いつかの君を想って

 自分でいうのは多少気は引けはするが、勉強はそれなりにできるほうだ。市立中学の100人にも満たない学校で5位以内に入れるくらいには。学校での生活態度もいたって真面目であり、内申点も高い。そんな僕が中学3年生になってから、職員室に幾度となく呼び出されている。

 まじめに勉強していた反動でぐれた?違う。友達がいないことを心配されて、相談を受けている?これも違う。確かに、冒頭一言目から聞かれてもいない自分のスペックについて語りだす僕に、友達がいないことは言うまでもないだろう。しかし、僕に友達なんて必要ない。最低限困らない程度(はーい、2人組を作ってー。に怯えない程度)の交友関係を持ち、あとは自堕落な毎日を送っている。

 そんなことはどうでもいい。僕が毎日のように職員室に呼び出されているのは、お察しの方もいらっしゃるだろうが、僕の志望校についてである。自分のレベルに合った学校に行くために、志望校を変更するとかであればまだ良い。僕は、志望校を決められずにいた。
 
 勿論、受験の重要性は理解している。3年生になりたての頃は、志望校が決まらない子も多かった。だから、僕一人が目立つこともなく、安心して結論を先延ばしすることができたのだ。それが夏休み前にもなると、周りのみんなは志望校を完全に決めたとは言わないまでも、私立か公立か。推薦か一般か。その程度の絞り込みはできていた。決まっていないのは僕だけだ。

「そろそろ決めないと。夏休みの勉強にも影響してくるだろう」

 うちの担任は決まってこう言う。別にいいじゃないか。どこかには行けるんだから。僕の勝手だろう。

「今はいろいろな高校について調べているところで 明日には志望校を決めます」

 担任の決まり文句に、僕はいつもこの決まり文句を返す。こうやって、その場しのぎで責任から逃げ続けて、何をするわけでもなく自堕落に生きるのが僕、天野耕太郎の人生だった。

 担任もため息をつかずにはいられない。
「とにかく今日はもう帰りなさい 一度決めたらそれから変えられないルールなんてないんだ
方針だけでも決められるようにな」

「わかりました さようなら」

 7月が暑いのはわかり切ってることではあるが、限度を考えてほしいな。そんなことを考えながら自転車をこいで正門に向かう。学校の校庭には、声変わりを経て、むさ苦しさに拍車のかかった男たちの雄たけびじみた声と、声変わりなんて縁のない女子生徒たちの、やたらテンプレじみている掛け声が聞こえてきた。

 僕は昔からこうやって、自分で決めることから逃げてきた。中学校の部活動も結局自分で決められなかった。勉強も、部活動に入らない言い訳の為に続けていただけだ。元々、要領はいいほうで、一度経験すればある程度のことは理解できる。でも、それと実際に行動するのはまた別の話だ。僕は帰ったら、いつもと変わらずに意味のない動画アサリをして一日を終えるのだろう。

 そんなくだらないことを考えているからだ。誰に向けたかもわからない言い訳を並べて、自分を正当化して、だから僕はー

 

 くだらないところで命を落とすんだ

 死の瞬間、僕はまず運転手に謝っていた。

 ああ、ごめんなさい。飛び出した僕が悪いのに。あなたはこれから路頭に迷うことになってしまう。本当にごめんなさい。
 ・・・つまらない人生だったな。

 それからどれくらいの時間がたったのかはわからない。一瞬だったような、長かったような。とにかく僕は、目を覚ましたのだ。間違いなく正面衝突で、助かるはずもない。でも、奇跡的に助かったのか?でなければ説明がー

「もしもーし 聞こえていますかー? 天野耕太郎君」

 振り向くとそこには、白髪のロングストレートに白のワンピース、銀色の瞳をした10歳くらいの女の子がしゃがみ込んでいた。待ちゆく人が見かけたら振り返るであろう程の容姿も含めて、どこか天使を想像させる。

