見出し画像

意味がわかると怖い話〜朝帰り〜

朝帰り 本編


 今の状況を冷静に考えてみよう。
 私がいるのは、薄暗い部屋の中。窓から差し込む半月の明かりが微かに部屋を照らしているから、日が沈んだばかりくらいの時間だ。この部屋がご主人様の別荘の一室なのは間違いない。それも、あまり使わなくなったものを置いているガラクタ部屋。とは言っても、ご主人様のご両親の執事さんたちがしっかり掃除しているからそんなに汚れてはいなくて綺麗だけどね。

 贅沢を嫌うご両親は、使わなくなったものは捨てるんじゃなくてどこかに売ったり寄付をしたりしている。ご主人様も使わなくなったおもちゃはこの部屋に持ってくるように言われているはずだ。まあ壊れたおもちゃが多いから、たぶんそれらは捨てられるんだろうけど…。

 私はすぐそばにあった、かつてご主人様が使っていた補助輪付きの自転車に目をやりながらさらに考えた。

 私は1週間前からご主人様家族に付き添って別荘に来ていた。ご主人様の長期休みの時に、ご主人様のご両親も仕事を休まれて別荘でのんびり過ごすのだ。今は春休み、ご主人様は宿題がないからいつも以上に羽を伸ばされていた。幼い頃から好きなおままごとを楽しまれていたけど、当然ご主人様の相手をする私たちは大忙し。とはいえ4月からは小学3年生。以前よりはこうやってごっこ遊びをされることも減り、私たちがお相手する時間も減ってきた。成長されたものね…。私は仲間たちの中でも最古参。まだしゃべらない頃からご一緒にいるから少し寂しさも感じる。

 そうそう、昨日は仕事終わりに仲間たちとかくれんぼをしたんだ。別荘はとても広いお屋敷だし、静かに遊んでいる分には誰も文句を言う人はいない。ご主人様に下がっていいと言われた後、かくれんぼや鬼ごっこをして遊ぶのは別荘に来たときの恒例なの。そして遊んでるうちに眠くなっちゃって…。気がついたら今。

 あ!もしかして私あのまま寝ちゃった?
やっちゃったなあ…ご主人様を心配させていなければいいけど…。

 私は部屋を出た。でも廊下も、ご主人様の部屋も、どこにも明かりはついていなくて、それどころか誰もいないことは明白なくらいお屋敷はしんと静まりかえっていた。今日は別荘から本邸に帰る日。まさか置いてかれた…?
ご主人様は相当お怒りなんだろう。急いで帰らないと…!それにしても仲間たちが起こしてくれても良かったのにね、そんな暇がないくらい忙しかったんだろうか。

 いつもご主人様の車で移動しているから1人で本邸まで帰ったことはないけど、家の方角くらいは覚えてる。ここからはかなり遠いけど、頑張れば夜が明けるまでには着くだろう。私は無人の別荘を飛び出した。

 そうだ、ご主人様に連絡しておかないといけないわ。現在地を詳細にお伝えしよう。
 何回も連絡を送ったけど、ご主人様からはなんの返事もなかった。…やはりお怒りだ、まずい。

 時計は持っていないけれどもうそろそろご主人様はお休みになる頃。これ以上連絡するのは迷惑かもしれないから一旦やめる。

 そういえば…、昨日は確かにかくれんぼをして色々な部屋に入ったけれど、あのガラクタ部屋には入ったっけな…?
 眠くなってきて、この場で寝るわけにはいかないと思って、仲間たちときちんと自分の部屋に戻った気がするけど…。おかしいな。夢だったのかな…?

 そんなことを考えながら移動していると東の空が明るくなってきた。夜が明けてしまう。とはいえもう本邸はすぐそこだった。…眠い。このまま帰ったらご主人様に謝罪する前に瞼が落ちてしまいそう。せめて帰った時間くらい知っていてもらいたい。急いで帰ってきたんだって分かってもらえるかもしれないからね。「今本邸の前に着きました」これでよし。

 裏口からそっと入り、階段を登る。ご主人様の部屋の前に着いたとき、ちょうどご主人様のご両親のメイド様と出会った。ご主人様の朝のお世話に来たのだろう。

 ちょっと、メイド様。確かに私急いで帰ってきたから髪ぼさぼさだろうし、これからお叱りを受けることは重々承知だけど、
そんな怖い顔しないでよ。




朝帰り 解説

 ここから解説です!これは、有名な「メリーさんの電話」という怪談(というか都市伝説かな?)を人形目線でアレンジして書いてみたものです。つまり、ご主人様は人形の持ち主、この人形がガラクタ部屋にいたのは、持ち主がもう大きくなって使わないからと、部屋に置いて本邸に帰ったからなんですね。いくつか持っている人形のうち、最も古い人形を、どこかに寄付をしてもらおうと思って。きちんと両親の言いつけを守るいい子です。しかし、そのことに気がつかずお嬢様が忘れて帰ったと思った人形は自力で本邸に帰ります。そしてお嬢様の部屋の前に着いたところで「人間の」お嬢様のメイドと出会ってしまい、メイドは恐怖を感じたことでしょう…私だったら絶対叫んでるわ…。
 しかし本当に怖いのは、この人形の話を思い返してみると、別荘に行った時には「よくかくれんぼや鬼ごっこをしている」という点。つまり他の人形たちも…。

 とはいえ、古くから日本では大切に扱われたものには魂が宿るだとか言われるので、この人形たちはとても大切に使ってもらえたからこそ、なのでしょう。


後書き

 この話は診断メーカーの#あなたに書いて欲しい物語より、『「今の状況を冷静に考えてみよう」で始まり、「そんな怖い顔しないでよ」で終わる物語』を書いたものです。

画像はみんなのフォトギャラリーより、よろず工房:yasuyuki様の「人形Ai 2020 その3」をお借りしました。ありがとうございます。

サポートいただけると大変嬉しいです…! いただいたサポートは様々な創作活動に使わせていただきます。