深漣

僕の引き出し。

深漣

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最近の記事

母と"がん"のこと、

母が"がん"だと宣告されたのは、昨年末のことだった。 初めは可能性として、その名前を聴いていたけれど、詳しく検査をしてその可能性が高いと言われた時、正直、頭が追い付かなかった。 それでもなんとか担当医の先生の言葉に冷静さを保って、少しでも悪い可能性を頭の中から消そうとして、自分の感情よりも母の感情を優先させようとして、なんとか最後まで話を聴いて、聴いて、聴いた。 結果、母は年越しを迎えることなく入院することになった。 母はその前日から食事が許されない生活になった。 食

    • 表と裏、或いはそれ以外のこと、

      過去より、 特に大した理由は無かったのだと思う。 例えば日中、真夏なのにセミの鳴き声が全然聴こえなかったから、とか、信号待ちの人々が日陰に集まっているのに気づかず普通に待っていたから汗がとまらなくて、とか、そういうどうでもいいような理由だったような気がする。 気が付いたら僕は地元の公民館の中に入っていた。  古びたコンクリートの塊、投票所、お年寄りによるカラオケ大会の開催場所、時々ここで葬儀を行う人もいる、そのくらいの印象しかない、何でもない場所だった。 誰がいるわけでもな

      • Sleepless

        『Sleepless』    一目で夢と分かる光景だった。  山に囲まれた小さな田舎町、なんだろうか、 それすらも分からなくなるほどに私を取り囲む景色はひどく曖昧で、朧げで、儚げで、 そう、それはまるで和紙に描いた絵を水の中に落としたような脆さで、 いや、モネの油絵のような覚束なさで、不透明さで、  度の強い眼鏡をかけている人が眼鏡を外すとこういう感じなんだろうか。 漠然と思考を巡らせるが、夢の中の理性に限界があるようだった。これ以上考えるな、そう誰かに言われている気がして。

        • 愛犬のこと、マロンのこと、

          「一緒にいろんな景色を見よう。一緒に旅をして、いろんな空気を吸って、いろんなことを考えて、いろんなことを思おう。約束だよ。一緒に、 ずっと、ずっと一緒に、」 悲しくて、寂しくて、あの瞳で見つめられたくて、涙が溢れて、溢れて、 根拠はない、けれど、この言葉はマロンにちゃんと、 ちゃんとマロンに伝わっているんだと、そう思えた。 そう、信じられる気がした。 僕がマロンに出会ったのは、小学校3年生の時だった。 高速道路で捨てられ何とか生き延びているところを、 従兄弟の家族が運よく見

        母と"がん"のこと、

          砂漠、モラトリアム、

          そこは果てしの無い広大な砂漠、 宇宙服を着た僕は、何とかその砂漠から抜け出そうとする。 しかし体力は尽き、水は尽き、酸素すら尽き、 僕は一歩もその場から動けないでいる。 このままでは本当に死んでしまう、そう頭では分かっているのに、 眼前に広がる砂漠はひどく広大で、広大で、 果てしがなくて、果てしなくて、 一歩すら、動けるはずのあと一歩すら、踏み出せなくて、 ああ、それにしてもこの砂漠は広大で、広大で、 孤独で、 気が付けば僕は24歳になった。 今だ学生の身。やりたいことは無

          砂漠、モラトリアム、

          孤独感、『コントが始まる』

          僕には友達がそれなりにいる。 たまに会った時他愛のない話をしたり、 たまに遊びに行こうよ、なんて言ってくれたりする友達がいる。 僕には仲間がそれなりにいる。 一緒に演劇を作ったり、一緒に何かプロジェクトに携わったり、 一緒にミュージカルを作ったり、一緒に合唱したり、一緒のゼミにいたり、 互いに教え合ったり、一緒に小説を書いたり、とかとか、 コミュニティの数だけで言えば他の人よりも多いんじゃないかとすら思う。 でも、僕はずっと孤独感を抱えている。 僕は彼らと、友達にも、仲間

          孤独感、『コントが始まる』

          毛むくじゃら、過去、

          くらやみから、僕をのぞき込む何か、 毛むくじゃらで三頭身くらいの、一つ目の何か、 それは様々な形を取り、時々薄くなったり濃くなったり現れたり消えたり、 しかし異様に大きい目だけは変わらずそこに在り続けていて、 僕を様々な角度から吟味し続けている、ぱちくり、 少なくとも僕にはそう見える、不確かで不気味な何か、 それを僕は過去と呼ぶ。 気がついた頃から、僕は過去への執着が薄かった。 それは別に特別なことではないと思う。 嬉しい記憶はすぐに無くなるし、嫌な記憶ほどよく頭に残った。

          毛むくじゃら、過去、

          喫煙

          最近、煙草を吸うかどうか迷っている。 健康上の問題とか、単純に嫌厭されるとか、そういう意味じゃなく、 自分の中で確実に変わる「何か」が、果たして僕にとって良いものなのか、 判断がつかず、コンビニに行けずにいる。 これまでは正直、煙草が嫌いだった。 嫌いな父が吸っていたから、憧れの先輩が吸い始めたから、 自分が知っているひとが煙草を吸うその姿に、複雑な感情を抱いたから、 それは、諦めのような感情だった気がする。 「この人はもう変わってしまったんだな」という寂しさと、 その

