験となりました。恥ずかしながら、自分はこれまで「アフリカ」というとなんとなく一括りにしたイメージをしがちでした。しかし今回の会議には、ウガンダ、ケニア、ナイジェリア、ボツワナとアフリカ全土から参加者が集まっており、彼らの交流や会話を横目に、アフリカの国々の間にも多様な文化や民族性が存在しているのを実感しました。
いずれの参加団体も、英語を主言語とする国々であるためコミュニケーションも取りやすいことに加え、ビジネススキルの高さから学ぶことも多く、相互に刺激し合えるパートナーとして協働ができそうなイメージを持つこともできました。もちろんこうした背景には、アフリカという国々が経験してきた被植民地としての経験や解放運動の歴史、そしてつい数十年前・または現在まで続いていた内戦を乗り越えてきた事実があります。こうした過酷な経験があってもなお、明るく朗らかに社会をつくっていこうとするアフリカの人々との交流は、孤独や閉鎖感が取り巻く日本社会にとっても大きな刺激になりえるのではないか、そんなことを思いながら帰国しました。

日本でもアフリカとのビジネスが注目される中、こうした現地の信頼できるパートナーとのつながりは、関心のある日本の起業家に対しても大きなリソースになると考えます。アフリカのみならず、アジアやヨーロッパなど、協働先として海外のステークホルダーを探している方がいらっしゃればぜひご相談ください。海外との交流を通じて、日本のソーシャルセクターを豊かにしていく動きを生み出していけることを願っています。

このnoteは、2023年6月29日に配信したソーシャルイノベーションセンターのメールニュースのアーカイブです。メールマガジンでは、ソーシャル領域に関わるプログラムやイベントのお知らせなども配信しています。
・メルマガの登録はこちらから!
・本記事についてのお便りはこちらからお送りください。お待ちしてます!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?