ウルトラマンロザリス第一話「憧れのヒーロー」

 Ḿ78星雲・光の国。訓練生たちを育成する闘技場・ウルトラコロセウムでは、今日も多くの訓練生の励む声が響き渡っていた。

 その中に混じる声には、立派に成長し教官として新たな世代の若者たちを指導するウルトラマンメビウスのものもあった。地球での戦いから約1万年の時が過ぎた。かつて地球で得た大切なものを若き世代に伝えるようになった彼は、今やかつての未熟さや若さは鳴りを潜め、しかし持ち前の優しさを保ったような、そんな声をしていた。

 訓練生の中には、メビウスのように強く優しい戦士を目指す者も多かった。いつか自分も彼のように遠くの星へ赴き、か弱き生命を守り活躍したい、と願う者達だ。


 その中に混じる、一際細身のブルー族の男。彼もまた、明日のウルトラマンメビウスを目指していた。

 名前は、ロザリス。宇宙科学技術局に勤務する父と銀十字軍で看護師として勤める母を持つ、一般的なウルトラ人だ。いや、むしろ文化的な方かもしれない。戦士に向かない体躯。ブルー族の両親から受け継いだものだ。頭脳は多少周りより優れているかもしれないが、ロザリス自身は不満だった。

 「前線で戦いたい。表舞台で活躍して、武功を挙げて、多くの人に認められたい。」それが彼の願いだった。今こうして訓練生として学んでいる現状も、本来はあり得なかったかもしれなかった姿だ。心優しい両親は戦いを好まず、息子が宇宙警備隊に入りたいと言い出しただけで止めようとしたほどだった。結局訓練生として入隊できたものの、戦闘に向かない身体のことや両親とのジレンマを抱えて生きていた。



 入隊してしばらく経ったある日。訓練生としての生活にも慣れだしてきた頃、ロザリスは一人自習に励んでいた。怪獣生態学、星間地理、宇宙言語、ウルトラアイテム量子力学、戦闘倫理学…など数多くの科目があるが、ロザリスが興味を示していたのはメビウス教官が担当するウルトラ地球史だ。ウルトラマンと地球の密接な関係。それを彼は好んで学んでいた。特に惹かれるのは、やはりメビウス教官の時代だ。

「おーいロザリス!またぼっちでお勉強かよw まったくブルー族のお前らしいよなぁw」

 そう話しかけたのは、訓練生の同期のカナックだ。レッド族で恵まれたガタイなうえ、スピーディーな戦闘スタイルとスラッガーを用いた剣術に長けている、同期の中でもトップクラスの成績を誇る優秀な人材だ。だが彼はそれを鼻にかけている為、周りからの評判はハッキリ言えば悪い。まさしくロザリスとは正反対の人物だ。

「僕らしい、か…。僕らしさってなんだろうな…。」

「何言ってんだよお前w そんなもんお前の好きなようにしてりゃ良いんだよ。下らねぇことで悩んでんじゃねえよ!これだから気難しいブルー族は…」

「体の色で差別するの、やめてくれないか。」

 こういうところだ。彼の体色いじりも慣れたようで慣れないな。正直、彼の事は嫌いだ。自分の気にしてる事を容赦なく突いてくる。全くデリカシーの無い男だ…。

 彼といるだけで気分が悪い。ロザリスはその場を離れた。


 落ち着こうとしてロザリスが向かった先は、フィリスさんのいるあの場所だ。かつての古き資料が眠るこの場所は、あまり人が寄り付かない場所だ。一人になって落ち着くにはうってつけの場所だ。が、今日に限っては先客がいるようだ。

「ロザリス?どうしたんだ、こんな場所に来て…。」

 メビウス教官だ…。初めて話しかけられた。講義を受けることは多かったものの、一対一で話したことはない。彼が人気で話せる暇がないのもあるが、ロザリス自身も恐れ多くて話せないと感じていたからだ。

「あっあの…その…えっと…」

「ハハハ、緊張なんてしなくてもいいんだよ。落ち着いて話してごらん。」

 メビウス教官は優しく微笑む。近寄りがたい程の威厳を感じるはず、なのにどこか優しさは決して消えない…不思議な雰囲気を持つ人だ。

「あの…きy、教官はどうしてここに?」

「ここだと、昔のことをよく思い出せるからね。思い出の人達の事とか。」

 そう言ってメビウス教官は、一つの小さなカプセルを取り出した。その中には小さくてよく見えないが、何か銃のようなものが入っていた。これってもしかして…。

「気づいた?そう、これはトライガーショット。授業でも話したことがあったかな。僕が地球にいた頃の防衛チームの装備品だよ。でもね、これは単なる武器じゃないんだ。」

「タイガさんから聞いたことがあります。地球の皆さんからのメッセージが込められてたんですよね。」

 ウルトラマンタイガ。彼もまた地球で戦った戦士の一人。メビウス教官の弟弟子に当たる人物で、現在も遠くの宇宙で活躍していると聞いている。

「そう。今は擦り切れて聞こえなくなってしまったけど、かつてはここから確かに仲間の声が聞こえてきてね。その頃から、こっそり聞きに来てたんだ。何回も、いや何千回とね。声が聞こえなくなってしまった今でも、これを見ると落ち着くんだ。」

