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2-13 颯人の過去

颯人が村にやって来た翌日。颯人は迅に連れられ建設・運搬の体験をしていた。

悠介は栽培・牧畜担当としていつも通り動植物の世話をしていた。

武昌「まだ1ヶ月ぐらいだけど、もうすっかり慣れてきたね!」

悠介「そうですか?ありがとうございます。」

〜そしてその夜、早速また2人集まって話を始めた。

颯人「で、悠介。昨日の続きだけどよ、俺の話だったよな。」

悠介「うん。話してくれるみたいだったから気になってた。颯人が何でこの村に来たのか。」

颯人「悠介はいじめられたからって言ってたよな。」

悠介「うん。」

颯人「俺は…俺自身はいじめられたりしたわけじゃねぇ。」

悠介「俺自身って…。」

颯人「俺じゃなく、クラスの別の奴がいじめられたんだ。ゲイじゃないかって噂が立ってさ。」

颯人「でも俺は一緒になっていじめるなんてレベルの低いことするつもりはなかったし、かばったりして一緒にいじめられるなんてのも絶対無理だった。」

修司「かと言っていじめてる奴らを止めたり教師にチクったりすんのもバカらしかったんだよ。ま、どうせそんなことしてたとしても何も変わってなかっただろうけどさ。」

颯人「それで、何だよこのクラスって思って世の中を見てみたら、世の中も結局このクラスと同じようなもんじゃねえかって気付いたんだよ。」

悠介「どういうこと?」

颯人「…ゲイは普段はいないことにされて、存在が発覚したら差別の対象になるってのは、俺がいたクラスに限らず地球全体のどこもそうなってるってことだよ。」

颯人「こんな世界バカらしくなってさ。俺一人の力で変えられるわけもねえし、その努力だって何でしなきゃいけねえんだよって思ったんだ。」

颯人「そんなときにゲイの方こそ当然って世界に誘われたら行くに決まってるだろ?」

悠介「そっか…。」

颯人「俺がここに来た理由はそんな感じだよ。…ところでさ、悠介。」

颯人は少し前屈みになって言った。

颯人「この村に来たのはいいけどよ、元の世界から急にいなくなって騒ぎになったりしてねぇかって考えたことねえのか?」

悠介「あ、確かに…。言われたらそうだね。考えたことなかった。」

颯人「逆にすげえな。俺よりよっぽど元の世界のこと捨ててんじゃん。」

悠介「いや、そんなことは…。」

颯人「俺の予想だと、元の世界では元からいなかったことにされてんじゃねえかと思うんだよ。」

悠介「え、元から…?」

颯人「何故かって言うと、俺は元の世界で村長と会ったときに聞いたんだ。俺が行方不明になったら騒ぎになるだろうけどいいのって。」

颯人「そしたら心配いらんって言われて。どうするつもりかって聞いたけど大丈夫としか言わなかったんだ。」

颯人「放置する感じでもなかったし、このじいさん何か特別な感じがしたから、ホントに何かするんだろうなって感じてさ。騒ぎにならないようにするとしたら記憶消去とかそういうのじゃねえかなって。」

颯人「…でさ、そこで俺言ったんだ。もし何かするつもりなら何もしないでくれって。普通に行方不明になって、迷惑かけてやりたいからって。」

悠介「え、何でそんな…。」

颯人「結局それまで何もやらなかったとはいえ、元の世界にムカついてたからよ。最後に一発やってやろうと思ってさ。」

颯人「まあ、どうなってるかは分かんないんだけどよ。何もしないって村長は言ってくれたから、少なくとも子供が急に失踪したって大事件になってるだろうな。」

颯人「その原因はお前らのゲイ差別のせいなのによ。自業自得だぜ。一生理由も分からずに騒いでりゃいい。いい気味だ。」

颯人「もし俺がゲイバレしてたとしたら誰も心配しないどころか、いなくなってラッキー程度にしか思わなれなかったんだろうな。バレてなくて良かったよ。」

悠介「…。」

悠介はなんと返事をしたらいいか決めかねていた。そして、颯人の発言には直接返事をせず、こう切り出した。

悠介「…村長には確かに不思議な力があるみたい。ほら、颯人も知ってるでしょ、歓迎会で杖をマイクにして喋ってたじゃん。」

颯人「そうだな。この村には機械なんて無いみたいだし、あったってそもそもあの場には出力装置がなかったからあんな音出せるわけない。」

悠介「うん。それと、実は前にイノシシを杖の力でやっつけたことがあって…。」

颯人「何だよそれ。」

悠介はあのときの話をした。颯人は手をあごに持っていき、興味深そうに考えを巡らせていた。

颯人「…すげえな。この村、暇潰しの本とかゲームとかいろいろあるみたいだけど、そんなんよりも村長の秘密を探るのが一番いい暇潰しになりそうだな。」

そう言い出した颯人の前で手を振って、悠介は言った。

悠介「いや、やめときなよ。この前迅さんにも余計な詮索するなって言われたし。知らなくていいことなんだよ。」

颯人「ふ〜ん、そう言われると気になっちゃうな。やっぱ迅さんはリーダーだけあって何か知ってるみたいだし、聞き出せないかな。」

悠介「ホントにやめた方がいいって…。スパイみたいな真似よくないよ。」

颯人「スパイじゃねえよ。俺はちゃんとゲイだから。」

悠介は颯人の発言に不安を抱きながら、その夜は解散した。

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