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サマルカンドで会いましょう

ユースホステルというのは、その場限りの出会いを楽しむのもあるじゃない。
と、私の親友はしばしばうそぶきます。

私は一人旅は好きだけれど、残念ながらそう行ったワンナイトラブみたいなアバンチュール系に縁遠い人間です。
自分から、例えばパブとか、クラブとか、そう言うところにも行きません。
なんとなく、興味がないのです。
一日観光したら、満足してそれでシャワー浴びて寝てしまう。
移動も元気だったら5km以上離れた場所まで徒歩で巡ります。なので10kmくらいは歩いているでしょうか。宿に着く頃はクタクタで、シャワーを浴びるのも面倒に思うくらいです。

旅行をするときは大体ユースホステルの、一部屋にベッドがいくつも並んでいるようなところをとります。たまたまなのか、いつも同室になる人たちは我関せず、同室になった人とコミュニケーションはまず取らないスタンスだったので、私もそのようにしてます。

そんな私ですが、この間の夏、タシケントのホステルに宿泊した際、同室になった人とおしゃべりをする機会がありました。
私と同世代くらいの、東アジア系の顔立ちの男性でした。
初めは、このベッドは空いているか、とかシャワーはどこに在るの?と言う質問から。そこから、どこからきたの、とか、今までどこかを巡っていたの、とかそんな話をしました。

彼はオーストラリア人で、シドニーで映像系のクリエイタの仕事をしているとのことでした。もっと質問をしてみたら、彼の親世代がインドネシアから移り住んできたとのこと。
私はてっきり華僑系かな?と思っていたので、意外に思って、
「そうなの、私最初中国人かと思ってたわ」
「そう?でも僕、中国行ったときは日本人だと思われたよ」
「そうなの?」
私はしばらくロシア系の彫りの深い人たちに囲まれていたので、東アジア系の顔立ちのこの温厚な男性との会話は素直に楽しかった。私の英語能力がもう少しマシだったらもっといろんな話ができただろうと思います。

私はその次の日、朝早くの列車に乗ってサマルカンドに行く予定でした。
「サマルカンドに行くの?実は僕も、木曜にサマルカンドに行くつもりなんだ」
「ほんとう?」
「うん、ホテルはまだ取ってないけど。君は取ってる?」
「取ってるよ」「どこ?」「これよ」
私が予約画面を見せると、彼はそれをメモに取りました。
「OK, もし空いてたらそこに僕もいくよ。そしたらまた会おう」
「いいね、わかった」
こう言うのは旅先のコミュニケーションの一つで、実行するつもりのない口約束だけれど素直にこう言うものは楽しむものだ、と何度か一人で海外をさまよううちに自ずと考えるようになりました。

翌朝早朝6時、彼はわざわざ見送りに起きてくれました。
海外の人にしちゃ、律儀な人だなぁ。そんなことを思いました。
“Well, I hope we can meet again,”
彼はそう言いました。まあ、お互いのファーストネームは教えたけど、別にFacebookアカウントを教えたわけでもないし…でも、これもこれで、いや、これくらいの軽やかさが、悪くない。素敵だ。

そう思いながら、笑顔で応えて手を振り、私は宿を後にしました。
シルクロードの果ての国の水色の空と黄色い日の光が優しい、そんな朝のことでした。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!