[古い急須] えとふみギャラリー N0.2

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                           (油彩 F6号)

「よろしかったらお持ちください」と書かれた紙が貼られた段ボール箱が、我家の近くの道角に置かれていた。不要となった食器をゴミとして廃棄するより、どなたかに使ってもらえたらというところか。
見てみると、洒落た洋食器や和食器の、数がバラバラになったものが入っている。
私は多人数に使えそうな急須を見つけた。丁度欲しかったサイズだ。

頂いて家に持ち帰ってよく見たら、全体にかなり使い込んだ感じもある。
近頃では見かけない絵柄だし、古い物だなと思ったが、植物の蔓で編み込まれた持ち手の鉉(つる)は優しい手触りで、今でも5、6人分のお茶を注ぐのに何の問題のない頑丈さがある。
これは近年の物ではないと思うが、有田焼の大量に作られた日常雑器でも、成型の工程や色付などが熟練された人の手によって生み出されていて、多分この急須もそんな工程を経たに違いない。
しかも、賑やかな家族の食事の後、湯呑み茶碗にたっぷりとお茶を注いできた時間とその家の歴史が刻み込まれている気がするのだ。
ベテランの重厚感というものか。なるほど、廃棄物として処分できなかった訳が少し理解できたようで、心がほっこりした。

近頃は何でも〝使い捨て〟にする風潮だが、この急須はリユースという形で次なる暮らしに活躍することとなったのだ。
とは言え我が家も老夫婦の二人暮らし。確かにこれは大振り過ぎる。故に急須共々、息子夫婦と孫が訪れるのをじっと待つ今日この頃だ。

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