「そうだったんですね…。それだけ大切な方々だったんですね。」

 メビウス教官は優しく微笑み頷いた。いつも以上に優しい雰囲気を纏った彼は、続けて語ってくれた。

「僕が地球から帰ってきてしばらくした頃、スランプになってしまってね…。寿命の違いにとても悩んで時期があったんだ。仲間との寿命の違い。『離れていても心は繋がってる』。そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、現実とのギャップを感じてしまって辛くなって…。それで一時期、全く活動できない時期があったんだ。周りから勿体ない、なんて言われたくらいにね。けど、これが届いてからは違った。仲間の声。僕があそこで培ったものは確かに存在して、その思い出は決して消えない。それを感じられた時、本っ当に嬉しかったんだ。ここから聞こえた声のお陰で、僕はもう一度戦うことができた。本当に離れてしまっているけど、それでも大切なものは確かにここにあって、本当の意味で『離れていても心は繋がってるんだ』って思えたんだ。」

 彼のスランプについては噂程度に聞いたことがあった。地球の仲間との寿命の違いに悩んだ時期があった、と。でも、活動できないまでに深刻だったなんて…。今の姿しか知らなかったロザリスは、ここまでのものとは想像できなかった。

「メビウス教官でも、そんなにも悩んでしまったことがあったんですね…。」

「うん…誰でも、理想と現実の違いだったり、何かに悩むことはある。でもそれをどうやって乗り越えるか、それが大切だと僕は思うよ。僕の大切な人も言ってた。『俺たちに叶えられない夢はない。辿り着けないミライもない!』ってね。」

 ロザリスは頷く。やはり本人の口から聞くと重みというか説得力が違うな…。話として聞いていた以上に、メビウス教官の言葉がが心に刺さる。本当に彼の絆は確かなものだったんだな…。そして、切実だったかつての自分の悩みも乗り越えて強くなったのか…。

 もしかしたら、この人なら今の僕の気持ちも理解してくれるかな…。


「あの…メビウス教官。お願いがあります。」

「どうした?」

「僕の事…弟子にしてください!」

「で…弟子?僕の…?でも、それなら他にも適任者がいるよ?例えばウルトラ6兄弟の兄さん達とか…ゼロとか…同じブルー族のヒカリだって、頭脳にも戦いにも長けてるし…。」

「ブルー族…それが僕のコンプレックスなんです。本当は戦いたい…強くなりたいんです!なのに体が追い付かなくて…それが嫌なんです。強くなりたい…だから鍛えてほしいんです!他の誰にも負けない強さが欲しいんです!」

「…君の気持はよくわかった。でも、ただ強くなりたいだけなら僕じゃ責任は持てない。君の気持ももっともだけど、今の君のまま鍛えることはできない。今の君は、ウルトラマンとしての本質を見失ってる。」

「そんな…どうしてですか?!ウルトラマンが力を求める事の何が間違ってるっていうんですか?」

「ファイトの意味は憎しみじゃない。力だけを追い求めた結果どうなるのか…君だって知ってるんじゃないか?」

(ウルトラマンベリアルか…でも、僕はそうはならない。僕はただ強くなりたいだけなのに…何故誰も理解してくれないんだ…!)

 ロザリスは黙って立ち去った。誰一人、僕のことを理解してくれない。肉親も、友人も、憧れた先生も…。だったらもういっそ…。


 ロザリスは光の国から飛び立った。

 (もうこうなったら自力で怪獣を退治して、強さを証明してやる。そうすれば誰もが僕の事を認めるはずだ。僕は弱くない。僕を否定した全てを、今度は僕が否定するんだ。自分の軟弱な肉体のこと、僕をバカにしてきたあいつらを、僕を認めてくれなかったあの人を…。)

 ロザリスはヤケになっていた。なんでもいい。自分の今の気持ちを吐き出せればそれで良かった。


 どれだけの時間が経ったか。ロザリスは飛び回った宇宙の片隅に見つけた惑星に降り立った。岩石で形成された惑星。生命の痕跡はパッと見では見受けられない。周りの雰囲気からして、星間地理の授業で習った場所では無さそうだ。下手をすれば迷子である。だが、今のロザリスにとってはそんな事はどうでもよくなっていた。