「・・・天使ですから」

「!!」

 本当に天使なんているんだ。ていうか、このタイミング・・・もしかして

「はい、あなたの心の声、しっかり聞こえてますよ」

 やっぱり。天使も意外と悪趣味なやつらなんだな。

「何ですか悪趣味って 仕方ないでしょこっちだって聞きたくて聞いてるわけじゃないもん」

 ぷくっと膨れる天使なんかに構ってる暇はなかった。

 そうか、死んだんだな、ぼく・・・。結局何も成せないまま、ダラダラと時間だけを過ごして。その場しのぎの言い訳で決断を先延ばしにして。

「結局最後まで・・・自分のいく高校すら決められなかった・・・」

「天野君・・感傷に浸ってるところ申し訳ないんだけど
立ってもらえますか?ついでに走る準備をお願いします」

 そういうと天使は、立ち上がり僕とは反対方向を見据えていた。そういえば、ここはどこなんだろうか。辺り一面には草原が広がっており、空には雲一つない心地よい空が僕たちを包み込んでいた。

「走るって・・これから何をするんだ?」

「来ます」

 ゴオオオとすごい音が鳴った。それと同時に魂の叫びを体現したような塊が姿を現した。悪霊と呼ぶにふさわしい容貌だろう。それはひどく歪で、一つ一つが苦しんでいる人たちの顔の様だった。そして、それらは明らかに近づいてはいけない異様さがあった。
頭ではどういうことが起きているのかを理解することはできる。ただ、そこから行動することは別の話である。

 走るって・・これから逃げろってことか?いや無理だろ・・だって、足が・・・

 僕の足は震えていた。当然だ。こんなファンタジーの世界にしか存在しない悪霊を見て、満点回答を出せるのは、それこそ化け物じみた、ファンタジーの世界の住人なのである。僕はただの中学3年生だ。元だけど・・・。

「ウオアァァ!!!」

 悪霊が襲い掛かってくる。横の天使は顔色一つ変えずにため息を一つついて見せた。すると、天使の手元に一冊の本が現れる。その本は以下にも魔術書のようなずっしりとした重みのあるものだった。本が光りだすのと同時に、宙に浮きページをめくり始める。

 とあるページで止まったかと思えば、本の中心からとてつもない音と一緒にビームが飛び出した。そのビームは悪霊のちょうど中心を貫通した。

 あまりにも突拍子のない目の前の光景に、茫然としている僕を察してか、天使が話し始めてくれた。

「これが私の能力です。私たち天使は、下界(人間世界)で生きていた時の経験を基にした能力を与えられます。私は本を読んで、知識を蓄えることが好きでした。」

「すげえ・・・」

「あなたにもありますよ 自分では気づかないだけ あなたにも あなただけの力が」

「俺に・・?」
 
 しかし、肝心のビームは悪霊にダメージを与えるには至らなかった。あれはビームを避けるために、悪霊が変形したのだった。

「しつこいですね・・・」

 再び天使の本のページがめくられる。そこから今度はビームではなく、一本の剣が飛び出してきた。

「昔なんかの小説で見た退魔の剣です 奴に一撃を入れることができれば 私の勝ちです」

 天使は自ら、悪霊に向かって突進する。羽はないのに飛べるんだ。そう最初に思った自分が少しだけ嫌になった。

『あなたにもありますよ』

 僕に?僕だけの力・・。あるわけないだろそんなもの。決断することから逃げて逃げて逃げ続けて。僕の人生に、誇れるものなんて何一つ存在しない。そんなやつにも等しく能力をくれるほど、神様だって優しくはないだろう。いるか知らないけれど。

「なんか、自分がどんどん嫌いになっていくな」

 天使と悪霊は一進一退の攻防を繰り広げているように見えた。天使の剣は、紙一重で悪霊に避けられる。いまだに腰を抜かしている僕は、二人の戦いを見ていてあることに気づいた。

