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【文劇6】舞台「文豪とアルケミスト 戯作者ノ奏鳴曲」初見感想

2月17日~2月27日まで東京ステラボールにて、3月3日~3月5日までは大坂森ノ宮ピロティホールにて公演予定の「舞台『文豪とアルケミスト 戯作者ノ奏鳴曲ソナタ』」の初見感想です。
この先、舞台の内容のネタバレを含みます。自己責任で閲覧ください。
私が観劇したのは2月19日の昼公演です。





早くも6作目となった文劇。初作となる文劇1から今作まで初見は絶対に劇場で見ると心に決めて実行してきた中で、唯一劇場で見れなかったのが文劇3だったりする。
原因はコロナで致し方なく……というわけではなく、観劇予定日の1週間前にうっかり交通事故にあって怪我をしてしまったためという情けないものである。もちろん配信で何回も何回も購入して見たけれど、白秋先生と太宰が台本を手にマイク無しで掛け合いをするシーンは、どうあがいても配信では感じ取れない部分があって、あれだけは劇場で見るべきだったと今でも悔やんでいる。

そして、3年近くの時が過ぎて文劇6がやってきた。
今回はTwitterアカウントが凍結された影響で、ファンの前評判どころか公式からの情報すらほぼ入らない状況で観劇に臨んだ。そのせいで始まる前のあの何とも言えない不安にも似たドキドキ感は、今回はとても薄かったように思う。情報が入らなさ過ぎて公演開始3日前の時点で自分の観劇予定日を完全に忘れていたのは内緒だ。

今回のステラボールは、文劇5の時と違って段差がほとんど無かった。これに関してはかなり不満が出ているようだが、今日の私の席はど真ん中でしかもすぐ前は空席で誰も居なかった。おかげで視界をほぼ塞がれることなく気持ちよく観劇できたのは、本当に幸運だったんだろう。まあTwitte凍結で酷い目に合ってるんだから、こういう時ぐらい良い目を見ないと人生割に合わない。
ありがたく享受したその席から見る舞台は、視界が低く舞台と目線の高さがあっていたおかげか、文劇5で見た時よりもなんだか舞台を近くに感じることが出来た気がする。思えば今日は2階席に誰も居なかったので、もしかしたらこういう目線の高さを演出側で狙っていたのかもしれない。

そんな環境で見た文劇6は、とんでもないものだった。
いや、本当に、とんでもないものだった。

中心人物がいない無頼派とプロレタリア文学。直の底抜けの明るさに引っ張られる形でなんとか持ちこたえるプロレタリアを他所に、白秋先生の一言からどんどん崩れていってしまう無頼派の3人。織田作と生前の交流が叶わなかった檀が「お前は本当に無頼派なのか?」と言われて、ショボショボになっていくのが見ていて耐えられなかった。しかも白秋先生の中身はあんなことになっていて、銃ではなく日本刀を持ち出した辺りで「人の心ー!!人の心―!!!!キャラありきのゲームのメディアミックスでこんなんやられたら普通だったら大炎上するー!!!!!」とハンカチを握りしめながら心の中で叫んでいた。いや本当に、話の全体の流れよりも推しがどうなっているかを重視しがちなオタクがメイン客層である2.5次元舞台であそこまでやるのはアナーキーが過ぎる。というか見た目が白秋先生で中身がアレという時点で、文劇3の地獄を超えてしまった気がする。お願いだから軽率に地獄を更新するのはやめてもらいたい。

話を追うのに精いっぱいで細かい台詞まで覚えられていないのだけれど、正体を現した劇館長との戦闘で「根無し草だけど、それでも帰るところはある」「無頼派なんてくくりはどうでもいい。自分は太宰の作品を何としてでも守りたいんだ」と主張する檀に思わず泣いてしまった。鳴かず飛ばずのころから太宰を世に出そうと檀が奮闘していたのを知っている身にはあの叫びは本当に効く。更にそのあと、堕ちるところまで堕ちた織田作が太宰が書いた自分への追悼文を読んで復活し、安吾と熱いやり取りをした辺りで完全に涙腺が決壊した。しかも織田作と安吾が叫んだ時に、私の記憶が確かなら客席の照明が点灯して、舞台と客席……フィクションと現実との境目が無くなった。この辺りで私は嗚咽をこらえるのに必死だった。何故ならその演出は、文劇3の時に配信で感じ取ることが出来なかった、白秋先生と太宰のやり取りの時に用いられた演出と同じだったからだ。本当に吉谷さんはニクいことをする。でもバタバタとみんなが倒されていくときのBGMが文劇3のOPテーマなのは勘弁して欲しい、マジで。一瞬また垂れ幕が落ちてくるんじゃないかって上の方を向いてしまったのは、私だけではないと思いたい。

ストーリーが文劇3の延長線上にある今作は、ありとあらゆる場面が文劇3のリバイバルになっている。あのコロナ禍の渦中にあって、様々な理由により現地での観劇をあきらめた人ほど今作は劇場で見て欲しい。全く同じものではもちろん無いし、場の雰囲気が文劇6だけのものなのは確かなのだけれど、それでもあの時に手に入れられなかったものを掴み直すきっかけになってくれると思う。

次の観劇予定は1週間後の26日の夜公演、東京千秋楽の予定だ。今日見た演技がどう変わっていくのか、どう成長するのか、今からとても楽しみである。それとできれば、今度はもうちょっと細かいところまで覚えて帰ってこれるぐらいのお落ち着きで、観劇できればいいなぁと、切に思う。

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