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ザ・グローリー ~輝かしき復讐~ 匙加減が絶妙な復讐の物語

前々からNETFLIXのランキングの中で気になっていたザ・グローリーを、シーズン2が配信されたと聞いて、23年3月半ば、良い機会なので、シーズン1から一気に鑑賞しました。

最近は明るめの作品ばかり見ていたので、復讐を主題とした暗めの展開が予想される物語に、感情が付いていくか心配だったのですが、結果としては、とても夢中になって鑑賞していました!

確かに物語は明るいとはお世辞にも言えませんが、様々な部分で、塩梅がちょうどいいなと感心した作品でもありました。
何と言うか、視聴を続けたいと言うドキドキポイントが、ストレスにならない程度にちょうどよく配置されていると,言うか、色んな要素が絶妙な匙加減というか……。
そんなちょうどいいと感じた塩梅の内容をご紹介できればな、と思って、全16話を見終えた今、おすすめポイントを書き連ねていこうと思います。

簡単な登場人物紹介

ドンウン……主人公。高校時代の壮絶ないじめの復讐を遂げようとしている。小学校教師の優秀な女性。着飾らなくても隠し切れない美人。
ヨンジン……主人公のいじめの最大の加害者。母が謎の権力者で警察を顎で使える。お天気キャスターで、建設会社社長の夫と、小学校1年生の娘と共に豪邸で優雅に暮らす。
イ・サラ……薬物中毒の画家。初期では髪形が似ているのでヨンジンと見分けるのが難しい。目の下に隈がある方がイ・サラと覚えよう。ミョンオに薬物を確保させている。父親が大きな教会の神父。
へジョン……国際線CA。親はクリーニング店の店主でお金持ちではないため、いじめ加害者グループ内での序列は低い。長身で巨乳。一つ上の生活のため、高収入の結婚相手を探している。
ジェジュン……高級ゴルフ場の経営者。暴力的高圧的な典型的ボンボン。シエスタというアパレルショップの店舗も経営している。飼っている犬と、知らない間に生まれていた自分の娘が可愛い。色盲。
ミョンオ……ジェジュンのパシリ。大人になった今ではジェジュンに雇われている。典型的な小物。
おばさん……夫からのDVに苦しむ。ヨンジンの娘の小学校の理事長宅で働いていたが、理事長宅のごみを漁り続ける主人公の執念に希望を見出して夫の殺害を依頼。その代償に主人公の復讐のためのスパイを引き受けるが、意外とスパイの才能がある。中学生の娘が居る。作中の癒し1。
チュ先生……主人公と偶然病院のベッドが隣だった大病院の息子。飛び級しているため、主人公の年下の先輩にあたる。主人公の囲碁の師匠を務める。主人公の復讐の協力者を買って出るも、彼も彼で復讐したい相手がおり、明るい性格の中に時折心の闇をチラつかせてくる。作中の癒し2。
ハ・ドヨン……ヨンジンの夫。巨大建設会社の社長で、社員にも優しい。この物語中、チュ先生の両親の次に人格者かもしれないくらいだが、妻の選び方の趣味が悪すぎるのが欠点。囲碁を通じて主人公に惹かれるも、浮気はしない堅実さ。
イェソル……ヨンジンの娘。ヨンジンの偏り気味の教育を受けている割に、素直で可愛らしく成長している小学1年生。サッカーが好き。色盲。

①主人公の復讐をひたむきに応援することになる視聴者心理

第一話で展開される高校時代の、高温のヘアアイロンを手足に押し付けられる凄惨なイジメシーンは、主人公の悲痛な叫び声、身に覚えのあるヘアアイロンの熱さ……見るのも痛々しく、目を背けたくなるシーンですが、忘れるのも難しいあのシーンがあるからこそ、主人公の復讐を、全16話ぶれずにひたむきに応援する気持ちになるためには、不可欠な要素でした。

これは、ザ・グローリーを鑑賞する前に覗いていた感想コメントでも触れられているのを見ていたのですが、本当に全くその通りでした。
途中で視聴者が復讐のことを「やりすぎでは?」となってしまっては、ドラマとして元も子もない構成なので、尚更。