          郷愁

          「傘代わりなんです、猫」 停留所で雨宿りする私に、彼は唐突に話しかけてきた。 見上げてみると確かに、バスの停留所と思われるその建物は猫だった。手足の異様に長いしましま模様をした猫が私たちに覆いかぶさるようにして四つ足で立っている。普段はあまり見ることのできない猫のふさふさした腹が私たちを温かく包みこむ、なるほど道理で温かかったわけだ、と妙な納得をした。しかし外はまあまあの雨、猫は当たり続けて冷たくないだろうかと一瞬心配になったが、そんな私の気持ちを汲み取ってか猫はのんびりとし

          レペゼン地球

          こういう場で、僕のような人間が書くというのも面白いと思って。 というのは建前、本音は、 書かずにはいられないほど動揺したから。 レペゼン地球は、年末のドームライブをもって解散するらしい。 こういう機会でないと書かないと思うから、 レペゼン地球との出会いと、どうしてこれを書くに至ったのかを、 どうして彼らの解散にこれほど胸を熱くさせているのかを、 ここに書いて、残しておきたいと思う。 1. レペゼン地球との出会いレペゼン地球の動画に出会ったのは、大学1回生の頃だったと思う。

          レペゼン地球

          模倣、

          電車の中、スーパーまでの道すがら、 気が付いた時、誰かの真似をしているときがある。 きっかけはいつだったか、 多分、中学の頃同級生だったあの子、 生徒会長をして、クラスの劇の脚本を書いて、 運動部系のオラオラな子も、文化部系のおとなしい子も、 皆が彼を慕っていた。認めていた。 彼は僕から見ても、誰から見ても輝いていた、と思う。 彼と同じ高校に進学することになった僕は、気が付くと彼の真似をしていた 彼の電車の中での立ち姿、足の組み方、傘の持ち方、スマホの持ち方、 そうした様

          「距離感」や「遠さ」のこと

          過去より、 1  癖癖するほど見たはずの空が今日はなんだか幻想めいて見えた。  かき氷にシロップをかけるみたいにじんわりと夕日の色に染まる雲をタクシーの車内から呆然と見つめる。特にそれについて何を考えているわけでもないし、それに対して何かを感じたわけでもなかった。それでも妙に腑に落ちたというか、すとんと何かが胸の中に落ちてくる感覚、そんなものだけが心の中で静かに灯っていた。  普段はタクシーなんて乗らないのにな、吐き捨てるように心の中で呟く。夏場なのに真っ黒なスーツを着込み

          「距離感」や「遠さ」のこと

          新言語秩序

          amazarashiのライブを初めて観た。 曲をライブ前に知っていた僕にとって、身震いするほどの伏線回収だった。 今改めてその曲をウォークマンで流すと未だに鳥肌が立つほどの。 だがその反面、 僕が覚えた感情は、怒りだった。 弾圧される言葉たち、自分によって殺された言葉たち、 僕は木村花さんの自殺や、伊藤詩織さんの事件、 それにSNSで誹謗中傷を叫ぶ有象無象の事を思い出した。 また、この先起こるのかもしれない日本での言論統制について考えた。 表現の自由、自由と隣り合わせの責任

          新言語秩序

          五月、

          憧れたひとがいた、 その人に追いつこうと、 ある時は無意識に、ある時は意識的にその人を追った、 いつか、そう思ううちに数年が経った。 ある時、自分というものが見え始めた、 気が付くと憧れは尊敬へと形を変えていた。 一人として、僕は存在することができたのかもしれない、 そう思うと少しだけ誇らしかった。 その認識が幻想だと知った。 自分という個が、まだ存在していないのだと知った。 自分だと思っていた何かは少しづつ摩耗していった、 僕の中から消えてしまった。 一年前、二年前の

          熱帯魚 20.04

          脚本。駄作です。 熱帯魚 20.04 1 歪な色の壁、 カラフルな服の男女三人、 しばらく歩いて、壁を、境界線を見つける、立ち止まる、遠くを見つめる、 時折泡の音、 フィン    ねぇ、テトラ、 テトラ    どうしたの、フィン、 フィン    私たち、ずっとここにいるのかな、 クロラ、床を強く叩く テトラ    いつか、出るんだと思う、 フィン    どこに、 テトラ    たぶん、外に、 フィン    外ってどこ、 テトラ    この壁の向こうがわ、 クロラ、

          熱帯魚 20.04

          熱帯魚、

          僕は脚本を書いている。 と言っても、上演できるようなクオリティの代物ではない。 模倣と、感性と、衝動と、音楽によって形成された若気の至りだ。 でもいつか、どこかでひっそりと上演したいと思っている。 僕はこれから、「熱帯魚」を自分の脚本のテーマにしたいと思う。 いつからか、演劇のことを考える時、 自分の思考と、身体と、表現と、感性と、様々な物事を見つめる時に、 目の前を熱帯魚がちらつくようになった。 色とりどりの熱帯魚、彼らは様々な色彩を身に纏う、 ゆらゆら、ひらひら、海藻の

          熱帯魚、