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行政制度の充実と、民間の力(韓国・ソウル視察から)

こんにちは。加勢です。

コロナとお付き合いして、もうすぐ3年。
東日本大震災、第二次世界大戦を含めても、歴史的にも全世界を巻き込んだ影響というのは、数少ないのではないかと感じています。

東京オリンピックは、「コロナからの復興となる」と言われていましたが、無観客で開催され、今回の中東カタールで行われているワールドカップがその意味ではコロナからの復興になっている印象があります。

日本は、ワールドカップのベスト8を目指してクロアチアと対戦し、結果は皆様が知っている通りですが・・・ここにはもう一つの可能性として、ワールドカップの場で日韓対決が0.0001%かもしれませんがありました。(結果は・・・ABEMAでぜひ!)

今回は、11月に大学の研究者の皆様と韓国の社会的企業を訪問し、その視察で得た学びと視座を共有したいと思います。

衝撃を受けた政権交代による影響

今回の韓国訪問は、トヨタ財団の研究助成「社会的企業の生態系における組織の持続性と担い手のキャリアの経済社会学的研究:日韓4都市のネットワーク比較分析を通じて」を受けている研究者の皆様と、本来は2020年2月に訪問を予定していたものです。
新型コロナウィルス感染症により、延期を続け、ようやく2022年11月に訪問することができました。

社会的企業は、政権交代によって大きな影響を受けます。韓国では、革新系と保守系の二大政党制で政権運営をしていますが、社会的企業を推進しているのは、革新系の政権です。それが、今年5年ぶりに保守系が政権をとり、社会的企業の担い手は大きな影響を受けています。

ソウル特別市も例外ではありません。ソウル特別市では、市民活動・非営利セクター出身の革新系市長であった朴元淳氏が、2011年から3期連続で約10年間担っていました。ところが、2021年より保守系市長に変わったことで、朴元淳氏の政策の中心であった社会的企業推進の取り組みが、政権交代によりすべて一掃される動きが出ています。

2015年、市長の肝いりでスタートしたソーシャル・イノベーションパーク。この施設は、既存施設の利活用を目的とし、社会的課題を解決するために研究機関、市民団体、企業等を集積させたものです。これが今回の政権交代により、すべてを取り壊し、マンションが新たに建設されることが決定されました。(前政権の象徴を破壊することで、新政権になったことを市民により印象づけることが目的と言われています)

最後の日本人訪問者と言われた、ソーシャル・イノベーションパーク

行政制度の充実と社会的企業

社会的企業育成法(※韓国政府 企画財務部)とは、2007年に制定された法律です。この認証を受けた団体は、人件費や事業費につかえる補助金を5年間受けることができます。その期間に事業モデルを構築し、収益を上げていける組織になることが望まれていて、認証を受けている団体は、行政の入札にて加点をされるため、行政の委託や調達などの仕事を得ることが可能になります。

今回訪問させていただいたThe Sarangは、自社で生産するプロダクトをBtoB、BtoCで展開し、発達障害の支援をしています。しかし、事業で採算を取り続けていくことは難易度が高く、現在は財閥系の法律事務所の特例子会社として社会的企業の活動を継続しています。

社会的企業には、事業型NPO(非営利)とインパクトスタートアップ(営利)の両方が存在しており、イギリスのCIC(Community Interest Company)に近いかもしれません。
その他にも、社会的協同組合(※韓国政府 企画財務部)や、自活企業(韓国政府 保健福祉部)、マウル企業(※韓国政府 安全行政部)など、法律で定められて、社会的事業を担える組織を設立し民間に任せています。日本の認可事業のような形ではありますが、より福祉的に展開している印象を持ちます。

近年は、韓国においてもソーシャルベンチャーが注目されてきています。保守系となった現政権では、産業振興が大きなテーマかつ投資を呼び込む可能性を持ち、社会的企業に対しては懐疑的なアプローチをとりつつも、ソーシャルベンチャーの推進には積極的という声も聞こえてきます。

参考までに、すべてを把握することは難しいですが、韓国における社会起業やソーシャルベンチャーなどの施策はこの資料が一番良くまとまっています。関心がある人はぜひ御覧ください。
韓国における社会的経済組織の育成政策と経営実態(呉 世雄氏立命館大学産業社会学部准教授)全労済協会

財閥企業の創業家出身の若手起業家の存在


政治・行政や制度が強い韓国の社会的企業において、Root Impact創業者のKyungsun Chung 氏は異彩を放つ存在です。Root Impactは、社会起業家が集積するビル『HEYGROUND』を、Hyundai(ヒュンデ)一族の関係や、Googleなども巻き込みながら、25億円の資金調達を行い建設しました。ソウル市内に2か所あり、100団体以上が入居しています。

実はETIC.でも、大手の不動産会社から社会起業家を集積するコワーキングスペースやインキュベーションオフィスのお話をいただいたこともあります。しかし、短期的な成果を追求すると投資効果が合わず、企画段階では議論までとなり、進まない現状があります。

一方、日本でも任天堂の山内氏一族が、社会的な活動をスタートしており注目を集めています。Kyungsun Chung氏もHyundaiの創業者のお孫さん世代であり、創業者の孫世代は今後注目していくべき存在なのかもしれません。

