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実業家でも虚業家でもなく複素業家になりたい

世の中、実業家はいても虚業家というのはいません。
虚業というのが「無価値な仕事」「意味のない仕事」「役に立ってない仕事」「堅実でない仕事」のような批判的な意味でしか出てこないワードでありますから、わざわざ虚業家を自称する奇特な人がいないのは無理もありません。

江草も正直虚業家というのは嫌ですけれど、だからといって実業家というのもなんともピンと来ないのです。
そのどちらでもなく複素業家になりたいなと。


皆様きっと「複素業?何それ?」と思われてるところでしょうが、これは例のアレです。数学で出てきた「複素数」の「複素」です。実数と虚数を組み合わせて表現される複素数「a+bi」。二乗すると「-1」になる不思議な性質を持った虚数である「i」を用いたあの複素数です。

Wikipedia 複素数」より

私たちが普段常識的に認識できる範囲の実数だけでなく、この虚数単位「i」も併用した複素数を考えることで、実軸と虚軸に基づいたそれは見事な複素平面が描き出されることが知られています。この虚数の発明(発見?)によって数学の世界は一段と深化することになりました。

Wikipedia 複素数」より

要するに、当初意味があるんだかないんだか謎すぎて机上の空論と思われていた虚数が意外や意外、世界を豊かに広げてくれているわけです。


↓虚数と複素数を復習したい方のために参考記事


で、数学の話から本題の複素業家の話に戻りますと。

一般的な意味での「虚業」が批判されるのってつまり「実業」を称賛してることの裏返しだと思うんですよね。
「価値がある仕事がよい」「意味がある仕事がよい」「世の中の役に立ってる仕事がよい」「堅実な仕事がよい」そんな実業奨励主義が背後にある。みんなその主義に沿うべきだと思っている。いわば誰もが実数直線上にあって正の値を取らないといけないと思い込んでる。

この時、私たちは実数で構成される実軸にとらわれてるように思われるのです。虚数で構成される虚軸の存在を忘れてしまっているのです。

確かに、世の中を破壊したり、迷惑をかけたり、価値を毀損するような営みは悪いことではあるでしょう。人々はそういうものを指して「虚業である」と批判してるのだと思います。

しかしながら、わかりやすい世の中に価値を生む実業(いわば正の実業)でなかったからといって、ただちに世の中を毀損する負業(負の実業)であるとは限りません。複素平面に虚軸という実数の正負の枠組みから逸脱した軸が存在することと同じように、世界の複雑さと深淵さを思えば「役に立つ」とか「役に立たない」とかそういう軸で測られるべきでない営みもあるはずなのです。

そういった虚数的な意味での「虚業」を、つまり「社会に害をなす」とか「無駄」という「負業」の意味ではなく、そもそも「役に立つ」とか「役に立たない」という実軸の直線上から外れた仕事。そんな仕事をこそ「虚業」として想像してみることはできるんじゃないかと思うんです。

一見すると役に立ちそうにない無駄に見える営みも、一次元の直線の世界を二次元の平面の世界に拡張する「虚業」であって、ある種世界を豊かにしていると言える可能性はあるのではないでしょうか。

また、数学に詳しい方はご存知の通り、虚数というのは平面上での回転作業に便利なんですよね。それと同じイメージで、「虚業」をあれこれやってるうちに回り回って世の中に役に立つポイント、意義ある実軸上の点に帰ってくることだって十分ありえるでしょう(もっとも、負の実軸上の点にたどり着いちゃう可能性もあるのですが)。

だから、パッと見での「役に立ちそうかどうか」という「実軸的」「実業的」な視点だけでなく、「なんか役に立つかどうかわからんけどとりあえず社会に害をなしてるわけではなさそうだし進めてみよう」という「虚軸的」「虚業的」な視点での仕事もアリなんじゃないかと江草は考えてるわけです。

それでこそたどり着ける境地が必ずあるはずで。


とはいえ、社会を安定的に維持するためには、実業の存在も不可欠です。食事を作ったり、物を運んだり、育児や教育をしたりという、明らかに「役に立つ仕事」がなくては社会は回りません。

だから、完全に虚業に寄せてしまうわけでもなく、完全に実業に寄せてしまうわけでもない、実業の成分も虚業の成分もともに兼ね備えた「複素数的な複素業」が一番ちょうどいいんじゃないかと。

「役に立つこと」もやるし、「どう役に立つのかよくわからんこと」もやる。

冒頭で言ってた複素業家とはこういう意味になります。
江草はそんな複素業家になりたいのです。

で、(異論はありそうですが)一応医業というのは実業のうちに入れてもらっていいかなと思うので、だからこそ、医業に加えてあえて虚業をしたいなと思っているのです。

たとえば、こうやってnoteで謎の文章を書き綴ってたりとか、正直意味あるのかないのかよくわかりませんし、ぶっちゃけ何の役にも立ってなさそうな活動じゃないですか。
めっちゃ虚業ぽいわけです。
だから良いわけです。

とはいえ、全然「業」と言えるほどのレベルには達していないので、今後とも立派な複素業家を目指してがんばる所存です。
どうやったらなれるかは全然わからないのですが、それはまあ虚数的に適当にクルクルと回転しながら考えようかなと。

江草の発信を応援してくださる方、よろしければサポートをお願いします。なんなら江草以外の人に対してでもいいです。今後の社会は直接的な見返り抜きに個々の活動を支援するパトロン型投資が重要になる時代になると思っています。皆で活動をサポートし合う文化を築いていきましょう。