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2-6 新人歓迎会

イベントエリアに到着した悠介の目に飛び込んできたのは、昼間にここに来たときとは全く違う景色だった。

悠介「わあ…すごい…!」

グラウンドの中央には大きなキャンプファイアーが上がっていた。その周りを囲むように村人が集まり、肉や野菜や、様々な食べ物が並べられていた。

迅「悠介はここに座って。砂の上に藁敷いただけで悪いけどな。」

悠介「あっ…いえ。」

ドオーーン

すると、大きな太鼓の音が鳴った。

村人一同「悠介、俺たちの村にようこそ!!!」

悠介「わっ…!」

迅「さ、今からは悠介の歓迎会の時間だ。準備してるとこ見られたらマズいから家にいてもらったんだ。ごめんな。」

隣に座った迅は、悠介にそう優しく言った。

悠介(にしても、すごい人数いるな…。何人ぐらいいるんだろ。)

キョロキョロする悠介に迅が話しかけた。

迅「49人だよ。」

悠介「えっ…。」

迅「この村にいる人数だよ。今、何人ぐらいいるか考えてただろ?」

悠介「え、そうです。何で分かったんですか?」

迅「いつもそうなんだ、みんな。ここで初めて全員と一度に会うから。」

悠介「なるほど…。」

迅「だから悠介がちょうど50人目なんだ。…あ、村長だ。話が始まるぞ。」

村長「えー、それではこれより、悠介の歓迎会を開催する。」

村長はいつも手に持っている杖を口元に近づけて話した。声が機械的に大きくなっている。

悠介「え、あの杖、マイクだったんですか!?」

迅「ははは。そうなんだよ。まあ、正確にはマイクでもあるって感じかな。」

迅「村長はあの杖を使っていろんな不思議な力が使えるんだ。マイク以外にもいろいろ出来ると思うよ、あの杖は。俺が見たことあるのは…暗いときに光を出したりとか…そんなんだな。」

村長「…では、そんなところで悠介に代わろうかの。自己紹介をしておくれ。」

悠介「あ…はいっ。」

悠介は勢いよく立ち上がり、軽く周りを見渡した。

悠介「え、え〜と、はじめまして。悠介です。」

ヤジ1「何歳ー!?」

悠介「あ、歳は14歳です。」

ヤジ2「若っけー!」

ヤジ3「タチネコどっちー!?」

悠介「タ、タチネコ…?」

ヤジ4「ヤっても捕まらないー!?」

村長「こ、これ!やめんかお前たち!」

悠介「…えー、こ、これからよろしくお願いします。」

パチパチパチパチ…

村長「オホン…、それでは、食事をとりながら自由に交流をはかってくれ。先ほど悠介に変なことを言った者どもは後でワシの家に来るように。」

ヤジたち「うわー!ごめんなさいー!」

ワハハハハ…

悠介の前には、米や、串に刺さった肉、野菜、そしてスープなどが置かれた。

悠介(すごい、バーベキューみたいだな。美味しそう。)

迅「後はこれ。この村の名物料理なんだ。シンプルな食材なのに今まで一度も食べたことのない味になってて、すごく美味しいんだ。きっと気に入ると思うよ。」

大皿に乗ったその料理は、肉や野菜が混ざり、ドロっとしたタレがかかっていた。キャンプファイアーの炎に照らされて美しく輝くその料理に、悠介は食欲を抑えられなくなった。

悠介「うわ、これすごい美味しそうですね!じゃあ早速これから食べ…。」

村人ABC「一緒に喋らない!?」

悠介「わっ!」

14歳という年齢は、この村ではとても珍しい存在だった。かつてそれほどに若い子供はほとんどいたことがなく、子供が好きな村人にすれば、とても喜ばしいことだった。

千紘「ホント現金なやつらね…。」

迅「そういう千紘だってさっき悠介の裸嬉しそうに見てたじゃねえか。」

千紘「私はそういう冗談のノリだから。でもあいつらはガチでしょ。ホントに手を出しそうじゃない。まあこの村じゃ違法でもなんでもないけど。」

迅「まあ、千紘はそういうとこ線引きするタイプだもんな。」

村人の中には、悠介に食いつく者もいれば、それぞれで楽しんでいる者もいる。悠介は、その中の一組に目がいった。

悠介(あっ、あの人たち…男同士でキスしてる…!)

村人B「ん?…ああ、あいつらは村一番のカップルだぜ!誰もあの間には入れねえよな!」

村人C「ああ、俺も早く彼氏作ってあんなイチャイチャしてえぜ。」

悠介「…!」

悠介は驚いた。男同士でキスをしている場面を初めて目にしたからだ。そしてそれを皆が当たり前に話している。彼はここで初めて、ここがゲイだけの村だと確信した。

さらに、自分がゲイであることを隠さなくていい、誰にも差別されない、当たり前に話せる、ということも悟った。

悠介(…なんて幸せな空間なんだ…ゲイであることで何も悩まなくていいなんて…!)

これからの村での生活を想像して胸を膨らませつつ他の村人と交流する悠介を、全くその場から動くことなくジッと見つめる男が一人いた。

その男は、悠介が迅に村を案内されているときに一度すれ違った敦志である。ただ一人、誰とも喋ることなく悠介のことを見つめ、何かを考えていた。

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