16年後の今でも、イジメによる瘡蓋が痒く手足を隠すように着た長袖の服を滲ませることで、あのときに負わされたものの大きさ・悔しさ・怒りを度々再確認させ、視聴者の中に芽生えた復讐心を度々、再燃させて冷まさせることのない気の配り方です。

②執念の長期計画の完遂を見守る安心感

主人公のドンウンは、とても優秀な女性として描かれています。
資格を得て教職に就き、若いころは家庭教師に引っ張りだこで、復讐のために始めた囲碁も、おじいさんたち相手に賭け碁で巻き上げるくらいに上達。
このあたりの主人公の魅力の一つである知性は、ヨンジンの夫を軸にして、特に最大の復讐相手であるヨンジンと対照的に描かれている部分でもあります。

韓国における教師という肩書に対する一般的なステータスは、ドラマから感じる雰囲気、日本よりも高そう。教職の資格、ドンウンでさえ2回目で合格のようだし、かなり難関な資格なのでしょうか。
そんな主人公は、お天気キャスターでもあるヨンジンが、会社社長の夫との間に設けた一人娘イェソルの小学校にの理事長宅のゴミを半年間漁り続けるという執念深さを見せて、理事長の秘密を握り、担任として赴任することで、順風満帆だったヨンジンの生活に、堂々と復讐者として鮮烈な印象と共に現れます。

大人になった主人公は、嘗てのいじめっ子たちと直接対峙していても常に堂々として余裕を崩さず、着実に復讐を遂げていきます。
視聴者たちは、主人公の描いた復讐の設計図の全容を全ては知らされてはいません。また、恐らくは全てが主人公の思描いた通り、と言うわけでもなかったでしょう。
悪い方にも良い方にもアクシデントはありますが、この主人公ならば確実に復讐を遂げてくれるだろうという信頼感が、主人公ドンウンにはあります。

復讐を進める中では、彼女の数少ない共犯者である「おばさん」が、ヨンジンの魔の手にかかり弱みを握られることで主人公を裏切るんじゃないか……というドキドキシーンもあったりはしますが、元々おばさんに視聴者は信頼感を持てる構成になっていることもあって、そのドキドキを感じさせる期間は一瞬で、すぐに「おばさんが裏切るわけないよね!むしろ二重スパイとして状況を利用してる!」という展開になり、ますますおばさんのファンになるくらいです。

安心感と飽きの来ない適度なドキドキ感を、ギリギリ視聴者にストレスを感じさせない塩梅で配置しているなあ、と思います。
この物語は主人公も直接手を下すことはありませんが、犯罪スレスレ…と、言うよりは、まあたぶん犯罪にはなるだろう、くらいの手口は色々と利用していたりもするので、これは決して勧善懲悪な物語ではありません。
しかし、必ず悪(この場合はいじめっ子たち加害者グループ)は滅されるであろう、と言う安心感と共に視聴できる点では、勧善懲悪な物語と通じるところもあり、ストレスなく視聴したい私を含めた今時の視聴者のニーズに合っているのではと感じました。

③加害者グループの清々しいほどの内部崩壊

復讐計画は、過去には建築家を志し、築き上げた相手の家を壊す遊びである囲碁を嗜む主人公によって描かれた、美しい設計図を起点にして、ドミノ倒しのように加害者グループを崩壊させていきます。

まさか主人公も、学生時代、主に直接主人公に暴力を働く役割を担ったミョンオがヨンジンに殺される(実は止めを刺したのはヨンジンではなかったけど)、画家のイ・サラがCAのヘジョンを刺す、みたいな殺傷事件になるとまでは思っていなかったんじゃないでしょうか。

主人公は、基本的にはヨンジンに与えたような「社会的な死」を想定していたように思います。ただ、結果としては加害者グループ5人の内2人が死に、1人が声を失い、2人が刑務所に入っています。
確かに苛めっ子グループをそれぞれ脅せ、という指令をミョンオにしたのは主人公で、それがきっかけで内部崩壊が進んでいきましたが……それにしたって、というかんじ。
思ったより崩壊したなあ、そんな呆気にとられた感情がクールな主人公にも実はあったりしたりしたんじゃないかと、勝手に想像しています。

