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『居酒屋の失敗』第三章「失敗の原因」その1


1.計画が大き過ぎた

(1)投資が大き過ぎた

 ここからは、失敗の原因について言及したい。まずは、誰でも分かるような比較的分かりやすい原因から挙げてみる。その中で、ある意味「これに尽きる」的な非常に分かりやすい理由が「計画が大き過ぎた」である。事業を始めるにあたってまず考えたのが

・ワンオペ含め最小限の規模から始める
・最初から理想の規模で始める

のどちらか。そして選んだのが後者で、約15坪30席の店を3人で回す計画としてしまったのがそもそもの躓きと言えよう。失敗するなどとは全く考えていなかったため、前者にて始めるといずれ拡大移転する必要が生じ、結果的に後者よりトータルの投資額が大きくなり、売上も規模に比例すると考え後者にしてしまったのである。今思えば身の程知らずだったとしか言いようがない。

 更に内・外装についてだが、これも同じように以下の2つについて考えた。

・接客含め中身が良ければ内・外装は関係ない
・同じ中身なら内・外装が良ければプラスαとなる

 しかし、これも後者を選んでしまったのが運の尽き。前述の通りだが、「老舗大衆酒場」を意識していたため、古材を使った店舗に興味を持ってしまい、古材に強い内装業者を使い、借入までして内・外装工事に約1,000万も掛けてしまった。

元は居抜き店舗だったモノの、ほぼ全面内外装は作り直し
ほぼ完璧な世界観の創出に成功したモノの…

(2)家賃が高過ぎた

 内・外装以前に家賃でも無理をしてしまった。開業の地に選んだ立川は、そもそも手頃な飲食店の物件自体が殆ど出てこないという実情がある。閉店した店舗があっても市場に流通する事が殆ど無いため、気に入った物件を見つけたら多少無理をしてでも確保する必要があった。

 そんな中、当初は家賃を15~20万で考えていたのだが、たまたま通りかかった不動産屋の店頭の貼り紙で、本当に偶然にもその日に出したばかりだという物件を見つけた。広さや形状などかなり理想に近く一目惚れしてしまったのだが、家賃が税込で約24万と予算オーバー。非常に悩んだのだが、あろう事か「4万プラスくらいならなんとかなるだろう」と考えてしまった。しかし、それは20万と比べた場合であり、15万と比べれば9万も違うというのにである。

 結果的に毎月家賃が約24万と、1年後からは毎月約14万の借入返済が始まるため、それだけで約38万もの支出が必要な計画となってしまった。
 更に個人としての支出で住宅ローンが月約10万、それ以外にも家族の生活費に子供の教育費等々も必要である。

 厳しい経営状況の中、店を続ける方策としてワンオペにするという選択肢もあったのだが、これだけ支出があってのワンオペ営業では、売上的にもかなり厳しく、損益分岐点を計算した結果、とても無理だという結論となってしまった。完全に「風呂敷を広げ過ぎた」状態だったのである。

2.経験と準備が足りな過ぎた

 これも非常に分かりやすい原因で、簡単に言えば「ド素人がいきなり飲食店を開業しても上手く行く訳が無かった」という事である
 前述の通り、サラリーマン時に飲食店の立ち上げからメニュー開発を含む運営までを経験していたものの、自分が常時現場に立って調理、接客をしていた訳では無く、特に調理経験は、料理教室に1年通ったのと月1くらいの家での夕食作りとたまに自分用につまみを作る程度だった。

 しかし、自分が調理する前提での開業にさすがにそれでは経験が足りな過ぎるため、ある程度修行はするつもりだったのだが、当初予定していた店で断られてしまい、仕方なくいくつかバイトの面接を受けてみたものの、1年以内に辞める前提だったため、全て不合格となってしまった。
 結局、何度か飲みに行った事がある店に頼み込んで無給で4ヶ月修行をさせてもらったのだが、オープンしていざ自分で全てやってみると、全く経験が足りない事がすぐに露呈してしまった。

