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咲夜の旅

「咲夜の旅」

作者:img_00

 標準ズームと中望遠、魚眼のキャップレンズ、こんだけあればいいや…。

 折角なので、この前買ったミラーレスを試してみたい。今回はがっつり写真を撮るわけではないので、小型・軽量で機材を選んだ。昨日、叔母さんに電話したら、「菜の花と桜がいい具合に咲いてるわ」って言っていた。叔母さんは農家で、墨の材料の菜種と桜の塩漬けを生業としている。この前始まった、地方の高速道路上限2000円のキャンペーン使えばそんなにお金かからないし。ここから、奈良まで行くと片道だけで1万超えるから、今までは遠慮していた。「折角だから、奈良の有名な赤膚焼も見てみたいし、いい写真も撮れるといいな…」と思って早めに寝た。

 叔母さんの家まで10時間以上運転しないといけないので、途中のパーキングエリアで昼食をとった後、休憩を入れることにした。1日目:車で移動、叔母さんの家にお世話になる。2日目:菜の花と桜の写真を撮ったり、赤膚焼の窯元に行って小鉢を何個か買ったり、いろんな漬物を買う。3日目:早朝、叔母さんの家を出発して、のんびり山形に帰る。全行程、2泊3日の旅行の予定。

 早朝、近所の神社にお参りをしてから出発した。実家が煙火店を営んでいるので、この辺は習慣になっている。もちろん、冬タイヤとチェーン、防寒着、食料、携帯トイレはしっかりと用意した。父さんからもチェーンの巻き方をしっかり教えてもらったが、今回、自分だけで遠出するのは初めてで、多少運転に慣れてきたとはいえ少し不安だ。両親に相談した結果、日本海沿いに進むと、吹雪が心配なので、太平洋側を通ることにした。

 高速に入ってすぐのパーキングエリアでカップのコーヒーを買った。眠気覚まし、というよりはコーヒーが好きで、家にいるときは自分でコーヒーを入れて飲んでいる。ホットのコーヒーを飲みながら、高速道路情報を確認しているとやっぱり、日本海側は天候が悪く、チェーン規制がかかっていて、事故も何件か起きている。今回は、仕事ではないので、安全第一でのんびり行こうと思う。

 朝食はばっちり食べてきたが、もうすぐお昼になる。上限2000円のキャンペーンの影響もあって、高速の食堂はめちゃくちゃ込むので、早めに昼食をとる予定だ。東名高速に入ったので、行程の半分くらいだろうか? 海鮮丼を食べようと思ったが、高速の食堂に全然なかったので、親子丼セットで我慢した。

 2時間くらい休憩をしていると、雪化粧をした富士山が目に入ったので、軽く写真を撮ることにした。東北と違ってカメラが結露することもないと思い、車内でレンズを交換して表に出るといい天気だった。何枚か写真を撮ったので、さっき食べた親子丼セットと一緒にSNSにアップした。今回のメインは奈良に着いてからなので、特にリアクションは期待していない。

 初めての遠出で、叔母さんが心配すると思ったので、今どの辺に来ているか連絡すると、「夕飯は頑張っちゃうから期待してね」と言っていた。母さんはお酒をお土産にしたかったらしいが、二十歳前なのでそれはダメ、と父さんからクレームが付いて、最終的に山形のお米15キロと蒟蒻コンニャクのお惣菜詰め合わせになった。お母さんはお酒を飲みながら甘納豆をよく食べるので、帰りに数袋買ってきて、と頼まれている。そこで売ってる甘納豆はかなり珍しいらしい。

 父さんと母さんにも連絡を入れた後、休憩を終えてまた高速を走り始めた。5時間後、奈良の市街に入って、少し狭い道を走って叔母さんの家に着いた。大体予想通り夕方くらい。運転で少し疲れたので、用意してもらったご馳走をいっぱい食べてすぐに寝てしまった。

 翌朝、叔母さんが5時くらいに起こしに来てくれた。写真を撮りたい、というのも今回の旅行の目的だったので、気を使ってくれたらしい。朝食の時に叔母さんが「咲夜ちゃん、何なら、今日は写真を撮って、明日買い物したら?」と提案されたので、お言葉に甘えて日程を一日延ばすことにした。叔母さんの話によると、鉄道が近所を走っているらしく、朝昼夕の時間帯しか運行されていないので、余った時間はこの辺を散策しながら写真を撮ることにした。

 夕方になって、叔母さんの家に戻ると用意してくれた晩御飯を食べた。お風呂が沸いているから良かったら入ってと言われたので、お風呂に向かって歩きながらふと思った。古民家だからドラム缶風呂とか、五右衛門風呂とか。少し、思っていたのとは違って、「なんか四角い、昭和だなー」と思った。

 お風呂から戻ると叔母さんが大型テレビをモニター代わりにメールチェックしていた。老眼が入っているので、小さい文字だと見づらいので最近はこのスタイルだそうだ。折角だから写真を見たいと叔母さんが言ったので、部屋にメモリーカードとカードリーダーを取りに行く。「そう言えば、今日何枚撮ったっけ?」と思った。一緒に見ていて、何枚かいい写真があったので、あとでSNSにアップしておこうと思った。ただ、叔母さんの迷惑になるのは避けたいので、場所については非公開にした。軽く、知人とチャットして、今日は早めに眠ることにした。