加害者グループは、よく18年間もつるんでいたな、と呆れ半分に感心します。主人公も、未だに仲が良さそうでよかったと彼らに感謝していました。つるんでくれていた方が、設計図の書きがいもあったでしょうから。
現実のいじめ加害者グループにもありそうな話ですが、彼らは純粋に友情を育んで18年もつるんでいたわけではありません。
グループの中にも明確に序列と共にいじめがあり、マウントの取り合いがあり、ついでに男女間では身体の関係があったりなかったりし、そして、それぞれが最終的には友情なんてそっちのけで、自分のことしか考えてないのです。
ドラマの中では、ヨンジンの夫ハ・ドヨンが主人公の味方になるのか、敵なになるのか、ヨンジンから離れるのか、というドキドキポイントもありましたが、最終的には不倫や過去のイジメ問題ではなく、ヨンジンが「自分のことしか考えていない」と言う理由を突きつけて、娘と共にヨンジンの元を去りました。

加害者グループたちは、それぞれが自らの身から出た錆によって、最終的には瓦解します。
主人公は、その瓦解をほんの少し後押ししたに過ぎないのです。
ドミノ倒しを見るのが気持ちいいと感じる人が多いのと同様に、主人公の復讐スタイルは恐らくは多くの視聴者にカタルシスを与えるのではないでしょうか。

また、復讐相手の娘の小学校の担任として赴任するという主人公の復讐手段は、娘に何らかの危害を加えるためかと早合点しそうになりますが、あくまでもヨンジンへ「何か危害を加えられるのでは」と言うプレッシャーを与えるためだけにそのポジションは活用され、幼い娘へは一切危害を加えなかったのも復讐の仕方として良かったです。良かったと言うか、主人公を応援する理由が減らなくて安心しました。
ただし、主人公の行動で幸福だった家庭が壊れたわけですから、主人公のドンウンは、ヨンジンの娘ハ・イェソルに対しては、ただただ謝るりました。
これが、主人公自らが直接手を下す物語だったら、また全然違うドラマになっていたことでしょう。それも悪くはない物語かもしれませんが、恐らくは、このドラマで得る面白さは、それでは再現は難しいのです。

④加害者たちそれぞれに、どんな結末が待ち受けるのか

主人公が恐らくは復讐を完遂してくれることを、先に書いたように視聴者は半ば信じて視聴していたと思います。
その点が予定調和であるならば、物語の結末に視聴者が何を結末に求めて視聴を続けるのかと言うと、それは主人公がどれだけ安全に復讐を完遂できるのか、はたまた恋の行方だったり、復讐者たちが復讐幸せになれるかであったりと、色々あるでしょう。
その中の1つには復讐の末に加害者たちに、どんな結末が待っているのか……どこまで復讐が果たされるのか、と言う部分があるんじゃないかと思います。
この結末には、主人公の計画を大きく逸脱した部分もあるでしょうが、概ね主人公に与えた危害の大きさに比例した罰が下り、私を含む視聴者たちは胸の空く思いだったのではないでしょうか。
ここで加害者グループたちの結末を簡単にご紹介したいと思います。

主人公ドンウンの最大の目標である、いじめの最大の主導者であったお天気キャスターヨンジンの結末は、概ね主人公の描いたとおりだったでしょう。
過去にいじめたユン・ソヒ、ドンウンへ、ギョンラン……今までいじめた人数だけ、今までヨンジンが誠実に接さなかった分だけ、全てがヨンジンを追い詰めるきっかけとなりました。
ヨンジンの悪行が世間の知るところとなり、夫と娘からは見放され、ついでに母を精神的な意味合いで失い、過去の自分が犯した罪のために刑務所に入ったことで、お天気キャスターとして、母や妻として頂いていた栄光を何もかも失い、刑務所の他の女囚たちから「プリティー」と弄られ、お天気キャスターごっこを強いられ、イジメられる最後は、まさに因果応報としか言いようがありません。

