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0.9 ステージ

(手慣れているな)
シークレットから見た彼女
銀髪ウルフヘアーの女性
ステージに立った歌い手。
自己紹介で『ピアーナ』と名乗った意識体は、ステージ慣れしていた。

ステージでは先手を打ち、はじめの一曲を勝ち取ったアヴァリア達。
その歌唱力。
想いを伝える力は、見事なものがあり、泣き出す観客もいたが。

(『層』が浅い)
シークレットが聞いたときには、深層心理まで書き換えられるかの様な呼び声の様なそれは、聞こえなかった。
長時間の歌い込みが必要な歌劇の様に長いバラード。
それを短くアレンジし、ダンスと合わせる形に落とし込んだまではよかったが。

(まだ、調和が。最大限引き出すためのものが足りなかった)

ダンスに専念するイーサ
歌に専念するアヴァリア
互いの長所を最大限融合させたかに見えた試みだった。
しかし、思い切りが足りなかった。

対する彼女は。

(ピアーナ。見事なものだよ)
ピアーナは、彼女達とは異なり、ロック調の音楽を展開した。
激しい身の動かし、そして、紡がれる独自の世界観を持つ言葉。
情動を声と身体の両方で体現する。
それは。


(V系ロック!)

彼女の端正な顔立ち、そして煌びやかな衣装と派手な髪。
それらが織りなすハーモニーは、一瞬で、感傷に浸ったステージを盛り上げて、熱気で包んでしまったのだ。

(上手いし、盛り上がっいる。だけど、このままでは!)
彼女の勝ちは明白だった。
ならば、打てるべき手を打つ。
それが、彼の成せる事柄だった。

「エブモス。後は、任せた。そこに書いた脚本通りにサポートしてくれ」
ステージを背に歩き出すシークレット

「りょうかいだよ!でも、シークレット君は、どこに行くの?」

「僕しか出来ないことをしてくる」

「そっか!頑張って!」
ふぁいと、おー!と両手を挙げて送り出す。

「あぁ、行ってくる」
静かに返事をしながら、楽屋裏へと向かう姿は、勝負に挑む戦士の横顔だった。


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