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ダンディズムとロリィタとわたし

神宮前で逢いましょう 

【ダンディズムとロリィタとわたし】

 タイトルにもある二つ。

 元をただせば同じ国をルーツに持つスタイルだからか(一説によるとロリィタの源流はヴィクトリア朝の子供服)、お洋服に対する姿勢や現代の私から見ると若干やりすぎなほどストイックに優雅さを求める紳士たちと令和のロリィタさんたちのお洋服に対する姿勢も、SNSで同じ趣味の方たちと交流を深める中で通ずるものがあるよなぁと感じる。

「ダンディって言葉は昔からよく聞くけれど、そもそもどこ発祥なんだ?」

 という方の為にサクっと説明させて頂きたい。


 現代の日本だと“ダンディ”と呼ばれる俳優は水谷豊や舘ひろし辺りになるだろうか。

 ダンディズムの始祖であり、もしかしたら今日のアニメやゲームにおける「英国紳士」をモチーフにしたキャラクターに少なからず影響を与えているであろうボー・ブランメルという19世紀に実在した稀代の“洒落者”の伝説までさかのぼる。

 ロンドンの公園で当時王太子であったジョージ4世と出会い、その身のこなしと冷謹な応対に魅了された未来の国王はイギリス君主となった後、オックスフォードを卒業したブランメルを直々に近衛兵の隊長に任命する。

 だが、根っから労働や出世というのに関心が無いブランメルは早々にやめた後一介の郷士となり当時のイギリスの貴族階級や王族、名士と交流し彼らの憧れの的としてジョージ4世以上に崇拝される事となる。

 ここまで聞いて頂いたが、このブランメルという男は貴族階級か名家の出だと思う方も少なからず居るだろう。

 そうではないのが、伝説たる所以である。

 祖父は菓子職人か名士に仕えた人間と言われていて、ブランメルの代では平民ではあるが孫をイートン校(当時は上流階級の子供しか通えなかった)に通わせられる程の財はあったそうだ。

 普通の子供であれば、そのイートン校に入って周囲と自分に多かれ少なかれある価値観や持ち物の差というのに悩まされそうだが彼はむしろその“身のこなしや冷ややかな振舞い”だけで級友から尊敬されていた。

 後になってその卓越した社交術や着付け、ライフスタイルを芸術まで極めて英国のファッション史にも痕跡を残すほどの伊達者となっていくのだった……。


 余りに詳しく記すとエッセイ一編の文字数では済まないのでダンディの始祖の物語を巻き気味に(かつ、分かりやすいかと思い昨今流行りの異世界
転生モノを意識した)語ったが。

 その彼が生涯をかけて追及し、芸術の域まで高めた“スタイル”…つまり生活様式の事を書かせて頂きたい。

 まず、服装。

 稀代の洒落者、と聞いてどんなファッションだったのだろうと思われるだろうがあくまで当時の英国男性の基本的な礼装…一般に英国紳士と言われて連想する燕尾服にきちんと結ばれた白いタイ、美しく磨かれた革靴に懐には懐中時計というあくまで“基本”や“中庸”に立ち返った着こなしにこだわった。

 縫製でブランメル本人のサイズぴったりにしすぎた余りに座れない作りになってしまった事もあるそうだが、あくまで当人のこだわりが故である。

「街を歩いていて、周囲の人間がまじまじと君の事を見ているのなら君の服装は凝りすぎているのだ」

 というのは彼の“被服”に対する言葉だが、当時英国の貴族階級ではフランスの王族の影響もあり派手に化粧した顔に鬘をかぶっていた殿方が多かった。

 先程話したジョージ4世も華美や贅を凝らした服装に窶していたが、彼が作り出した慎みある服装が英国の流行をガラッと変えてしまった。

 また、ライフスタイルも時間や彼が自らに課した決まりによって節制されていて唯一美食のみを己に許すほどストイックな人間だったそうだ。

 恐らく当時の貴族を見ても異端の生活態度だったに違いない。

 周囲に大金持ちが大勢いる一般人がいたとして、身に合わない贅沢を真似するのはよくある話だが贅沢で懶惰らんだな周囲の名士たちに目もくれず、あくまで己の矜持に忠実に生きている彼にロンドンの一般人にすら崇拝者が大勢いたのは自然な事だろう。


 タイトルが『神宮前で逢いましょう』なのでもうそろそろ令和の原宿の話に戻そう。

 現在私はロリィタファッションを纏っているが(これだけでも、とてもありがたい話だ)SNSで同じ趣味の人たちと交流していく中でどうしても長年やっている方などで“油田でも持っているのか…?”という程頻繁に(新作が出る時期だと週1の方もちまちま居る)ブランドもののお洋服を購入している方も多い。

 ご存じの通り、ちゃんとしたメゾンのワンピースをお迎えしようとすると3~4万はかかってしまう為に私の場合はよくて年2程度にして、新作が出るタイミングから逆算して3~4か月前から貯金する方法をとってようやく店頭のレジか通販の購入ボタンに辿り着く。

 自室のクローゼットにもキャパというのがあるし、何よりそんなに沢山持っていても絶対どれか肥やしになってしまうだろうからせっかく頑張って買ったのに着ないのはお洋服がかわいそうだ。

 というので割とこのスパンで購入する今の状況を、将来稼ぎが増えたとしても余り変えたいとは思わないのだ。

 だが…時々、ドレスコードがあるお茶会の参加者募集のポストがタイムラインに回ってくると、

(楽しそうだなぁ~)

 とは感じる。

 老舗メゾンにもなるとそのブランドの象徴となるアイテムがある。

 エルメスのバーキンやバーバリーのトレンチコートのようにロリィタブランドにも“代表作”たるドレスは存在するのだ。

 映画「下妻物語」で深キョンが着ていた“エリザベスワンピース”という名の赤いドレスがその例で、今でも再販されているが抽選販売である。

 予約開始時はブランドのサイトが重い。

 もちろんエリザベスワンピースがドレスコードのお茶会というのも存在する。

 お迎え出来て着る事が出来たら嬉しいだろうが、

(周りが持っているからって理由は、イマイチ決め手にならないんだよなぁ~)

 という考えに辿り着いてしまう人間が故に一生倍率が高いドレスの抽選販売に参加する事は無いだろう。

 人の持ち物をそこまで羨まないタチだからこそ、続けられている感はある。

 単に天邪鬼なだけの話かもしれないが。

 本当に琴線にダイレクトに響いたドレスじゃないと重い腰が持ち上がらないのだ。

 そういう考えでいられるのは遠い異国のはるか昔の先人の記録のおかげかも知れない。




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