画家のイ・サラは薬物中毒と言う弱みによって、最初こそ主人公に追い詰められていきます。主人公の想像していた結末は、薬物使用による服役だったのではないかと思いますが、世間からの非難の矛先を交わそうとするヨンジンに父親の教会の脱税をバラされるなどの打撃も受け、最終的には同じ加害者グループのCAへジョンの首に大衆の面前で鉛筆を突き立てるという殺人未遂で、彼女もまた、どこかの刑務所に服役していると思われます。

CAのへジョンは、加害者グループの中でも最下層の序列で、度々主人公ドンウンが居なければ、おまえがヘアアイロンを押し当てられていたと、ヨンジンやイ・サラに言われていました。
彼女は、イ・サラの動画を流したことでイ・サラの逆鱗に触れ、衝動的にイ・サラが髪をまとめていた鉛筆で首を刺され、一命はとりとめますが声帯が傷つき、声を出せなくなります。
CAの仕事は婚約のために辞めており、その婚約者とはジェジュンに乗り換えるために別れていましたが、声が出なくなり、そのジェジュンにも捨てられてしまい、ジェジュンへの復讐を主人公ドンウンに唆され敢行します。

ゴルフ場経営者のジェジュンは、加害者グループの中でも恐らくは最大の権力者でした。
ただ、学生時代のいじめの際はドンウンの悲鳴をBGMにバスケに興じていただけで、ドンウンへの身体的負傷に関わるいじめ自体には、そんなに興味が無さそうでした。ドンウンを濡らして胸の大きさを見ようとするなど、性的な加害はミョンオと共に行ったようですが……。
だからか、ドンウンも途中までは、ジェジュンのことはヨンジンの娘が実は夫であるハ・ドヨンではなくジェジュンの子供である、と言う事実でジェジュンを焚きつけて、内部崩壊を加速させる1つの駒くらいにしか思っていなかったようにも思えます。
ただし、物語の後半で主人公の前に彼らにいじめられていた、ユン・ソヒを恐らくはジェジュンが強姦していたのだろうと言うことを主人公が知ったことで、主人公はジェジュンに捨てられたへジョンを焚きつけて、ジェジュンに失明という罰を与えようとします。主人公が「バスケ以外のこともしていたのね」と事実を見落としていた自分に落胆するシーンが印象的でした。
このあたりは、主人公も途中でシナリオ変更しようとしたためか、今までの復讐計画に比べて短絡的な印象がありました。
結果的に、ジェジュンは運転中に目に異変を起こし、光のない世界を彷徨っている内にハ・ドソンに突き落とされ建設中の工事現場のコンクリートの海に沈み、世間的には行方不明となって命を落としました。
ハ・ドソンに手を汚して欲しくなかった気持ちもありますが、ハ・ドソンは娘のことで随分ジェジュンには苦しめられていたでしょうから、これも当然の成り行きだったのかもしれません。

ジェジュンに雇われていたミョンオは、その学生時代から続く立場の低さを不服に思っていた感情を御しやすいと思われたのか、真っ先に主人公に目を付けられ、操られます。
結果として、主人公から得た情報を基にヨンジンを脅したことで、激高したヨンジンに酒瓶で殴りつけられ、助けてもらおうとしたシエスタ従業員にして主人公ドンウンの後のいじめ被害者であるギョンランに止めを刺され(このことにヨンジンは気づいておらず、自分が殺したと思っている)物語の前半に命を落とし、その遺体はヨンジンの弱みとして、ヨンジンの母親の手先の警察署長や主人公たち長らく利用されます。

⑤加害者たちの肉感のあるキャラクター造形

加害者たちは、物語を通して基本的には同乗の余地がない所謂「屑」として演出されます。
実は加害者側にも事情があって……のような演出には視聴者は期待していません。あの壮絶ないじめにおいて、仮に何らかの事情があったとしても、許されるわけがないからです。
彼らの事情があるとすれば、それは父母たちから人生における重要な教育を受けることができず、自分のことしか考えられない人間に育ってしまったこと、そのくらいでしょう。
ただし、加害者グループたちはそれぞれ、個性のあるキャラクターや関係性が存在し、決して仮面ライダーにおけるショッカーのような、ただの記号としての加害者ではない、肉感のある造形をしています。ただの加害者という記号が5人も居ても、つまらないですしね。
特に加害者グループの代表格であるヨンジンとジェジュンの持っている、悪役の見せる愛情について気になりました。

