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君は梅棒を観ずに死ねるのか~梅棒が究極のエンターテイメントだと思うわけ~

5/6加筆 読んでくれた方、広げてくれた方のおかげで「おすすめ」というものにはじめて選ばれたようです。これも何かのご縁。ぜひ読んだ感想や、こんな僕へのおすすめの作品をコメントいただければ幸いです。えとう

さっそくですが質問です。

「演劇」と聞いて、どんなイメージが浮かびますか?

西洋の貴族の格好に身を包んだ大物俳優が壮大な音楽をバックにシェイクスピアをやっているイメージ。
頭にタオルでも巻いて、こっちが恥ずかしくなってしまうような青臭いセリフを情熱的に、大げさに叫んでいるようなイメージ。

そんなちょっと難しそうで、近寄りがたいイメージを持っていないでしょうか。かくゆう僕も後者のように「舞台ってアングラだよな」と思っていました。

そんな僕の「舞台ってなんか近寄りがたいよな」の価値観を決定的に変えたのが、4月24日世田谷パブリックシアター、梅棒の8th公演「Shuttered Guy」でした。

僕はこの公演が、今までみたどんなドラマよりも、どんな映画よりも、自分を夢中にした究極のエンターテイメントだったと思っています。

「ぜひ足を運んで、その目で感動を目に焼き付けてください」と言いたいところなのですが、あいにく公演は全日程を終了しており、映像としても残っていないようなので(このSNS全盛期に残さないなんて...!と思った方こそ、ぜひ最後まで目を通してください)、なんとか文章で感動を伝えたいと思います。

※はじめに断っておきますと、この文章のターゲットはまだ舞台に足を運んでみたことのない方です。あそこで江藤が感じた熱量をそのまま勢いに変換して書いております。梅棒のファンの方々にとって不快な表現のないよう書きますが、もし万が一誤りなどありましたら優しくご指摘いただければ幸いです。

梅棒はダンスでストーリーを表現する男性ダンス集団

そもそも梅棒って誰ですか?というところから話を始めたいのですが、正直僕もよく知りません。

公式サイトを調べると以下のように書いてありました。

【踊りは気持ちだ!】をコンセプトとして2001年に日本大学藝術学部ダンスサークル『BAKUの会(現:Dance Company BAKU)』内で結成。ストーリー性の有る演劇的な世界観をジャズダンスとJ-POPで創り上げる、エンタテインメント集団。「多くのお客様が感情移入し、共感、感動できるパフォーマンス」を信条に、「劇場型ダンスエンタテインメント」を提供。

梅棒公式サイトより引用

この説明で注目すべきところは、

・「多くのお客様が感情移入し、共感、感動できるパフォーマンス」を信条とし、

・ストーリー性の有る演劇的な世界観をジャズダンスとJ-POPで創り上げる

ことです。先に結論から言ってしまうと僕は梅棒のつくる「分かりやすさ」にまさしく「感情移入し、共感、感動」してやられてしまったのです。小難しい芸術だった舞台が、耳馴染みのあるJ-POPとキレッキレのダンスで作り出される最高のエンターテイメントに変わった瞬間でした。

ストーリーはベタ。選曲は絶妙。ダンスは最高。

いよいよ本編のプレイバックです。

「ネコダ銀座商店街」とかいた看板の下に、ラーメン屋と洋服屋と八百屋が並ぶ、いわゆる町の商店街を模した舞台。そこに長身の男性がつかつかと現れる。

この男性が、緑一色の服装に身を包んで女装したゴリラ顔の男性でとにかく只者じゃないにおいがプンプンする。そして彼女がネコダ銀座の市長選挙に出馬する所信表明を始める。

始まり方は異様なんだけど話の筋書きはめちゃくちゃ単純でして、まとめるとこんな感じです。

人情味あふれる「ネコダ銀座商店街」の隣に、大型百貨店「ネコダセブン」(GINZA SIXのパロディ)が登場。商店街の人々も、セブンに出店するか否かで対立、一時はバラバラになってしまう。しかし、ある人物の奮起でセブンを撃退。再び商店街は活気を取り戻す

