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湯けむりを愛す女

「足が少しでも良くなるように日帰り温泉でも行かないか?」

と夫が言った。

「どうやって?家のお風呂もやっと入ってるのに」  

夫はいつも唐突だ。そして無茶を平気で言う時があり、時々喧嘩になる。

「いつも健康で正しい貴方にはわからない」

…的な事を私は態度や言葉じりに皮肉を混ぜて言ってしまったりする。悪い性格だとは認識しているけど、どうしてもそうなってしまう。

こんな風に夫と歯車が合わなくなったのはいつからだろう…。

せっかくの提案にネガティブな反応を返してしまったと少しばかり反省していると、

「いや、家族風呂。なんだっけ?シャワーチェアー?とか、手すりとか、段差ないとこ見つけたんだ。行こうよ」

「そんな所あるんだね…。連れて行くのも大変じゃない。無理しなくていいよ。」と私。

「俺が行きたいの。」

いつもなら喧嘩の流れになるのにアッサリと行く事が決まってしまった。

私の住む地域は車で20〜30分ほど走れば温泉がある。

足を患ってから、夫は私に対して適度に「諦めて」くれるようになった。

真っ直ぐで自分にも他人にも嘘がないからだと思うのだが、言葉がいつもストレートで強すぎる。私とはまた違った「不器用」さが彼にはある。

妥協を許さない性分で、家族に「喝」を入れる事が多く、息子も私も娘も恐れと呆れと戸惑いを感じていた。だから、日頃から「夫」vs「私と子ども」といった構造になる。夫は孤立してしまい、私はその関係性に懸念がありながらも、取り繕ったり、改めたりするようなことはして来なかった。

夫の言葉に過敏に反応する私に対して、夫は向き合い方を変えてくれているように思う。

私は温泉が大好きだ。

元々冷え症なのもあるが、ゆったり足を伸ばして温まり、露天風呂で大きく深呼吸する事がこの上なく贅沢な時間だと感じる。

幼い頃から祖父母に連れらてよく温泉に出かけた事も影響しているかもしれない。

年頃の友達等がテーマパークに行きたがる中、私は「温泉がいいなぁ…」なんてお年寄りのような思考をする子どもだった。

その日は雪が降って、暖冬に慣れたせいで体の芯まで冷える日だった。

車で山を登り、着いたのは山間にある「とある温泉地」おもに外国人やスノースポーツを楽しむために訪れた人が休憩地点として利用するその施設は、どこか北欧の雰囲気が漂う。

インテリアのように並べられた本棚。
簡易的にコーヒーや軽食を注文できるおしゃれなカウンター。
のびのびと腰掛けたり横になって休めるソファーや椅子。

「いいところ…」と私は思った。
たぶん、夫は私が好きそうな場所を選んでくれたのだろう。

段差もなく、手すりがあり、整えられた家族風呂。
バリアフリーをこんなにありがたいと思えた事はない。

明るい浴室。
お風呂にゆっくり足を伸ばして浸る。
子ども達がふざけ合う。
笑い声が共鳴して響く。

温泉…いいなぁ。

「いつもありがとう。ごめんね。皮肉ばかり言って」と夫に伝える。

「いいよ。万事塞翁が馬。いい時も悪い時もあるのが人生だよ。しっかり治して、今度は温泉に貴方がみんなを連れて行くんでしょ、もちろん」

「だな。」と私は答える。

湯上がりに甘酒スムージーを飲む。
子ども達はアイスをかじる。
夫はアイスコーヒーを飲む。

雪が降っている。

湯上がりに家族で眺めた景色


やっぱり、お出かけは温泉がいいや。

家族との形が少し変わっていく2024
怪我の功名か?

悪い事ばかりじゃないだろう。

最後に…
温泉好きとしては、生きている内に必ず行きたい温泉地は湯布院や別府。


NHKのドキュメント番組「72時間」
「サラメシ」と「72時間」が好きな私。
そして、「燃え殻」さんも好き。彼がX(旧Twitter)でおススメしてた「別府の貸間」の回が泣けました。

NHKなんだかんだ良いですよ。

湯けむりはどこか別の心境へ私を連れて行く。

いい湯だな♨️ 短歌






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