加害者グループの代表格であるヨンジンとジェジュンには、愛し方はちょっと問題がありますが、献身的に娘であるイェソルを愛する描写があります。
いじめっ子たちが大人になって自分の子供が生まれたとき、自分の子供へのいじめは許せないと憤っている姿を見て、かつていじめられた人物が唖然とする、というシチュエーションをネット上で聞き及んだことがありますが、まさにそのいじめっ子たちとは彼らのことだと真っ先に思いました。

ヨンジンは喫煙者ですが、娘が帰ってくると急いでタバコの火を消します。そして、娘には自分の醜いところを見られたくないからか、娘のシッターさんにも、他で見せる自分より下の人間への傍若無人な振る舞いよりは、幾分か柔らかく感じます。
夫も、主人公に「娘に危害を加えることがヨンジンへの手っ取り早い復讐だっただろうに、それをしないでくれてありがとう」と言う旨の発言をしていたので、夫からしてもヨンジンの娘への愛は本物だったのでしょう。

また、ジェジュンは、物語の途中で主人公から知らされる形で、実はヨンジンの娘がハ・ドヨンとの子供ではなく、自分との子供のことだと知ります。娘のイェソルはジェジュンと同じ色盲を患わっていました。それをヨンジンは夫に隠しています。
主人公が依頼した遺伝子調査の結果も、バッチリジェジュンとイェソルの父子関係を示しています。それをジェジュンが知ったときの「どうりで可愛いわけだ」というセリフは不思議と印象に残っています。
それからと言うもの、ジェジュンは娘のイェソルを自分の手元に置こうと、一介の浮気相手の癖に、あれこれ強引なくらいに画策して、主人公の思惑通り順調にハ・ドヨンとヨンジンの夫婦関係に亀裂を入れていきます。

そのほか、ジェジュンは娘のイェソルのことだけではなく、飼い犬のルイのことも献身的に愛しています。
これはドラマの中でもお気に入りのシーンなのですが、ジェジュンが気も早くイェソルのために自邸に高級子供用家具を並べた子供部屋を作っているときに、納品業者が飼い犬のルイのことを見て「最近の若い人は喘息とかで毛のある生き物を嫌うよ」という趣旨の発言をします。
短気なジェジュンのことですから、不用意な発言をした業者に怒りをぶつけるかと思いきや、ここでジッとルイのことを見つめるのです。ここで、「もしかしてルイが捨てられちゃう!?」と焦った視聴者は多かったのではないでしょうか。
しかし、結果としてはルイは短髪に綺麗にトリミングされて、ニコニコのジェジュンに抱かれて帰って来たものだから、ジェジュンのことをちょっと憎み切れなくなってしまいました。
いや、それだけではカバーし切れないほど大分ヤバいヤツなんですが、動物補正の力は凄いです。ジェジュンはルイへの愛情の1/10でも女性に向けられなかったものでしょうか。女性への扱いの酷さが、彼が最終的に命を落とす遠因になっていることは確かです。
ちなみにジェジュンの行方不明後、ルイが誰かに保護されて、大事に飼われている描写を期待していたのですが、なかったのが残念。まあ、ルイの住むジェジュンの邸宅は家主不在でもお手伝いさんなど常に誰かが出入りしていたでしょうから、飼育放棄などの心配は大丈夫でしょう。

ちょっと話が逸れますが、個人的には、ジェジュンの横に偶に登場したチャラめの弁護士に引き取られていたりするといいな、と思います。
あの弁護士は、ジェジュンにも対等に接しているあたり、ちょっと気になっているキャラクターでした。ジェジュンとの関係性に上下がないように見えるので、もしかするとジェジュン自身ではなく、ジェジュンの父にジェジュン法律関係のお目付け役として雇われていたりするのかな、と妄想していたりしたのですが、真相はどうだったのでしょう。

