官能文章:静止

「いい?今から僕が何を言っても、「だめ」と返事して」
彼はミントの香のするような表情で私に言った。
少し笑んだ口から八重歯がのぞく。
私は少し動揺を見せながら、頷く。それからゆっくり息を呑む。
彼は私が動揺をわざと見せている事も見抜いている。
この静止を意味する同意の返事は私たちの間では服従を意味している。
いい子だねと褒めながら頭を撫でてくれた。
それから手をまわし、風が撫でるような強さで背中を撫でた。
うぶ毛だけに触れるか触れないかの力。
私は息を吸いながらその言葉を言った。くすぐったさと快楽の丁度中間。
彼は楽しそうな顔をして「まだ何も言ってないよ」と言う。
靴下を脱がし、足先から指先をつたわせていく。
川の水面に触れ、流れを感じ取るように慎重に。
足先から下腹部まで撫で、優しくハグした。
親が子供にするような、博愛のハグ。
それから彼は目を合わせて「口を開けて」と言った。
私が言ったその言葉を彼は舌で嘗めた。
「触れるよ」と言って私の泥の中に指を入れる。
私が言ったその言葉は小さな悲鳴のようになって消えた。
私の泥の中に内臓があり、内臓の奥に心臓がある。大きく脈打つ。
彼はそれを探し当てるように触れる。
弄りながら彼は私の口の中の息と声を舌で触れる。
優しく、大切なものを確認するように触れる。上顎をなぞる。
一方の吐く息と一方の吸う息が混ざり合って一体化する。
昼下がりの微睡みのように脳液がぼんやりと動く。
私は彼の下腹部に集まっている血液を撫でる。血液に呼ばれて指先に恥じらいが集まる。
彼が小さく息を吸う音がした。
私の内臓がかき混ぜられる音もする。
彼の血液を撫でる音もする。
私のその言葉を舐める音もする。
お互いの内臓に触れあい、少しずつ加速する。
一緒に息を止め、それからゆっくり吐いた。

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