見出し画像

『HANDS UP』 THE MODS


 ふと口ずさむ曲がある。
THE MODSの「バラッドをお前に」だ。
この曲は1983年に発表され、ドラマのエンディングソングにも起用されたので、知っている人も多いかもしれない。

 ドラマは《中卒東大一直線 ~もう高校はいらない~》。坂上忍主演、菅原文太、由紀さおりが脇を固めた連続ドラマで、高校の体制に対応できない主人公が高校を中退し、家族の理解の中、大学入学資格検定試験(略して大検)を受けた後、東大理Ⅲに現役合格する、というようなドラマだ。制服の私服化や髪型の規制など当時の学校の規則に対する問題が取り上げられ、金八先生とは違った味の学園ドラマだった。
また、実話をもとにしたものだったので、主人公の親が書いた本がベストセラーになり、大検がクローズアップされた。なんせ、この家族、次男と長女も京都大学合格、次女は大検最年少合格という結果だったので、世の中の親達はこぞって読んだのだろう。

 ドラマの中で、やり場の無い主人公の怒りが、エンディングテーマに溶けていた。僕も丁度高校を卒業してブラブラしている時だったので、主人公まで熱くは無かったが体制側に巻かれる反骨精神みたいなものが少しはあり、共感したものだった。ただ、そんな気持ちをこの曲はなだめるでもなく、鼓舞するわけでもなく、ひたすら静かにやり過ごす。そんな突き放し方が良かったのかもしれない。
そういえば、同時期に大沢誉志幸の「そして僕は途方にくれる」という作品が同じような気持ちにさせてくれたっけ。
 
 THE MODSはこの歌の前に「激しい雨が」でメジャーの階段を上っていた。この歌は、マクセル・カセットテープの宣伝に起用され、本人達も登場したTVCMでは男のギラギラした躍動感と尖がった音がブラウン管から飛び出してきた。
 森山達也の鋭いヴォーカル、つんざくような苣木のギター、お茶の間で聴いてはいけない匂いがプンプンしていた。
1980年頃、彼らはテクノサウンドに疲れた日本の音楽に雷を落とした。映画《狂い咲きサンダーロード》で使用された「うるさい」は彼らのデビューのきっかけとなった。

そして、ロンドンレコーディングの『FIGHT OR FLIGHT』(1981)でメジャーデビュー。「崩れ落ちる前に」「TWO PUNKS」を収録。今でもこのアルバムから取り上げられるライヴナンバーは多い。

 『HANDS UP』(1983)は「激しい雨が」「バラッドをお前に」「HONEY BEE」を収録し、商業的にも一番成功したアルバムである。ホーンセクションや女性コーラスの起用を良しとしないモッズファンもいたようだが、僕は彼らの音楽の幅の広さを感心しながら聴いた記憶がある。

「バラッドをお前に」を口ずさむ。
 “俺はポツンと部屋にいる イラダチが鼻歌をさそう”・・・と歌い出す。
 “お願いだBaby そばにいて笑って その顔を見たくて 俺はボロボロになる”・・・何とも言えない虚脱感が全身を包む。
 そして2番の、“知らぬ間に 手を汚したぜ お前の嫌いな 仕事をしてる”・・・というところがモッズらしい。

この曲を聴くことだけでも『HANDS UP』は買い!
 
2006年8月19日
花形

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?