「百貨店すら変革を迫られるこの時代に、どうなんだこの筋書きは?!」と思う僕のようなあまのじゃくな方もたくさんいらっしゃるかもしれません。

でも梅棒は上のストーリーをほとんどセリフなしでやってのけるのです。(セリフは本当に転機となる場面でしか使われません)

 ベタな展開を、絶妙な選曲とキレッキレのダンスで魅せていきます。最高のクオリティのパフォーマンスの前にもはや小難しいストーリーは必要なく、お金が全てじゃない。人情は尊い。必ず最後に愛は勝つ。そのことをただ受け入れるしかないのかもしれません。

やばいTシャツ屋さん「あつまれ!パーティーピーポー」からさだまさし「秋桜」まで、場面場面で幅広いJ-POPの選曲にあわせて、演者の方々が躍動していきます。(テンションの落差凄くないですか。これをどっちも踊っちゃうの凄くないですか……)

僕にとって極めつけは、乃木坂46「インフルエンサー」から欅坂46「不協和音」のシークエンスで、男性たちの力強いダンスは2曲の都会的なダークでバッキバキなメロディにとてもマッチしていて、本家が美女とのアンマッチを楽しむものだとしたら、梅棒のものは2曲に魅力を王道的に引き出していたものだったと思います。この2曲はなんとダジャレにもなっていました。インフルエンサーをインフルエンザにかけて、ネコダセブンの乗っ取りで、気持だけでなく、身体も疲弊していく商店街の人びとの様子を表現。「不協和音」のハイライト「僕はいやだ!!」もネコダセブンの乗っ取りになんとか抵抗しようとする人びとの心の叫びとして見事に活用していました。

再現性を完全に捨てた梅棒の覚悟

ベタな筋書きと、耳馴染みのある絶妙な選曲の分かりやすさと、生身の人間が躍動する姿が僕に過去最高のワクワクをもたらしてくれました。

僕があの場で感じたワクワクを無理やり身近なものに例えようとすると、結婚式の二次会や忘年会でなされる隠し芸に感じるワクワクというと3%くらいは表現できているかもしれません。

残念ながらDVD化はされないようで、あの興奮を振り返ることができないのは寂しいです。でも、映像として残るものにしないことで、あの瞬間に観客の私たちにも「全身全霊で臨んで欲しい」そんな意思表示かもしれないなと、後日梅棒のリーダーの方のツイートをみて感じました。

(話題は急に固くなってしまうのですが、)届け手はいかに拡散されるかまでをそのコンテンツの中で設計することが求められるようになりました。そして僕はそれは正しい流れだと思っています。コルクの佐渡島さんがイベントで仰っていたように「情報は関係性を作るためのチケット。モノ自体に価値があるのではなく、ワイワイガヤガヤ話すためのキッカケ。」なのだから(もしニュアンスが違っていたらごめんなさい)。話題にできる導線を豊富にしておくことは私たちのユーザービリティを向上させるし、その設計のないクリエイターは基本的には消えていって然るべきなのかもしれません。

しかし今回の梅棒さんの公演は、感動はあの瞬間に閉じ込めて凝縮するしかなくって、そこから染み出す興奮のエキスをなんとか文字に起こすしかありませんでした。ものすごいUXの悪さだし、彼らの演劇が爆発的に拡散することはないと思います。公式サイトのデザインももっとかっこいいと良いのに。。

でも、あの場での体験を今後映像でみたら、感動はちょっとずつ蘇りはするものの、右肩下がりに摩耗していくことになるでしょう。テレビサイズましてやスマホサイズであの迫力は完全には再現されません。同じ映像というフィールドで闘ってしまったら映像というフィールドを最初から狙った映画やドラマには見劣りがするわけで、「あれれ、こんなもんだっけな」となってしまうのは致し方ないです。

梅棒の公演は僕の頭の中で「#とにかく感動した」とタグ付けられて大切に保存されています。器用に拡散していくことが求められるこの時代に、愚直にその場にいる人、それだけに集中して、全力で最高のエンターテイメントを届ける梅棒の侠気あふれる舞台に、今後も足を運んでいきたいし、そう思ってくれる人が1人でも増えたら嬉しいなと思います
(でもやっぱり映像化を希望する自分もいるのは事実です。だって良かったんだもん)

#コンテンツ会議 #コラム #編集note #演劇

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