 3日目の朝、疲れが出たのか、気が付いたら、昼近くまで二度寝していた。そんな感じで、叔母さんの仕事が終わった午後から街中を案内してもらっている。叔母さんは赤膚焼と奈良漬けを見たいと聞いていたので、初めに赤膚焼あかはだやきの窯元に連れて行った。咲夜はちょっとした3000円くらいの小皿を自分用に買ったが、問題はそのあと。試食の奈良漬けをたくさん食べて、酔っぱらいはしていないが、何となく顔が赤い。叔母さんは少し呆れ気味、両親から漬物は大好物と聞いているが、ここまでとは思っていなかった。基本的に食べたらしばらく運転しちゃダメと言われている。

 最終的にお土産として奈良漬の樽を買った。漬物は大好物だが、塩分をとりすぎるからダメ、と両親に没収されるので、多めに買って自分の取り分を増やそうとしている。叔母さんの家に戻ってしばらくすると酔いが醒めたのか、頼まれごとをふと思い出す。やばっ、「源さんに奈良墨安いの何種類か買ってきて」って言われてた。今からじゃお店閉まってるし、どうしようと思っていたら、心配した叔母さんが「どうしたの?」と声を掛けてくれたので、素直に事情を話すと「家に何本か余ってるから持ってく?」と言ってくれた。そういえば叔母さんは墨の材料作ってたんだ。ぱっと見、かなり高級品みたいだけど、いいのかなと思っていると、叔母さんが「何年も前にお客さんから貰ったやつだし、私使わないから使ってあげて」と言って、箱入りの奈良墨を3本譲ってくれた。

 叔母さんが用意してくれた晩御飯を食べた後、両親に電話していると電話を変わってほしい、と頼まれたので、叔母さんに引き継ぐと、お礼を言っていた。その後、「明日、忙しいだろうから、お土産の塩漬け渡しておくわ」と言って、小瓶に入った桜の塩漬けをもらった。初日ご馳走してくれた桜ご飯は結構気に入っているので、母さんにそのうち作ってもらおうと思っている。

 寝る前に荷造りを始めて明日に備える。撮影機材:カメラ本体、標準ズーム、中望遠、魚眼のキャップレンズ、メモリーカード、バッテリー、キャップ類、メンテナンス用品。お土産関係:奈良漬け、赤膚焼、貰った奈良墨、桜の塩漬け。着替え関係:全部よし。ガソリン:初日に満タンにしておいたので、問題なし。明日は叔母さんの家を5時に出発、お弁当を作っておいてくれるそうだ。もう寝よう。

 お世話になった叔母さんにお礼を言って別れた後、のんびりと山形までの帰途に就く。予定を2泊3日から3泊4日に延長して、今日は平日なので高速はすいていた。貰ったお弁当を朝食にした後、余裕があったので、高速のパーキングで食べ物を買ってのんびりしながら山形まで帰るつもりでいる。

 母さんからアクアライン使って甘納豆買ってきて、と頼まれているので、少し遠回りする。さすがに東京-山形だと距離があるので生ものは無理、母さんに頼まれた甘納豆を自分用も追加、計4袋買ってUターンしてきた。首都高を抜けたところでコーヒーを買うために、パーキングに寄って休憩している。

 さっき買った甘納豆を開けて食べてみるとかなり甘い、お茶なら合いそうだけど、コーヒーは向かないと思った。いろんなパーキングエリアに寄って買い食いしてきたので、大してお腹は減っていない、昼食は食べなくても平気なので、休憩だけしてそのまま出発する。さっき高速道路情報を確認してみて、1件だけ事故が起こっている以外は順調、そこに行くまでには処理が終わって普通に通れそうな感じだ。夕方には自宅に無事到着した。とりあえず、今日は疲れたので、ご飯を食べたらすぐに横になった。

 初めての一人旅としてはうまくいったので、明日起きたら神社に報告に行こうと思った。結局、起きたのは昼頃になってしまったが、神社に行って今回の一人旅は終わった。

 遅めの昼食にはご飯と奈良漬けが出てきた。やっぱりおいしいな、と思っていると、父さんは食べない、これから仕事もあるので、食べられるのは週末かな。

 源さんのところに、頼まれていた奈良墨を届ける。事情を話して、今回は貰い物なのでお金を受け取れないことを説明した。その代わりに、お蕎麦をご馳走してくれた。源さんはお品書きを書いたり、ちょっとした水墨画を描く。今度の定休日にさっそく使ってみる、と言っていた。

 少し落ち着いたので、写真の整理作業に取り掛かる。失敗作がかなり出てきたが、やっぱり、叔母さんと一緒に見た写真のいくつかはお気に入りになった。今回の旅行で撮った写真を、家電チェーンのコンテストに応募してみたら、1枚だけ特別賞を貰った。このことを叔母さんに報告したらとても喜んでくれて嬉しかった。

 副賞で貰った10万円の商品券の使い道はパソコン、モニター、交換レンズ、色々考えているが、何か記念になって、長く使えるものがいいなと思って悩んでいる。父さんは少しオーバーするくらいだったら出してやる、と言っているので、それなら、旅行に行って、たくさん写真を撮りたいと父さんに相談してみたら、頑張れと応援してくれた。

「お金を貯めて、英語をもっと勉強して、今度は世界一周クルーズに行ってみたい」と思った。

(おしまい)


 これは「としをかさねて」の関連作品です。




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