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国際: 脱炭素と水素

脱炭素における水素活用の話が盛り上がっているが、そもそも水素ってなぜ重要なのか。トヨタのミライのように水素を活用した自動車に使うためだけ?ほかにはどういった用途に使用されるのか?ということをサクッと整理した。

記事要約

  • あらゆる工業用途に使用される水素。燃料電池や発電エネルギーとしての水素利用は、あくまでその一部に過ぎない。

  • 水素ガスの生成方法によって環境負荷(CO2排出)が異なり、その負荷具合によってグリーン、ブルー、グレー水素と分けて考えられている。

  • 脱炭素で重要なのが、グリーン&ブルーの低炭素水素の大量生成と水素需要の拡大(例:発電用、運輸・交通用、暖房用、産業用など多岐)。




1. 水素とは?

今更ながら、水素ガス/分子(H2)とは、水素元素(H)が結合した化合物で、無色無臭無毒&密度の最も低い物質。可燃性ガスで、燃えると酸素(O)と結びついて水(H2O)となる。

水素分子(出典:Iwatani
水素の特性(出典:Iwatani

1.1 水素の用途

あらゆる工業用途に使用される水素。燃料電池や発電エネルギーとしての水素利用は、あくまでその一部に過ぎない。下記一例。

  • プラスチックなど樹脂生成の添加剤

  • ステンレス鋼表面をピカピカにする光輝焼鈍用の添加剤

  • 原油に吹き込んで硫黄分を取り出す原油精製利用

  • 口紅などの油脂を固める添加剤

  • 他、半導体ウエハー、液晶パネル、光ファイバーなどの製造に高純度水素

水素の様々な用途(出典:Iwatani

1.2 水素の生成/製造

成分に水素原子を豊富に含んだ物質を分解することで得られる水素。その水素製造方法は大きく分けて下記の通り:

  1. アンモニア合成&石油精製工程で発生する副次生産物としての水素

  2. 天然ガスや石炭を燃やして水素を分離させる化石燃料改質

  3. 主流ではないが、再エネ電力を使って水を電解することで水素を取り出す水電解

水素生成方法(出典:Iwatani

なお、水素ガスの生成方法によって環境負荷(CO2排出)が異なり、その負荷具合によってグリーン、ブルー、グレー水素と分けて考えられている。

  • グリーン水素:太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーを利用して水の電気分解で製造した、CO2を一切排出しない水素

  • グレー水素:石炭や天然ガスなどを使用した化石燃料改質はCO2を発生させるためグレー水素と呼ばれる。

  • ブルー水素:化石燃料改質を利用しながらも、発生したCO2を回収して地中に貯留したり、利用したりする「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」や「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」技術と組み合わせることで、CO2排出量を削減した水素をブルー水素。

「グレー」「ブルー」「グリーン」水素(出典:Iwatani HP

1.3 水素の輸送

水素の輸送は、体積を約150~200分の1に圧縮した産業用の高圧水素ガス、あるいは800分の1に断熱膨張させて液化させた液化水素にして行う。液化水素は宇宙ロケットなど限られた用途のみだったが、大量輸送・貯蔵が用意のため、産業分野・会社によっては構内に液化水素タンクを設置して水素利用をするところが増えてきている。

液化水素生成工程(出典:Iwatani

圧縮水素はボンベやトレーラーで、液化水素は専用のローリーやコンテナーで輸送。

圧縮水素と液化水素の輸送手段(出典:Iwatani

2. 2050脱炭素における水素の役割

2.1 水素の役割

IEAの2050ネットゼロ報告書/Net Zero by 2050 - a Roadmap for the Global Energy Sectorによると、2050脱炭素のためには、下記2点が大事。

  • 各種再エネ技術や省エネ技術など、既に市場利用が可能な既存クリーンエネルギーの拡大普及

  • 新クリーンエネルギー技術のR&Dと市場大量導入

そしてこの新クリーンエネルギー技術に含まれるのが、最先端バッテリー技術、水素技術、直接空気回収技術 (Direct air capture)である。水素に関しては、その生成に要する水素発生装置/hydrogen electrolysersもさながら、水素の大量輸送を可能とするインフラ整備も不可欠。

グリーン水素の活用コンセプト
グリーン水素の活用コンセプト(出典:BMarko)

IEAの計算によれば、世界全体で、2030年までに水素活用量は200Mtを越す(2020年時点で90Mt)とのこと。そのうち、グリーンおよびブルー水素に至っては、150 Mt/水素電解設備850GW2045年時点で435Mt/3000GW。これに達しないとネットゼロby2050年が達成できないとのシナリオ。

IEAのネットゼロby2050シナリオにおける水素利用に関する目標値
(出典:IEAネットゼロ報告書、p. 20)

2.2 水素利用の用途

水素の用途だが、2050年に向け重要な代替エネルギー・燃料としてそのシェアを増すことが予想されている(下記図の上の部分、紫部分が水素利用)。一方、水素の火力発電利用も限定的ながら増加していく(下記図の下の部分、濃い青)。電源ミックスにおける水素活用は、既存のガス火力発電設備のレトロフィットや石炭火力発電所改良による水素との混焼を想定。これら水素発電は発電量の約2%程度(2030年時点)だが、電源・グリッドに柔軟性を与える重要な役割を担う。

IEAのネットゼロby2050シナリオにおける水素利用(出典:IEAネットゼロ報告書、p. 61)

部門別用途先を見ていると、運輸・交通/transport部門については、道路交通における水素利用や水素から精製した合成燃料の利用、水素を酸素と反応させて電気(と水)に変えて車の動力とする燃料電池車両(FCV)は限定的で主にトラック利用、むしろ海運&航空部門における合成燃料の使用が見込まれ、2050年時点では部門全体のエネルギー使用の内30%近くを水素&水素起因の合成燃料が占める。

建物/buildings部門については、水素利用はほぼなし。よくグラフを見ると多少水素利用が見込まれているがこれは、District heating 利用(天然ガスとのブレンディングなど含む)とのこと。まず産業/industry部門においては、既存の化石燃料ベースの施設における水素代替(例:アルミや鉄鋼精錬など)が見込まれる。

IEAのネットゼロby2050シナリオにおける各部門別の水素利用状況
(出典:IEAネットゼロ報告書、p. 62)

以上のことを、もう少し細かく見たのが下記の図。

世界全体における水素および水素起源燃料の使用量に関するIEA試算
(出典:IEAネットゼロ報告書、p. 75)

そして以上をすべて数値で表したのが下記の表。いろいろと興味深い。水素生成を見ると、水電解による水素生成(グリーン水素)が2050年時点で半分以上残りはCCUS付の化石燃料改質によるブルー水素となり、その大部分は国際貿易によって取引される。その理由は、電力を大量消費する水電解を行うには、原子力発電所、再エネが豊富な場所、CCUS付化石燃料発電所がある場所で水素生成をする必要があるため。

IEAのネットゼロ・シナリオにおける水素動向

3. コメント

以上、サクッと脱炭素における水素の役割を、IEAネットゼロ・シナリオに従っておさらいした。

結論を言うと、水素利用は脱炭素に不可欠、ただこれは世界全体でみた場合のお話で、どこまで水素活用するかは各国次第。そして国がどこまで補助金を出せるかというところが重要だったりする。最近の話で言えば、憲法裁判決により脱炭素に向けた資金繰りに困ったドイツが、水素・ガス火力発電所への補助金をカットしたため、発電所のキャパが大きくスケールダウンしてしまったことが記憶に新しい。

言うは易く行うは難し。ということで今後欧州における水素活用方針をレビューしていく予定。


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