カツオのへそ(心臓)味噌煮

 結果論だが、最低でも1年はガッツリ調理の経験をしておくべきだった。今考えれば当然の事なのだが、膨大な事業計画書を作成した事でも分かる通り、自分は理屈をこねる能力がかなり高く、不利な要素でも「こうすればカバーできる!」と机上論だけで解決出来ると思ってしまったのがいけなかった。

 そもそも「世の中、未経験で脱サラして飲食店を開業して成功している人達もいる!」というのが常に念頭にあったのが間違いのもとだった。経験者も含めて開業3年後には70%が廃業する業界で、前述のような人達はある意味「神」な訳で、簡単に神になれると机上論だけで信じ込んでしまったというのが根本的な間違いだったのである。

3.料理の誤算

(1)事前仕込み料理の誤算

 経験と準備が足りな過ぎた結果、営業後すぐに行き詰ってしまったのが「料理」である。自分で調理するにしては、かなりの経験不足で臨んでしまったのは否めない事実。しかし、当然自覚もあった中で、それを克服するやり方は考えていた。
 それは、アミューズメント施設の飲食店で実践していた「事前に仕込んだ料理をメインにして営業中の調理を極力減らす」という手法。おでんや煮込み系料理を事前にじっくり時間を掛けて作っておけば多少腕が無くてもある程度の完成度で提供出来るという理屈である。

 しかしこれが大きな誤算で、基本的に営業前の準備は全て自分一人でやる計画だったため、営業時間以外の手間、特にオープン前の手間がかなり膨大になってしまい、慣れない飲食業の生活リズムとも相まって、本当に毎日時間との戦いで気が狂うかと思ってしまった。

(2)メニュー変更の誤算

 仕方なく事前仕込み料理中心の当初計画を変更し、営業中に調理するメニュー中心にシフトしていったのだが、レパートリーも乏しく、既製品や冷凍食品にも頼らざるを得ない状況になってしまい、今度は毎日「こんな料理ばかりで良いのだろうか?」と自問自答しながら営業するような状態に陥ってしまった。
 更には、グルメサイトで他店のメニュー写真を見るたびに自己嫌悪に陥ってしまい、とても健全に営業できる精神状態では無くなってしまったのである。

(3)食材の誤算

 コンセプトである郷土静岡の珍しい食材があまり受け入れられなかったのも誤算だった。自分としては、味、インパクトなど絶対的な自信を持っていただけにかなりショックが大きかった。「調理が未熟な分を食材でカバーする」という意図もあったのだが、やはり珍しいものは、一時的には興味を惹くが、リピーター確保の観点からは向いていなかったのである。

いるかのスマシ

(4)酒がメインの誤算

 営業方針として「酒」の方がメインと考えていたため、料理を軽視していた事も誤算だった。もちろんそういうやり方で成功している例も多々あるのだが、こぢんまりとした店ならまだしも30席で月に200万以上売ろうという計画には完全にミスマッチだった。

自分が大好きな日本酒を多数取り揃えた

4.立地の見誤り

 物件の立地も結果的には失敗の原因となった。なかなか物件が見つからない中、たまたま路面店で規模なども理想に近い物件が出て来てなんとか確保したのは前述の通りだが、実は、立地的には自分が事前に決めていた出店可能エリアから少し外れていた。

 ところが自信満々だった自分は「多少立地が悪くても内容が良ければ客は呼べる」と考え、少しくらいならなんとかなると突っ走ってしまった。
 しかしながら、明らかに人通りが少なく、その店に行こうという意志が無いと行かないような立地なのは否めず、店にもそこまでの魅力は無かったという結果となってしまった。皮肉にもさんざん自分で飲み歩いて決めたエリアの方が正確だったのである。

 立川は、立川駅の乗降客数こそ1日約17万人と非常に多いのだが、人口自体は約18万5千人とそれほど多い訳では無く、ほとんどが市外からの流入であり、駅から少し離れるとすぐに人通りが少なくなってしまう。
 しかしながら乗降客数が多いゆえに大手チェーン店もこぞって出店し、中小企業の多店舗展開や個人店も多く、明らかに居酒屋は供給過多となっている中で、素人の初開業店の立地が悪いというのは、ある意味致命傷だったと言えるのである。

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