「もしここに怪獣がいれば好都合だ。奴を退治してその亡骸を持って帰れば、誰もが僕を認めるだろうな。」

 ロザリスは居るかもわからない怪獣を探して惑星を駆け巡った。何周も、何周も。だがやはり生命の痕跡は何処にもない。ただの惑星に過ぎなかったらしい。それでもロザリスは無限に探し回っていた。どうしても怪獣を倒さないと…。与えられてもいない使命感に突き動かされ、ひたすら走り回っていた。


 その時だった。すぐ近くで地面の割れる音が聞こえた。驚きバランスを崩したロザリスは尻餅をつき、その割れた地面を見た。すると割れた地面から何かが顔を覗かせていた。その『何か』もロザリスを見つめている。

(ヤバい…逃げないと…)

 考えるより先に、体がそう頭に訴えかけていた。だが、恐怖ですくんだ体は岩のように固まり、まるで惑星の一部に同化したかのように動かない。

 怪獣は地面から這い上がり、大地を踏みしめた。そして、ロザリスを襲わんと睨み続けている。

 (終わった…何もかもおしまいだ…結局、僕は何のために生きてきたんだ…周りの全てを否定してばかりで、かといって自分の理想さえも守れず…何がしたかったんだよ…)

 怪獣は勢いよく走り始め、ロザリスの方へ迫ってくる。ロザリスは自分を守るように顔を伏せた。だがその視界の先には、いるはずもないと思っていた小さな生命体がいた。赤く小さいそいつは、大きさの違うその怪獣に立ち向かおうと顔を覗かせている。

「バカ!こっから逃げないと死ぬぞ!早く逃げろって!」

 ロザリスが問いかけるも、小さいそいつは聞く耳を待たないように怪獣を睨みつけている。

〈ヴォッ!〉

 怪獣が火を吐く。だがそれは、縮こまっているロザリスではなく、生気あふれる小さな生命体の方だった。

(危ない…!)

 小さな生命体は覚悟を決めて目を伏せた。だが、熱さも衝撃も皆無だ。不思議に思い、恐る恐る目を開けると…

「…危ないだろうが…。大人しく隠れてろ…。」

 そこに居たのは、さっきまで硬直していたはずの巨人だった。大きく小さな彼の背中で、自分を庇ってくれていた。

(何で動けた…?さっきまであんなに体が言うこと聞かなかったのに…。)

 ロザリス自身も驚いていた。さっきまであんなに恐れおののき、体が全く動かなかったというのに…。

「それが本当の君だよ、ロザリス。」

 聞きなれた声…まさかと思い振り向く。するとそこには、ゆっくりと地上に降りてくるメビウス教官がいた。

「君は強くなりたいと言ったね…でもそれは何の為なんだ?暴力で支配し皆を従わせる為か?それとも命を奪うことで歪んだ快楽を得るためか?…そうじゃないんだろ?僕にはわかる。君が強くなりたかった、本当の理由が…。」

 ロザリスは立ち上がりながら答えた。

「僕が強くなりたかった理由…本当は…本当は…!皆を守りたかったからだ!誰も死なせない!誰も傷つけさせない!誰の涙も流させない為の、守るための力だ!…いつからか忘れてた。誰も認めてくれない悔しさのせいで、本当の気持ちを見失ってた…でも、今ハッキリ思い出せました!僕が…『俺』が本当にやりたかった事を!」

 ロザリスは両足で力強く大地を踏みしめ、左手を握りこみ弓を引くように後方に引き、右手で剣を突き立てるように怪獣に向ける。怪獣を見つめるその瞳には、先程までの曇りは一点も見られなかった。

 「…弟子らしくなったじゃないか、ロザリス。その後ろ姿、昔の僕にそっくりだよ。」

 メビウスはクスッと微笑みながら、ロザリスに聞こえないような小さな声で呟いた。

「行け!『ウルトラマン』ロザリス!」

「はい!メビウス『兄さん』! セヤァッ!!」

 メビウスの声をキッカケにロザリスは走り出した。


 ロザリスは素早く怪獣の足元に潜りこみ、少ない体重を全力で掛けて転倒させる。そして馬乗りになり殴り掛かった。だが、如何せん肉弾戦に向かない肉体ゆえに有効性は薄い。それでもロザリスは殴り続けた。

 だがやはり怪獣も黙っていなかった。至近距離の巨人に口からマグマ光線を食らわせた。ロザリスは怯み後退する…が、再び怪獣に掴みかかる。腹部をロックし、炎の当たらない位置を確保した。そして再び腹に殴り掛かる。

 (この怪獣…アーストロンの攻撃手段は口から吐く炎と頭部の角だ…それが当たらない位置はここしかない!)