 天使と目線が度々合うのである。恐らくだけど、僕を庇いながら戦ってくれているのだ。僕が、何もできない・・いや、何もしようとしないから。

 この時なぜかトラックにはねられた時のことを思い出していた。そうだ僕は、こうやってほかのことを考えているうちにー

「逃げて!!!!」

 天使の声で気が付き上を見ると、悪霊が目の前まで迫っていた。

ああ、そうだそうだ。そうだった、あの時もこうやって目をそらしているうちに、僕はトラックにひかれたんだっけな。

あ、終わる

 直感でそう感じた。死ぬとかそういう感覚の話ではない。あの悪霊の中に取り込まれる。嫉妬、怒り、悲しみ、数々の人だった何かの怨嗟にまみれて一生抜けられなくなる。そう感じた。

 悪霊の体の一部が人間の手のように形を作り、僕の方へと伸ばしてきた。
 しかし、間一髪のところで天使が自らの体を盾に僕を庇ってくれた。悪霊は天使を取り込もうとする。

「邪魔を・・・するなっ・・!!!」

 天使は、必死に抗い、本からビームを発射する。避けられはしたが、悪霊を引きはがすことに成功した。

「おい天使!!だいじょうぶ・・」

「ええ 大丈夫ですお気になさらず」
 
 天使の右腕が自身のビームによって消し飛んでいた。右腕は焼け焦げたように、黒い煙を浮かべている。そして何よりも、天使から僕を責める言葉の一つも出てこなかった。せめて、責めてくれよ。罵ってくれよ。

「天使・・僕のせいで・・」

「本当にお気になさらず・・熱線で助かりました 止血の心配がありませんから」
 
「・・・!」

 彼女の額には汗がにじみ出ていた。当たり前だ。手を失ったんだぞ。痛くない・・はずがない。

 今ほど、自分の人生を呪ったときはなかった。あの時こうしていたら、もっと自分の人生をしっかり考えていれば、もっと向き合っていれば、もっと充実の人生を送れれば・・

 僕は今、彼女を助けることができるはずなのに。

「どうして・・僕なんかの為に・・」

 天使はにこやかな表情を浮かべていた。

「私も同じように・・助けられたからです」

「!!」

「ククク・・・」

 悪霊が不敵な笑みを浮かべている。

「お前がいなければ・・・そこのガキ一人だったら こんなことにはならなかったんだぞ?小僧」

「・・・」

「悲しいか?悔しいか?惨めか?安心しろ 俺が救ってやる
こっちにこい ここはお前と同じ・・怨嗟であふれる魂のゆりかごだ」

「・・・」

「どうした・・・?これすら自分で決めることができないか?ククク・・お前という奴は本当に・・
下界でも・・この世界であっても・・どこまでも下らぬ人生であったな!!!小僧」

 悪霊と魂たちはいっせいに高らかに笑いだした。僕に言い返せる言葉なんて一つもなかった。

 もういいだろ・・どうせろくでもない人生だったんだ。最後くらい自分の意思で・・・

僕は立ち上がり、もう終わりにしようと思った。折角、自分の腕を犠牲にしてまで僕なんかを助けようとして、天使って大変だな。助ける相手は選べないのか?ごめん、ほんとごめん。不義理でごめんなさい。

「それは違います」

「!!」

「何のためかわからない今の先にも・・必ず未来は待っている すべての人間には己を愛する義務があります」

「なんだお前は・・まだやる気・・」

「お黙りなさい!!」

 天使は右腕の傷口をつかんでいた。しかし、その力強い目線は、確実に僕を捉えていた。

「貴方に言ってるんですよ・・天野耕太郎君・・!!」

「僕に・・・?」

「取り消しなさい・・自分で・・自分の人生をろくでもないなんて そんな悲しいこと言わないで」

「??何を言ってる・・あのガキ」

 そうだこの天使。僕の考えを読めるんだった。

「人生の価値がなくなってしまう瞬間は・・一つしかないわ・・
自分自身がその人生を愛せなくなったときよ」

 ・・・愛せるのか?あんな人生を。ずっとその場しのぎで生きてきて、決断から逃げて逃げて。そんな人生を愛せるのか?