そして、ヨンジンとジェジュンの不倫関係についてです。
ヨンジンとジェジュンの不倫関係は独特だなあ、と終始感じていました。結局、腐れ縁で都合の良い所謂セフレとしてズルズルしているだけで、結局お互いに大した愛情はなかったように見えました。
学校の派手な男女混合グループのこと詳しく知らないんですけど、こんなかんじが普通なんですか。全く持って怖い世界です。
ただ、ヨンジンは夫に去られた後にジェジュンを頼ろうとしたり、学生時代にはドンウンのことをジェジュンが「顔以外も綺麗だ」と称したことに嫉妬していたかんじもあったのですが、ドンウンへの嫉妬なのかジェジュンかの嫉妬なのかは判別付きがたいです。
ジェジュンの方は、ヨンジンの罪が明らかになるのが回避できそうにないことを早々に察すると「ママの方は諦めよう」と清々しくヨンジンを切り捨てます。ただ、2話の時点ではヨンジンとの行為のためにアパレルショップを「シエスタ」という店名にしたと語ってみせたりもします。ヨンジンが既婚者とは寝ないと言うから(自分も婚約してる癖に)結婚していなかったと言う可能性もあります。
ヨンジンはお金のある男性と結婚して良妻賢母になることを夢としていたのですから、最初から同級生かつお金持ちのジェジュンとくっついていても悪くはなかったのではと思うのですが。

⑥魅力的な協力者たち~おばさん~

主人公は言葉少なく、復讐のために感情を閉ざしたミステリアスな女性です。黙々と復讐を遂行していきますが、それだとあまりにも孤独で、あまりにもドラマとして単調だったでしょう。
しかし、そこで主人公の前に「おばさん」が登場することで、その問題は解決します。

「おばさん」ことカン・ヒョンナムは、ヨンジンの娘イェソルが通う小学校の理事長宅で使用人として勤めていました。
そのときに、復讐のため理事長宅のゴミを半年に渡って漁り続ける主人公の存在に気づいたのです。
その執念深さに希望を見出したおばさんは、主人公に壮絶な家庭内暴力を働く夫の殺害を依頼。その代わりに、おばさんは主人公のために加害者グループの動向を追う探偵またはスパイのような存在になります。
最初は車の運転さえ出来なかったおばさんですが、徐々に持ち前の胆力や勘の良さで、探偵またはスパイとしての優秀さを発揮し、その行為自体にやりがいを見出していきます。
初登場時の家庭内暴力を受けているおばさんの姿は悲壮でしたが、自分でも言っていたとおり本当はおちゃめで楽しい女性で、娘思いで、性格も温かい、このドラマにクスっとした笑いをもたらしてくれる素敵な人物です。

主人公は最初こそ、おばさんは主人公に夫を殺してもらう、主人公はおばさんに加害者たちの動向を調査してもらう、と言う等価交換の上で成り立つビジネスライクな関係性を想像して、親しくなっていくことを拒んでいましたが、次第に控えめながらも打ち解けていき、おばさんは真剣に主人公の復讐が遂げられることを願い献身的に行動しますし、主人公もおばさんの中学生の娘が家庭内暴力から逃れるために、電車の中で密かに勉強を教え、米国へ留学させてあげますし、おばさんには彼女が憧れた赤い口紅を贈ります。

おばさんは、主人公との交流で視聴者の心を温め、更に復讐者である主人公が心が通った人間であることを最初に視聴者に教えてくれます。

さて、おばさんが主人公に依頼した夫の殺害の方は、どのように達成させられたのでしょうか。
主人公は、自身の復讐では直接手を下すようなことはしていません。だから、どのようにおばさんの依頼を達成させられるのかは気になっていました。もしかすると、献身的に協力してくれたおばさんのために、主人公はここで初めて直接手を汚すのでしょうか。
結果的には、おばさんの夫は、おばさんの策略によりヨンジンの母を脅迫するように仕向けられたことで、ヨンジンの母の策略によって殺害されました。おばさんは、状況を上手く利用して、自らの願いを達成したのです。
これではおばさんと主人公の間で等価交換になっていないじゃないか、と言う気もしますが、この夫を間接的に殺すことができる状況を生み出したのは主人公の復讐がもたらしたものですし、現状を打破するきっかけをくれた主人公に対して「不公平だ」なんてことは決して思っていないでしょう。