 ロザリスは何とか食いつこうと必死だったが、怪獣のパワーの方が惜しくも上だった。ロザリスは弾き飛ばされ、さらに間合いをうまく取られマグマ光線も再びモロに食らってしまった。


(まだだ…僕の見立てなら、ロザリスはまだ戦える…。彼の今の一番の強みは『アレ』だ…。)

メビウス教官は教え子の実戦を見ながら、心の中で呟いた。

「グハッ!」

 マグマ光線を食らったロザリスは後ろに倒れた。背中を大いに打ち、激しい痛みを感じる。あまり大きな動き方はできそうもない…。

(どうすりゃいい…。奴に勝つには)

「ロザリス!まだ倒す方法があるじゃないか!多くのウルトラ戦士に共通するあの技が!」

 メビウス教官がロザリスに指揮を出す。あの技…多くのウルトラ戦士の必殺技の意味だ。

「実戦で…いや、訓練でも一回しか撃ってなくて慣れてないけど…一か八かやってやる…!」

 ロザリスは両拳を胸の前で組む。組んだ両腕がスパークし、エネルギーが充填されていく。そしてそれを開放するかのように、組んだそれらを真横に開く。開いた両手の先は、充填されたエネルギーを纏っている。そしてその両手を十字に組み直し、溜まったエネルギーを一気に撃ち出した。

「ロザリウム光線ッッッ!!!!」

 ロザリスが叫んだと同時に、光線はアーストロン目掛けて飛んでいく。が、勢いが強すぎる。ロザリスは腕の形を何とか維持しながら、今にも後ろに吹っ飛びそうになった。が、体勢が崩れ、光線はアーストロンから外れてしまう。

「ロザリス!腰を入れて体勢を安定させるんだ!」

 そう叫んだメビウス教官は、ロザリスの真後ろへ飛んだ。

「くっ…腰入れて…っ!」

 ロザリスは何とか体勢こそ安定させたが、体の後退が止められない。やはり体の軽さが仇になったか…と諦めかけたとき、体の後退が止まり、同時に背中に温もりを感じた。メビウス教官だ。

「僕が君を支える、だから君は真っ直ぐ撃ち続けるんだ!」

「は、はい教官!はぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」

 撃ちなおされた光線を受けたアーストロンは、その猛攻に耐えられず爆発四散した。ものの数秒しか食らっていないだろうが、光線の威力に耐えきれる程の耐久力ではなかったのか、それとも光線の威力が高かったのか…。


「小さいあんた…大丈夫だったか?」

 戦い終わったロザリスは、さっき庇った小さな生命体を気遣った。その赤い生命体…ピグモンは、変わりなく元気に鳴いていた。

「ロザリス。もう一度聞くよ。君は何の為に強くなりたいんだ?」

「僕は…」

 ロザリスは言いながら、一瞬ピグモンを見下ろし、そして答えた。

「…守る為に強くなりたい。そして、本当の意味で皆に認められる…あなたのような存在になるのが夢です!」

 ロザリスは力強く答えた。それを聞いて、メビウス教官も優しく頷いた。

「わかったよ。本当の君を思い出せた今なら、僕にも考えがある。」

「メビウス教官…?」

「今日からは、僕のことを『メビウス師匠』って呼んでくれるかな?あっ、でもどっちかって言うとさっきみたいに『メビウス兄さん』の方がいいかな…まあ好きな方で呼んで!」

「もしかして、さっきの弟子入りの話…?!」

「ああ、今の君なら、本当のウルトラマンになれると思える。それまで、僕が君を鍛えるよ!その代わり、警備隊の訓練と同時に並行して行うから他のみんなより訓練の量が増えるよ。それは覚悟できてる?」

「…出来てるよ…!できてますとも!改めて…!よろしく…お願い致します…っ!」

 ロザリスは泣いていた。ずっと憧れていた人に認められた。それが心の底から嬉しかった。これ以上の喜びは無い。こんなにも清々しい涙を流し、同時に心の底から笑顔になれたのは、ロザリスにとって初めての出来事だった。


 こうして、メビウス兄さんとロザリスの師弟関係の物語が始まった。だが、これはあくまでも始まりに過ぎない。運命の出逢いを果たした二人をこの先にどんな苦難が襲うか…それはまた、もう少し先のミライのお話。



おまけ・ロザリスナビゲーション「ロザナビ」

・ウルトラマンロザリス…ウルトラマンメビウスの正式な一番弟子になったウルトラマンだ!必殺技のロザリウム光線は、自身でも制御できない程の高い威力を持っているぞ!

*年齢…6800歳

*身長40メートル、体重28000トン

*飛行速度マッハ10

*趣味…星間飛行






 

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