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触覚デザイン(Haptic Design)

先日(といっても結構経ってしまいましたが)のCEATEC2018最終日に慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 准教授 南澤 孝太 先生の「身体と経験のリデザイン」についてお話を聞いてきました。

現代は新しい技術を使って次々と新しいビジネスが産まれているということで、「VRの先をつくる」と「スポーツと結びつける」の2点についてお話がありました。

本記事では、「VRの先をつくる」の方をご紹介します。現在のVRでは実体験や人と触れ合うような体験を得るためには、まだまだ研究が必要な段階とのことです。人はどのように触れたものを感じるかという部分に関しては、皮膚と筋肉が重要と考えられており、皮膚で感じる感覚をどのようにデザインしていくかが、触覚デザイン(Haptic Design)と呼ばれているそうです。

大変興味深いですね。人間は視覚から得る情報が8割程度あると言われていますが、何かを体験すると言う文脈においてはその限りではなく、触覚の部分も大きな影響があると考えられます。そのような部分もデザインする時代になってきているということでしょうか。

ちなみに、個人的にはスポーツという視点も好きです。今回のお話でもあったのですが、新しいスポーツを作る、またはアップデートするということは、新しい体験をデザインすることとなりますので、すごくワクワクします。(子供時代に色々な遊びを考えて同じような感情をいだいた経験がある方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。)機会があれば、こちらについてもご紹介できればと考えています。

さて、今回の本題の触覚についてですが、触覚を感じる部分に指先があります。人間の指には沢山のセンサーがあり、そこでは様々な感覚を感じおり、そこにうまく擬似的な刺激を与えてあげると、触覚情報を編集して脳に届けることができるそうです。研究の一環として3Dプリンターで実際に触感を体験できるウェアラブル機器を作成したものの、制作のハードルが高かかったため「テクタイルツールキット」という誰でも簡単に使えるような仕組みを作ったそうです。
テクタイルツールキットを使用したワークショップでは、小学生がぬいぐるみに心拍を与えたり、サンダルに波の振動を伝えるようなものを作れるようになるそうです。小学生のときにそのような経験をできるなんて羨ましいですね。
大人向けにはショッカソンというイベントを開催しているということなので、ご興味のある方は是非参加してみてはどうでしょうか。ちなみに会場でのデモを実体験した方は今までにない体験である!! と、大変感動されていたのが印象的でした。

触感はデータ化してインターネット上にアップして検索することが可能になっているそうです。そうなると、色々な触覚を手軽に体験できるようになるということですね。言語化が難しかったことも伝わりやすくなり、新たなコミュニケーションツールとして役立ちそうです。

音と振動の波形はほとんど同じため、TVで5.1CHの1CHを振動として載せると、触覚を感じることが可能で、例えば、まな板の上での包丁、花火、スポーツの臨場感など、その場には実在しない感覚を生み出す研究が広がってきているそうです。新たな鑑賞体験を得られるHaptic TVという作品も展示中です。
沖縄で開催されたバスケットボールの試合を東京で体験するというイベントも開催されたそうです。自宅での鑑賞やパブリックビューイングの新しい形も増えてきそうです。

触覚情報を編集することにより、ゲームの世界でも新たな体験をデザインできるようになります。VRでは目(視覚)と耳(聴覚)が没入する状態でしたが、触覚を含めるとより体全体で没入することが可能となるそうです。触覚を得られる専用スーツを作成して体験してもらったところ、体験直後は脳が現実の世界を忘れてしまって、普通に立つこともままならず、バランスを取れなくなる人もいたそうです。自分の身体を自分でコントロールできなくなるのは少し怖くもありますが、人間の感覚が今までにない範囲までどんどん広がっていく可能性があるとのことでした。

身体の拡張という観点では、指の途中にセンサーをつけることで、指がキャプチャした振動をすべて手に返すことで、普通ではわからない感覚も拾えるようになるそうです。眼鏡や補聴器のように、人の感覚を増幅することができる機器ですね。繊細な指先の感覚が必要な職人の感覚に近づくことが可能になります。

また、人型ロボットを人の動きにシンクロさせ、ロボットが見たものと触感をその人に伝えると、その人はロボットとして動いている感覚になるそうです。
人間の脳はフレキシブルで、ペンなどの道具が自分の体に馴染んでいる感覚の時、脳は道具を体の一部としてとらえています。(「融けるデザイン」にも同じような記載がありました)
自分が動かしている感覚があれば、ロボットでも自分の身体の一部である。というかロボットが自分自身として捉えられるという感覚でしょうか。

現在の状況としては、上記のような技術を使いたいが、ビジネスにどのように繋げていいかわからないという話になることが多いそうです。そこをうまく繋ぐ新しい職業として触覚、身体感覚をデザインできる人を増やす活動をしているとのことです。上手にユーザーの課題解決もミックスして新たな体験が生み出されるのが楽しみです。

最近、XPRIZE財団がANA社と提携して物理的に旅行をしなくても/できなくても旅を体験できるテクノロジーに賞金を提供するというコンペが始まりました。新しい試みも様々なところで動いていることを実感します。

最後に遠隔での体験事例として動画をご紹介いただいたのですが、入院していて移動できないおばあちゃんが、孫の結婚式に遠隔参加して、実際にその場にいるような感覚で孫とハグして涙している映像は感動的でした。

様々な可能性を秘めた触覚デザインに注目していきたいと思います。

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