おばさんは最終的にお惣菜屋さんをスタートさせ、その陰では、主人公とチュ先生の新たな復讐を手助けして生き生きと生活している描写で終わりました。きっと留学した娘とも連絡は取れているでしょう。

⑦魅力的な協力者たち~チュ先生~

チュ先生は、ソウルの大病院の院長の息子で自身も医師。しかも、飛び級をした秀才で、主人公より年下ですが、大学の入学は主人公よりも早いので、主人公は彼を「先輩」と呼びます。更にイケメンで高身長。年上に可愛がられやすそうな可愛げのある性格と、まさに非のない人物です。ちなみに両親も人格者です。
この彼が、主人公に振り返ってもらえなくても、ひたむきに好意を示し、復讐に協力したいと懇願するのです。
復讐に協力するチュ先生は、大病院である実家の威光と医師の資格を惜しげもなく主人公のために利用し、気軽に加害者グループたちに名刺を事あるごとに渡しています。
整形外科を開業し、個人事業主であるチュ先生の名刺は個人情報の塊だと思うのですが、それが故に復讐に巻き込まれ過ぎる、自身にも危害を被るなどの不安を最早抱かないくらい、覚悟が決まっているんだなあと、感じました。

最近のバナー広告によく出てくるような少女漫画なら、ヨンジンにパートナーとしてチュ先生を見せつけてスカッとするところですが、このドラマの雰囲気ではそんなシーン入れ込めないだろうし、ないだろうなと思っていたら、ヨンジンに主人公の男の協力者の存在が知れたときに、おばさんが「若くて背が高くてイケメンで」って主人公の代わりにヨンジンを煽りに行ってくれたのは何気に良かったですね。
ヨンジンの夫ハ・ドヨンも甲乙付け難い素敵な人物なので、ヨンジンがあからさまに悔しがる理由はないかもしれませんが、おばさんに「うるさいっ」と怒っていたので、イラっとはしたようです。
その前にもヨンジンは主人公に「つまらない男と結婚してると思ってた」とか「ドンウンに男が?」みたいな発言もして、男性関係周辺で主人公のことを見下したがっていた描写もあったので、おばさんが主人公の代わりにマウントを取り返してくれてスッキリです。
ヨンジンはジェジュンが主人公のことを「綺麗」と称していたときから、ずっと主人公に対して美貌の点でライバル心とかコンプレックスが逆にあったんじゃないかと想像しています。

ちょっと話が逸れましたが、とにもかくにもチュ先生の存在は、あまりにも出来過ぎていて、ドラマが始まって暫くは、彼には裏があって、いつか主人公を裏切るんじゃないかと警戒していたくらいでした。しかし、その心配は杞憂でした。

実は、チュ先生には裏があると言えば裏があります。
大量の手紙。謎の4桁の番号。家の引き出しに丁寧にズラリと並ぶ鋭利な刃物たち……明るい可愛らしさの中に時折覗かせる暗い闇が、一体何なのか明かされるまで、かなりの話数を要しました。
最初は、主人公の復讐に何らか関係のある秘密がチュ先生には隠されていて、恋心だけではなく、その隠された秘密のために主人公に協力しているのかと思っていましたが、違いました。
順風満帆な生活を送って来たように見える彼には主人公と同じように、復讐したくてしたくて堪らない相手が居るのです。その相手とは、病院の院長だった立派な父を殺した凶悪犯。
犯罪者故に治療を拒まれていたところを、チュ先生の父親に助けられていながら、助けた相手を殺害するという想像を絶する悪行でした。既に裁かれ、刑務所に服役していますが、刑務所からチュ先生を煽るような手紙を大量に送り付けており、反省の色は全くなし。
チュ先生は、刑務所での服役だけでは罰として足りないと考えて、復讐の機会を伺っていたのです。

