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グロースハック支援をできる個人はいても、組織は存在しない理由

私はEXIDEAというグロースハックカンパニーを10年間経営しています。

このグロースハックという考え方は、ちょうど10年前ごろに登場し、メディア戦略家のRyan Holidayが自著『Growth Hack Marketing』で紹介したことで
一躍有名になりました。今では日本のマーケティング業界において頻繁に目にする言葉です。

しかし、グロースハックという言葉があちこちで飛び交う現状とは裏腹に、”本物のグロースハック”ができる組織も、支援できる組織も日本にはほとんどありません。
いや、もしかしたら1社も存在しないと言っていいかもしれません。

私たちEXIDEAも本物のグロースハックを日々探究していますが、まだまだ道半ばです。
それだけ本物のグロースハックの道は険しい。

なぜそんなにも困難なのか、そしてそれを乗り越える方法はないのかを、このnoteでは解明したいと考えています。

1 グロースハックの誤解。”本物のグロースハック”とは何か。

グロースハックがなかなか実現されない理由。
それは、そもそもグロースハックが正しく理解されていないことが大きな原因です。

日本では、グロースハックとは単純に「高速にデジタルマーケティングのPDCAを回して、コンバージョンを最大化すること」だと考えている人がたくさんいます。
これは大きな誤解です。

“本物のグロースハック”はもっと広い活動を意味しています。
グロースハックとは、サービスを急成長させるために、ユーザーが本当に求めているものを洞察し、ユーザーにどうすればサービスが届くか考え抜くことです。

そのためには、ユーザーにサービスを知ってもらうためのマーケティングも重要ですが、場合によってはユーザーのインサイトをもとにサービス自体を変えてしまうこともグロースハックの活動の一部です。

販売促進だけでなく、製品開発も行う製販一体の活動がグロースハックには必要だということです。

2 組織的なグロースハック支援はなぜ困難か。

なぜグロースハック支援が困難なのか、それには大きく2つの理由があると考えています。

① 儲からない


極端な言い方をすると、”本物のグロースハック”の支援は儲かりません。
グロースハックの支援をするとなると、一般的なマーケティング領域のみならず、製品開発の領域や事業自体についてなど総合的な支援をする必要があります。

そのような複雑なサービス提供をするよりも、分かりやすくデジタルマーケティングなどの一部領域を切り取って、パッケージ化した方が明らかにコストもかからず売りやすいものになります。

つまり会社にとっては、利益を考えると本物のグロースハックを追い求めない方がいい。
グロースハック支援のサービスは力学的につくれないのです。

② 種類の違う幅広いプレイヤーが必要


前の章では、グロースハックには製販一体の活動が必要だと述べました。
それは1領域の専門家だけではグロースハックは実現できないことを意味しています。

本物のグロースハックを実現しようとすると、
・製品開発をするためのデザイン思考ができる人材
・マーケティングのための分析ができる人材
・お客様に支援するためのコンサルティングができる人材
それぞれの専門性を持ったプレイヤーを全員集める必要があります。

そして、それぞれの分野は思考様式も文化も全く異なります。
一般的には発想力が強く求められる製品開発と、論理的思考が求められるマーケティングは折り合いが悪く、放っておくとうまく協同できません。

だからこそ全ての領域に熟達した個人がグロースハックを提供できることはあっても、組織で大規模にグロースハック支援をすることは非常に困難なのです。

3 元祖グロースハック。トヨタは”本物のグロースハック”をしている。

では組織でグロースハックを提供することは、不可能なのでしょうか。
私はそうは思いません。

組織的なグロースハック実現のヒントはトヨタにあると考えています。
トヨタはグロースハックという言葉がない時代から、グロースハックの考え方で自動車を作っていました。まさに元祖グロースハックと言える存在です。

そのキーとなる存在は主査と呼ばれるチーフエンジニアです。
ほとんどの会社で縦割りになってしまっている企画・開発・製造・販売、このすべての領域を主査が統括しています。
彼らは大きな権限を持っており、社長を務めた豊田英二氏が
主査は製品の社長であり、社長は主査の助っ人である」
という言葉を残しているほどです。

主査の責任で製品を企画し、そのための社内メンバーを集め、社外とも連携しながら開発・製造を行い、販売戦略まで考える。
一人の人間が製品の実現という目標に向かって統括をするからこそ、トヨタではグロースハックが可能になっているのです。

印象的な事例としては、スポーツカー「86」「スープラ」の復活を手掛けた
伝説のチーフエンジニア多田哲哉氏の話があります。

当時トヨタの役員の間では、「スポーツカーといえば四駆だ」「他の企業より速くなければならない」という意見が多数派でした。しかし多田氏は顧客を調べ、「軽量で燃費がいい走り心地の良いスポーツカー」が求められていると皆を説得しました。
そしてその理想を技術的に可能にするため、様々な技術者・専門家に協力を仰ぎ、売れないと言われていたスポーツカーの復活を実現させたのです。

これはまさにグロースハックのお手本のような事例だと思います。

4 グロースハックを実現する条件。”エコシステム”によって可能に。

トヨタの事例から、本物のグロースハック支援ができる組織の条件が見えてきます。

大事なのは、まず顧客(ユーザー)のインサイトをつかむこと。そしてユーザーが求めるものを満たすサービスを開発し、ユーザーに届けるという目的に向かって、幅広い領域のプレイヤーが協同していること。そのために全体を統括する人物がいることです。

EXIDEAはまさにこのような形の組織を目指しています。
それぞれの分野に熱狂するテクノロジーやマーケティング、クリエイティブのプロフェッショナルたちを集めています。ただし、ユーザーの求めるものを実現することを第一に考えるようなマーケターたちです。時には社外とも連携しながら、ユーザーの価値に一直線に向かうプロフェッショナルたちが協同する”グロースハックのエコシステム”をつくりたいと考えています。

5 最後に。

今の日本ではグロースハックは儲からないと思われています。でも本物のグロースハックを実現しない限り、日本からは世界的なサービスは産まれない。たとえ本当に価値のあるサービスができたとしても、世界には届かない。
そんな現状を変えたいと思っています。

実はグロースハックの概念自体がそもそも、トヨタのDNAを引いています。
1980年代トヨタの生産方式が世界中に広まり、リーン生産方式として一般化されました。それがシリコンバレーで、起業の方法論であるリーンスタートアップとして応用され、最終的に成長のための方法論グロースハックとして結実したのです。

トヨタで活躍する多田哲哉氏のようなチーフエンジニアたちのDNAを
勝手ながらEXIDEAで受け継ぎたいと思っています。
余談ですが、この多田哲哉氏は私の義理の叔父にあたる人物だったりします。


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