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「逆三日月の目になる笑顔」に励まされる――宮城県気仙沼市・唐桑半島にて

気仙沼ニッティング「東北探検隊」28日目は宮城県の気仙沼市に連泊しました。残すところ、探検隊もあと二日。クライマックスを迎え、ややスローダウンしたこともあり、また泊まった宿の女将さんがとても魅力的だったのでした。
唐桑御殿つなかんは、気仙沼市街から車で30分。唐桑半島の鮪立というところにあります。昔は、鮪がよく捕れた漁港で、「まるで鮪が立って沖からやってくるよう」というのが地名の由来だそうです。

予約のお電話をした際、女将さんが出てくださったのですが、その声がアナウンサーのように滑舌も声もきれい。実際に出迎えてくださった女将さんは、笑うと目が三日月形になります。この笑顔に早くも「この宿に決めてよかった」と思いました。笑顔ときれいな声だけではなく、実に親切にもてなしてくださいます。夕食の準備でお忙しいのにもかかわらず、こちらが退屈していないかと、台所から絶えず声をかけてくれます。この日は夜は、市街で食事に行くことになっていたのですが、駅までクルマに出る用事のある女将さんは、夜道を市街まで先導してくださいました。

宿に戻ったのは遅い時間でしたが、女将さんは待っていてくださり、居間で焼酎をご馳走になりながら、お客さんと一緒になっていろんな話しをさせていただきました。

女将さんにはいろんなエピソードがあります。その声は選挙のウグイス嬢として、いかんなく効果を発揮されました。「女将さんがウグイス嬢をやると、みんな当選する」という無敗伝説もあるとか。その秘訣をご本人に伺うと、「当時は宿をやってなくて養殖の仕事ばっかりだったから、外に出るのが嬉しかったんです。そしてマイクを持つと、私はどんな議員さんより偉いんです(笑)。聞いてくださっている人一人ひとりの目を見ながら、心を込めて語りかけるようにしゃべるんです」と。

声にまるわるエピソードはまだあります。以前、NHKラジオの「のど自慢」に出演され、なんと優勝されました。そして、「ラジオで聞いた声の人に会いたくて」というお客さんが、遠方から二組も来られたそうです。

東日本大震災の際には、多くの学生ボランティアが気仙沼にもやってきましたが、女将さんは一年で延べ1000人の学生に宿と食事を提供されました。「ボランティアのボランティアだったの」。いまでも当時泊まった学生さんたちが、ここ「つなかん」で同窓会を開催するほど、多くの学生の思い出の地になっています。なかには、大学卒業後、気仙沼に移住してNPOを立ち上げた人もいます。どんな人にも明るく優しく接せられる。学生さんから圧倒的に慕われたのがよくわかります。

今年の3月、言葉にできない痛ましい出来事がありました。
女将さんは「つなかん」をしばらく休業されましたが、6月下旬から営業を再開したばかり。ボランティアにやってきた元学生さんたちや、お客さんから励ましのお便りが無数に届いたそうです。

初めてお会いした僕にも、その「逆三日月の目になる笑顔」で、本気で話しをしてくれます。楽しい話しも辛い話しも真剣に話してくれて、真剣に聞いてくれる。旅の終盤で、僕は体力も気力も相当疲弊していましたが、本気になって向き合ってくれる女将さんに、この旅でもっとも「我が家」に近い時間をもつことができました。

出発の朝、女将さん(写真左)は従業員の「ふみちゃん」(同右)と一緒に「じゃあ、行ってらっしゃい!隊長、頑張ってね!」と敬礼ポーズ。

最後は大漁旗を振って見送ってくださいました。最初から最後まで励ましてもらい、不甲斐なくも感謝しきれない。ここを繰り返し訪れる学生さんのように、僕も、この「逆三日月の目になる笑顔」を見に、きっとこの宿に戻ってくるでしょう。



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