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2月24日(水) フィリピン滞在40日目

こちらに来てから何匹のゴキブリを殺しただろう。夜になると街中を這いずり回る大量の彼らはどうしようもないし、諦めもつく。彼らの街だ、好きにしたら良い。しかしわたしとてわたしの空間は必要だ。わたしと部屋で一夜を過ごそうとするのは勘弁してほしい。特に寝ている間にうなじを撫でていくのはもう止めてほしい。何度目でしょう? 自己顕示欲の強い鶏が鳴き出す深夜にわざわざと起き上がってあなたを殺すわたしの身にもなってほしい。

部屋に用意された片足だけのサンダル。それを用いてさまざまにわたしはあなたを殺してきましたね。いや、殺し方はいつも一緒。叩く、それだけ。異なるのはあなた方それぞれの死に方と、死に至るまでのストーリー。わたしが待ち伏せているのにその長い触覚で探り探りにびくびくと明るい方へと出てくるあなた。直線上にわたしを見つけ、サッと寝具の下へ戻るあなた。床に置かれたわたしの大量の服を巧みに用いてゲリラ戦へと持ち込んだあなたもいましたね。あれにはなかなか手を焼きました。あれ以来、わたしの部屋のレイアウトは変わりました。ええ、死への恐怖とともに人並みの個性があなた方にもあることを認めます。

連日連夜繰り返されるあなた方の殺戮を経て気づいたのですが、サンダルであなたを殺すときの感触はとても鈍いものですね。手応えというべき感覚が床を叩く音とともにかき消えてしまう。(本意ではなかったにせよ)足の裏で踏み潰したときのあなたは、甲冑を踏み越えて、中のドロっとした体液に触れ、それもまたつぶし抜き辺りに撒く、なかなか興奮させる感触をわたしに残しました。それは想定外であったためか、これまで数限りなくあなた方を殺してきたわたしにとっても法悦とともにこの体内に残っています。

あなたにとっての幸せとはなんなんでしょう? 子孫繁栄ですか? 腹一杯の食にありつくことですか? どんな欲をあなた方は持つのでしょう? 「あなた方の街」ではない、そんな街中の「わたしの部屋」でもなんでもないこの空間と時間を共有したばかりに、理不尽にもわたしに殺されるあなたに同調します。明日は我が身。そう思いながら今夜もあなたを殺します。

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