『すべての人間には己を愛する義務があります』

 ・・・愛してもいいのかな・・。

 その瞬間、僕の体は光に包まれた。特段変わった様子は外見には見られなかった。外見には。

「なんだ・・・これ・・」

 さっきまでとは明らかに違うところ、それは僕の頭の中、意識的部分といってもいいだろう。とにかく、自分にできる事が、イメージが、急速に湧き上がってくるような感じがしたのだ。

「天使さん!!こっち!」

 僕は天使の左手をとり、自身の能力を発動させた。天使のような翼と共に、僕は悪霊から距離をとることを試みる。

「ちっ!!あのガキまで」

「天野君!!」

「天使さん 掴まってて」

「あのガキの能力は飛行系か・・・ 反撃の恐れはあの剣のみ・・
厄介な天使のガキは手負い」

 悪霊はにたりと笑いスピードを上げて追いかけてくる。今にも手が届きそうな距離まで詰められてしまった。

「今だ!!」

 僕の合図と同時に天使が本からビームを発射する。しかし、それに細心の注意を払っていた悪霊に難なく躱されてしまった。

「そのビームは一度打った後は多少なりのインターバルが存在するな!!」

 悪霊はさらにスピードを上げる。もうその脳内に、ビームのことは消えていた。

「そりゃ警戒しないよな。僕でもそうする」

 僕は、天使の本を手にビームを至近距離で悪霊に発射した。

「なにっ!?バカなビームはさっき・・・」

 先ほどまでの天使が放ったそれとは、比べ物にならない大きなのビームが、悪霊を包み込んだ。

「ぐあああああああ!!!!・・・・あああれ?」

 確実に食らったはずだった。現にビームは、悪霊の体を包み込んでいる。

「食らったって思ったよな?残念くらってないんだよそのビームは・・あるようでそこには存在していないんだ」

「???どういうことだ??」

 僕は思わずに二やついてしまった。自分の能力に、作戦を実行したことに。

「『その場しのぎ』・・・それが僕の能力だ!!」

「!!」

「気づいたかい?そのビームもこの羽も 全部あるものだけど存在しないんだ だってその場をしのげればそれでいい
そんな能力なんだから この羽も時期に消えるよ」

「バカな・・・ならばあのビームは・・」

「勿論ブラフだよ・・・本命は・・・」

 悪霊は後ろを振り向く。そこには、退魔の剣を手に大きく振りかぶった天使がいた。天使は剣を振りかざし、悪霊を両断した。
悪霊は断末魔をあげ、塵ともいえぬように消えていった。耳を澄ますと、捕らわれていた魂たちの声が聞こえてきた気がした。

「・・・ありがとう・・・」

 ・・・。僕にもこんな風に、感謝されることがあるんだな。素直にそう思った。

 そう感慨に浸れたのもつかの間、僕の背中の羽が消えてしまった。着地のことなど考えていなかった。正直僕の能力なら、どうにでもなるんだけど、この時は頭が真っ白になっていた。でも。

「おっと 駄目ですよ最後まで油断しては」

 天使が受け止めてくれた。助けてくれたことより、受け止められた時の衝撃のなさにびっくりした。

「・・ありがとう天使さん・・」

「お礼を言うのはこちらですよ 天野耕太郎君」

「・・・そんなの言われる筋合いないよ・・天使さんがいなかったら、僕は自分の事も嫌いなままあの悪霊に飲み込まれて
永遠と世の中とつまらない自分の人生を憂いていたんだろうと思う」

「・・なんか・・ずいぶんと素直ですね・・」

「・・・!!だってどうせ思ってることなんだからいいだろ!?思考読まれるよりは口にしたほうがいいと思ってそれで・・」

 本心だった。後は、自分で色んな決断をして、成果を出せた。その事実に興奮していたのもあるのだろう。

「だから・・・ありがとう」

「・・・いえいえ」

 天使がにっこり笑った。その顔はまさに天使であった。

「さて僕はこの後どうすればいい?天国に行けるのか?それとも地獄?」

 天使は面を食らったような顔をしていた。そんな顔されましてもというのが本音ではあるが、黙って返事を待つことにした。まあ、これもすでに聞かれているんだろうけど。

「あなたはまだ死んでいませんよ。」

 天使の発言に耳を疑った。思わず聞き返してしまった。

「あれ?私あなたが死んだなんて一言でも言いましたっけ?」

 ・・確かに言っていない。僕が勝手そうなんだろうと思い込んでいただけだ。でも、天使あんた、僕の考えが読めるんだろ?その考えが出たときになんで否定してくれなかったんだ。やっぱり、この天使は悪趣味だと改めて思った。

