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たまには、創作小説でも...

ショートショート
右足に宿るAI(愛) 

注文しておいた婚約指輪を受け取った帰りに、交通事故に巻き込まれ右足を失った僕は、将来に絶望し彼女である「愛」の足かせになることが許せなくて、別れを選択する。沈んだ気持ちを引きずりながらリハビリを続ける日々の中、以前愛に促され応募した最新型AI搭載義足のモニター被験者に選ばれたというメールが届く。
指定された日に研究所に行き手術を受け翌朝目覚めると、自分の右足がとんでもなくメカ感を醸し出している。しかし、驚いたのはそこではなく、AIが聞きなれた声で話しかけてくること。しかも愛の声で。どうやらこの右足は愛のデータを元に組まれたAIを搭載しているらしい。最新式らしく非常に滑らかな動きをするが、長時間の稼働ができないという欠点があった。その欠点を補うため、ソーラーエネルギーを集約するレンズ代わりになるものとして、愛に渡すはずだった婚約指輪を差し出した僕は、AIと共に街を散策する。
すると、偶然おばあさんがスクーターに乗った男に鞄をひったくられる現場に遭遇する。「許せない‼」と憤慨するAIは僕を引きずるように男を追跡。見事、男を蹴り飛ばし犯人を逮捕。凄まじい性能を示す。それからは、子供が遥か屋根の上に飛ばした風船をジャンプして掴んだり、坂道から転がる10個のオレンジを一瞬で拾い上げたり、変質者を蹴り上げたりと大活躍を繰り広げ、街の人気者になる。
そんなある日、ショッピングセンターで買い物中、巨大な地震が街を襲う。駐車場が一部崩れ、たちまちパニックに。逃げ遅れた人々を救助していた僕とAIは、「大事なクマのぬいぐるみを車に取りに行った妹が戻ってこない!」と半狂乱になっている小学生の少女と会い、その子の代わりに妹ちゃんを探しに行く。駐車場は半壊状態で貯水プールから水が漏れだし、切れた高圧電線の地下ケーブルに触れると即感電するような危険な状態。がれきをかき分け妹ちゃんのいる方向へ向かうと、車内に閉じこもって助けを求める姿を見つける。車に駆け寄り、「助けに来たよ。もう大丈夫。」と抱きしめた瞬間、再び駐車場が崩れ、周りに大量の水が溢れだす。助かるためには右足のみで水に浸かり大ジャンプをして水たまりを飛び越えるしかない。しかし、それをすると、AIが故障する。それを聞いた僕は研究所に頼んで、必ずAIを蘇らせると誓うが、それは不可能だとAIが言う。そこで僕は衝撃の真実を知る。
実は、愛は先月亡くなっていたのだ。僕が事故にあったあの日、愛は自分が通う病院で自分の余命があと1年ないだろうと告げられる。その後、僕の事故を知り二重の絶望を味わった愛は病院で確認させられた所持品の中に婚約指輪を見つけ、残りの人生をAI用のデータを提供することに尽力する。そして、必要なデータの提供が終わると愛は息を引き取った。彼女のデータにバックアップが無く、オリジナルは亡くなっているため、復元はできないという。僕は拒否するが、AIは決死のジャンプを敢行する。
地震から数週間後。再び研究所で手術を受けた僕の右足には新しいAI‐2が搭載された。
……っていうか、復元できないって言ってなかったっけ?僕が不満に近い疑問を漏らすと「復元じゃないし、バージョンアップだし」新しいAIがとぼけたように答える。
「正直、前回右足に搭載されてから壊れるまでの記憶はないから、とりあえず指輪貰うところからやり直していい?」

 

※身体が不自由になり、こんな義足が欲しい
なぁという思いから、昨年の末に書いた作品をです。(若干、手直ししました)
いつか、こんな義足が普通になって、つま先からビームが出たり、膝からミサイルが出たり、腿から鳩が出たり、靴底から飴ちゃんが出たりするかもしれませんね笑

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