ソーシャルフランチャイズを提案する障害者を雇用するカフェ(HisBeans)

今回、いくつかの団体を視察をさせていただきましたが、ETIC.のプログラム参加者と似ていると感じた団体はHisBeansでした。

代表のイム・ジョンテク氏にお話を伺いました。
HisBeansは、日本でもいくつかの会社が展開している「障害を持っている人を雇用しているカフェ」くらいに思って話を聞いたり、資料を読んだりしていたのですが、彼から「ソーシャルフランチャイズ」というワードが出てきました。

韓国では、日本よりも障害者雇用率に対しての罰則が厳しく、範囲も企業だけではありません。医療法人や行政機関なども実施が求められています。その文脈から、企業の障害者雇用率を達成するために、社員の福利厚生のためなどに存在する企業内カフェにHisBeansは注目をしました。当該の企業や団体が直接障害者を雇用し、カフェ運営のノウハウや、店舗マネージャーはHisBeansから派遣するモデルで店舗を広げています。すでに、韓国国内で11店舗、マニラにも1店舗出しています。

初期投資を必要として展開するモデルではないので、今までは自己資金で運営をしてきましたが、その一方で、規模の拡大や他国への展開を見据え、投資による資金調達についても検討をしはじめたそうです。日本での展開にも関心があるため、投資や誘致をしたい方は問い合わせていただいたらお繋ぎできます。

HisBeansは、社会的企業認定を今まで受けていませんでしたが、規模拡大と行政の入札において加点を獲得するために、今年から社会的企業認定を受けることになっているそうです。

HISBEANS COFFEEのウェブサイト / YouTube「우리는 히즈빈스입니다. (We Are Hisbeans)」
(2021年11月16日 Hisbeans Official)


- INFORMATION -

オンライン連続セミナー【第2回】(録画配信あり)
「居場所づくりは地域づくり」〜地域と居場所の新しい関係性を目指して〜


公民館での絵画教室を行うのに、「子どもに絵を教えるのが目的」と言えばみんなが納得したが、「子どもの居場所づくりが目的」と言ったら納得されなかった、という事例に出会ったことがあります。子どもに絵を教えるのは「地域づくり(地域コミュニティ活動)」だが、子どもの居場所づくりは「困っている子のための福祉活動」だと受け取られたからかもしれません。

「居場所づくり」は、しばしばそのように受け止められてきましたし、それはあながち間違いではありませんでした。
同時に、この数年、地域社会での人間関係の希薄化、ソーシャルキャピタル(つながり)の低下などが地域課題として浮上し、「居場所づくり」は地域課題を解決する「地域づくり」でもあるという視点が、人々の間でじわりと共有されてきました。
「困っている子のための福祉活動」としての居場所づくりと、「人間関係の希薄化という地域課題解決の処方箋」としての居場所づくりは、同じなのか違うのか。「居場所づくりは地域づくり」と言えるとして、それはどのような視点、スコープ、そして意味においてなのか。

第1回セミナーでは、「地域が持つ課題発見力と、居場所やテーマ型NPOが持つ課題解決力の両輪・連携が鍵。発見力と解決力の両面が育つことで、居場所が本来の良さに到達できるという意味では、発見力ある地域の存在が重要」など、居場所と地域の関係性についてさまざまな視点が交換されました。

第2回セミナーでも、居場所づくり・地域づくりの運営者や実践者を登壇者に、参加者とともに居場所と地域の関係性について一層考えを深めていきます。さらに気づきや学びを得る機会となることを願って、皆様からのご参加をお待ちしております。

【開催概要】
◎開催日時:
第1回目:11月8日(金)16:00〜18:00@オンライン【終了しました】
第2回目:12月20日(火)16:00〜18:00@オンライン
 <パネリスト(第2回目)>
 ・NPO法人新座子育てネットワーク 事務局長 竹内 祐子 氏
 ・NPO法人つくばアグリチャレンジ 代表理事 伊藤 文弥 氏
 ・NPO法人 f.saloon 代表執行役 守谷 克文 氏
第3回目:1月下旬(予定)@オンライン

◎参加対象
・​​日本全国の地域で、子どもや高齢者などを対象に、「居場所づくり」に関する活動を展開されている方々
・日本全国の地域で、子育てカフェや空き家活用など、「地域づくり」に関する活動を展開されている方々
・上記以外に、本イベント趣旨にご関心のある方々

◎参加費:1,000円(税込)/1回

◎申込方法
こちらのページよりお申し込みください
【締切:12/20(火)12:00(正午)】

◎主催者
「居場所づくりは地域づくり」実行委員会(NPO法人エティック、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ)

Editor's Note - 編集後記 -

視察では見学した団体はありませんが、共に訪問した研究者の皆様と議論をしている中で、ふと疑問が現れました。

特殊出生率
2021年:韓国(0.81%)日本(1.30%)
2000年:韓国(1.48%)日本(1.36%)

少子高齢化は日本の社会問題のひとつとしてよく議論されてきています。
日本の子育て支援の政策は価値を出していないと、フランスなどと比較して議論されることがあります。国会でも同じような議論がされています。
私は、この数字を認識したときに、社会課題・問題に対して、解決することがベストではあるが、悪化させない、現状維持をし続けるというのも重要なのかもしれないと感じました。(加勢)


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