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カメラを肩にかけて登校してくる人がかっこよかった。

 大学時代、自分の学校には写真学科があって、朝登校してくる学生のなかに、小さめのカメラを肩にかけて電車に乗ってくる女性がいた。たいていはジーンズにTシャツ、季節によってはパーカーなんてこざっぱりした格好で、それがなんだかかっこよかった。


ユリイカ2005年11月号 Amazonから拝借いたしました。

 ちょっと違ってはくるが、うん、真ん中の方、この人がジーンズ履いたら、このときのイメージに近い。あるいは左から二番目のような人も見かけたし、4番目のような人もいた。なんにしてもかっこいいな、とちょっと憧れた。(それにしてもこのユリイカの雑誌の特集名、今だと何か問題を醸しそうな気も…でも、やっぱりユリイカは素敵な雑誌です)

 そんな恰好で、カメラという機械を肩から提げている、というのが妙にかっこいいと思った。そうしてそのカメラは殆どが、マニュアル一眼レフだった。シルバーの、恐らく単焦点レンズ、NikonかOlympusか、cannonもあったかもしれないが、当時カメラに関心の薄かった僕はそれが何だったかまでは気を付けて確認などしていない。なにより、それらがオートフォーカスなんかできない代物だということも知らない。だから家にあったミノルタのカメラより断然小さい理由すらよく分からない。

 そういうわけで合気道部の先輩に、一度それを尋ねてみたことがある。なんでそんなに小型なんですか。何が僕が持ってきた(おやじから無断拝借して実家から持ってきたα7000)カメラと違うんですか?
 すると、その先輩は、「うーん」と呟いて色々説明をしてくれた。が、正直分からないままだった。

 男性の運動部の先輩にも訊ねたことがある。が、いまいち分からないし、その先輩は、どちらかというと、ミノルタのカメラっぽいものを持っていたし、彼は肩から提げずに、鞄の中に放り込んでいた。

 先輩に肩にかけないんですか? そう訊ねると、
 男子がカメラを出して歩いていると、思わぬ面倒が起きたりするのよ、と答えてくれた。ああ、なるほど、そりゃあ、電車にカメラかけたまま乗るのは気が引けるわなあ、とぼんやり思った。そういや、男子学生でカメラを肩なり首なりにかけて登校してくる学生は殆ど見かけなかった。

 大学一年のころに、そんなカメラにあてられた放送学科の同輩が、自分で一眼レフを買ってきた。僕はそれを見ていいな、と思い、実家から父親の一眼レフを無断拝借してきたんだった。けれども、それらもまた、先輩や他の女子学生が肩から提げているカメラとまったく違った。フォルムの記憶から、CanonのEOS Kissだと思う。いずれにしてもとにかくかっこよかった。

 そうして、この話はここで終わるのである。
 それ以上、深掘りしようとは思わなかったのだ。
 あのとき、もっとカメラに関心を持っていたら、そのまま、写真学科の先輩や、友人に頼んでカメラ屋(それもレモン社とか)に連れていってもらって購入していたかもしれない。そうしてハマっていたかもしれない。それで、たぶん今の収集癖から考えても、いろいろ集めていたかもしれない。(そのときにライカにたどり着いていたら、安くでレンズを手に入れていたかもしれないなあ、とタラレバの話をしてしまう)。

 いや、もしかしたら、ひとしきり楽しんで、あとはもう、写真にはハマらなかったかもしれない。僕がカメラにハマったのは、社会人になって、海外出張したのがきっかけだったから、そのとき借りたデジカメを使っていても、ここまでハマるようなことにはならなかった可能性もある。

 すると、写真展なんかもしなかったろうから、妻とも結婚することはなかっただろう。子供の写真を何枚もプリントしている自分もいなかったことになる。いやはや、趣味によって僕は生かされているんだな(?)


だから、あのとき、ジーンズとTシャツ姿で、トートバッグとシルバーのマニュアル一眼レフを肩に下げた女子学生に憧れるだけで終わってよかったんだと思う(金銭面以外)。
 もちろん、あーだこーだ言う前に、先立つものなんか殆どなかったのだから、必然だったのかもしれないけれど。

 ただ、思い返せば、自分、やっぱり見た目から入る質なんだろうなあ、と改めて気づかされて、ちょっと今、へこみ気味である。見た目の悪い自分だからこそ美に憧れる、そういうことなのかもしれない。残念。

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