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落書き⑤


阿倍野神社

 帝塚山の閑静な住宅地から西へ向かう。ここには本物の住宅がある。特に多いのはイタリアの住宅様式。岸里へ近づけばソビエトを彷彿とさせる市営住宅、そして大正〜昭和の長屋がある。子供の頃の歩幅で歩いていたものを大人になって歩いたため、距離感が狂い眩暈を覚えた。ただでさえ入り組んだ道と住宅見本市をしばらく歩くとポータルのようにぽっかり開いた鳥居がある。

石段をのぼって近づく参詣者の目には、ゆくての拝殿を囲む明確な枠組としか見えない鳥居が、参詣をすませて帰る者の目には、青空だけを湛えた額縁と見えるのだ。

三島由紀夫「暁の寺」

 三島由紀夫のこの文こそ幼少期の神社建築体験を代弁してくれる。ところで、その枠組はこれといった特徴のない鉄骨と補強梁で支えられている。時の経過で崩れた貫の断面、笠木島木のように組まれた鉄材。この残骸は最後の力をふり絞り鳥居を類推できるようジェスチャーしている。

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