 天使は僕の考えに不満そうにしながらも、続ける。

「ここは、天国でも地獄でもない 生死の境目にいる者が来る場所。さっきの悪霊は死そのもの。あいつに取り込まれていたら君の死は確定してしまっていたわ。たぶん、もう大丈夫。今頃現実では、峠を越えたあたりのはずです」

「僕は・・まだ生きてる・・」

「あなたが生きる意志を、自分の人生を愛する覚悟を示したからですよ」

「僕は・・なんていえばいいのか・・」

「何も言わなくて結構です。それが私の役割ですから」

「・・・」

「天野君・・あなたの役割はもう言わなくても分かってますね?」

「・・・ああ・・」

 すると、僕の体を白いモヤのようなものが包み始め、その途端に全身に痛みが走った。現実の僕が、意識をとり戻し始めた証拠なのかもしれない。

「お別れですね・・天野君」

「天使・・俺、頑張るよ・・その場しのぎなんてしみったれたものじゃなくて・・もっとすげえ・・どえらい能力を手に入れて、もう一回あんたに会えるように!!」

 天使は笑顔で手を振ってくれた。顔を少しばかり斜めに傾け、手首から上をヒラヒラさせるように手を振るその様を少しだけあざといなと思いながらも、僕は必死で手を振りかえした。

 気がつくと、そこは真っ白な壁に囲まれた部屋だった。僕は体を起こそうとするが、全身に力が入らないどころか、響くような痛みが全身を襲った。特に右腕に感覚がなく、対して力の入らない左腕で布団をめくりあげる。

 ・・・僕の右腕は、事故の影響でなくなってしまったらしい。しかし、僕には不思議と喪失感がなかった。新しい何かが始まるような、そんな期待を胸に、再び眠りにつくことにした。

 あの出来事は夢だったのだろうか?そんな想いを反芻し、夢でもいいと思った。

 消えなければいいや。僕はもう決めていた。次に会うときには、もっと大きい翼を、どデカい剣を、力強いビームを。
そんな自信に満ち溢れた姿で、もう一度あの子に会えるように。僕はこれからの人生を必死に生きていく。

 次の日の朝、目を覚ますと担任の先生がお見舞いに来てくれていた。日々の教職の仕事で疲れているだろうに、休みの日にわざわざ駆けつけてくれたのだ。その事実さえも、以前の僕には何も響かなかったであろう。

「・・天野・・お前、よかったなあ・・俺もお前が無事で・・本当に良かった!」

 大袈裟だと思いながら、僕は表情だけで反応する。
あ、そうだ。これを伝えないと。

「先生・・僕、志望校決めたよ」

 そう言って僕は紙ぺら一枚を先生に渡した。看護師さんに代筆してもらったのだ。

「!!ここは!」

 僕が志望する高校は、僕の住む都道府県の中では1番高いレベルの高校だった。僕でも今から必死に勉強して、合格できるかどうかギリギリのラインといったところだろう。

「・・そうか、天野・・お前頑張ったんだな」

 勿論、勉強だけできればいいって問題ではない。利き腕の右腕を無くしたんだ。文字は書けるようになるのか、書けたとして、そのハンデは、高校の試験で足枷にはならないのか。

 僕が疑問に感じたことだ。先生も疑問に思ったに決まっている。ただ、先生はそのことについては一切触れなかった。僕の決意に背中を押してくれる気がした。

 僕はもう決めたんだ。目の前の現実から目を背けずに、必死に足掻いて、もがいて。そんな自分を心から愛したいと思ってる。

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