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真夜中の回想

「まじめな会社員」という漫画を読んでいる。
最終巻の4巻が今日届いていたので、少し早めに帰宅できた今夜、早速読んだ。
主人公が田舎から上京してパッとしない日々を過ごす30歳の設定だから、私が東京で暮らしていた30歳の頃を嫌でも思い出す。
仕事も置かれた状況も。身につまされるぜ!と思いながら読了。
江古田ちゃんを読んだときの感覚に少し近いけれど、もっと迫ってくるものがある。

私は約10年前の今頃、渋谷区の隅っこに住んでいて自転車で通勤していたのだが、いつまで経っても道中の景色が色褪せることはなかった。
シンプルに田舎者だから仕方ないのだが、7年くらい住んでいたのに、夏も冬も変わらずにずっと新鮮なままだった。
代々木八幡駅の踏切のあたりでは、いつかこの景色が見られなくなるんだろうなぁって気持ちになっていたし、自転車で片道30分弱の通勤はそれはそれは愛おしい時間だった。
行きは、代々木郵便局の緩やかな坂道を下って、OKストアを通り過ぎ、代々木八幡の踏切に捕まって、奥渋の落ち着いていながらもユニークなお店を横目にNHKを通過し、オルガン坂を上り、パルコやタワレコに後ろ髪ひかれながら少し行くと、会社があった。

東京に住んで働いていたのは、7年ほど。
楽しいこともつらいこともいろいろあったけれど、その頃の記憶は楽しかったことが多め。
まだ若さもあって、ベンチャーで身の丈より少し多めの給料をもらって、音楽や映画、舞台、美術、それからお酒を楽しんだし、セールの時期はパルコやラフォーレで散財した。
そのせいで貯金はなかったけど、音楽つながりで友達もできたし、たくさん刺激的な現場に足を運べた。
今では1年に1、2度くらいしか訪れないようなキラキラした楽しい夜が、毎週のように準備されていた。

結婚でもして東京から離れられなくなる理由ができれば、と思うと同時に、そんなことが訪れない予感もしていた。

だから、毎日自転車を漕ぎながら、時にはバスの車窓から、その景色を噛みしめるように眺めていた。「天使なんかじゃない」で、みどりがこの時間を真空パックにしたい、みたいなことを言っていたけれど、まさにそんな感じ。わたしは忘れたくない景色を何個も真空パックにしていた。

まじめな会社員の主人公は、30歳で一度地元に帰るが、ラストでまた上京する。
東京で思うように暮らせずいたたまれない日々を過ごすのも、田舎で諦念の境地でいろいろ見ないふりを決め込んで過ごすのも同じ地獄。それならば!と再度奮起して上京する主人公。
実はわたしも、地元に戻ってきて3年目くらいにもう一度上京を考えたことがある。
でも、家族の反対と自分の覚悟の足りなさで諦めた。
たらればはつきまとうが、どちらに転んでもいろいろだったはずなのだ。

その後、自分が東京に行くばかりではなく、こちらに来てもらうことを目標に切り替えた。
一度だけ大好きなアーティストを呼べたので、音楽イベント企画に携わったことがある。
嬉しかった。東京に会いに行くだけじゃなく、来てもらうことだってできる、と思った。

そして、最近は思い入れのシェアや、お金と時間の使い方に興味を持っている。
どこで何をするとしても、自分が幸せでいられるのが一番だと思う。
もちろんずっとハッピーなんてことはないけど、自分や家族、大事な人や思いもよらない誰かがハッピーでいることを感じられるのが一番。

以上、真夜中の回想でした。

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