彼の復讐が最終話になっても一向に果たされる気配がないので、どうなるんだろうかと心配しましたが、最終話……復讐が果たされチュ先生の前から姿を消していた主人公が戻ってきて、彼の復讐の先生となることで、持ち前の用意周到な準備や、おばさんの助力により、刑務所の中の凶悪犯を順調に追い詰めて行くんだろうな……と言うところでドラマは終わるのです。
彼らは、この復讐もきっと成功させるでしょう。

結局、主人公は自分の栄光を取り戻すための復讐としながら、本質的には他人のために献身することで生き生きとする性分なのだと思います。
元々、この復讐だって、主人公の前にいじめられて死んでしまったユン・ソヒのお母さんの願いが主人公に覚悟を決めさせたのですから。

⑧恋愛要素のエッセンスの有無

この復讐の物語において、恋愛は必要だったでしょうか。必要なかったでしょうか。
個人的には、あって良かったと思います。

チュ先生から主人公へ絶え間なく示される好意は、その仕草からセリフまで、まるで少女漫画のようで、チュ先生が登場しているときだけ、明らかに雰囲気が違います。
そんなチュ先生と主人公の恋愛模様については、ドラマの中でも異質な存在なので、ある意味では雰囲気ブレーカーでもあったかもしれません。
ただし、暗いドラマの中で、この恋愛要素が何もなかったとしたら、あまりにも重すぎたんじゃないだろうか、と思います。
また、よくある恋愛ドラマでの男女の擦れ違いによるストレスまで受け止める余裕は視聴時には残されていないと思うので、チュ先生が主人公を迷いなくずっと好きであることも描写されるにあたって、ちょうどよい匙加減でした。

主人公は最初、おばさんに復讐を忘れそうになるから笑いたくないとまで言っていました。
そんな主人公なので、チュ先生からの献身的な愛に全面的に応えることは当然難しく、チュ先生からは愛情表現が全力投球でも、それに主人公が応えないので、若干恋愛描写が抑えられていたからこそ、恋愛描写を受け入れられていた点もあるでしょう。
もしも主人公が復讐の途中でチュ先生と恋人同士になっていたら、視聴者側の復讐へのモチベーションも下がっていたでしょうし、ここは恋愛を描写するにあたって、重要な線引きだったはずです。

また、そんなチュ先生の好意に主人公が甘えすぎないところも良かったですね。
主人公のためにおしゃれな自宅を開放し、料理を食べさせ、何だったら主人公のために物語の舞台の地へ開業しています。これだけでも常識の範囲で考えると、かなりの献身なのですが、物語の途中、チュ先生に対して主人公が「処刑人となって剣舞を踊ってほしい」と発言しているので、主人公の代わりにチュ先生が加害者グループの誰かを殺すことになるんだろうか、とも思っていたのです。処刑人、と言うくらいですから。
しかし、実際にはチュ先生はの剣舞とは、御曹司らしく財力を駆使してミョンオの死体が保存されていた葬儀場を買い取ったり、医者らしくヨンジンの生体組織をミョンの死体の爪先に仕込んだりなどで、あくまで復讐そのものではなく、復讐のための手助けに留まっていて安心しました。
これで主人公のためにチュ先生が殺人まで犯していたら、ドラマとして主題が「主人公が加害者たちに復讐」と言うよりは「主人公と主人公に利用される男」の方へ図らずもフォーカスされて、ズレていた気がするので、ちょうどいい協力範囲だったと思います。

チュ先生の少女漫画シーンで特にお気に入りなのは、ハ・ドヨンと主人公が内密の話をするため密会した際、高級ホテルの場所柄に合わせてか、それまで肌を見せない黒の上下で着飾ることをしていなかった主人公が、腕の傷跡を大胆に見せるノンスリーブのドレスでハ・ドヨンの前に現れます。
そのことについて、チュ先生は「あいつと会うためにわざわざ正装するなんて、ジャージでいいよ」と嫉妬して見せるのです。可愛いです。

恋愛描写は、この暗いドラマの中に、明るさをもたらして、視聴時のストレスを緩和してくれました。
ただし、恋愛描写の中でストレスを与えない、チュ先生の一方的な愛情表現に止めることで、復讐へのモチベーションを邪魔しないなど、かなり気を使ってドラマの中で邪魔にならない絶妙な恋愛関係を設定したのかな、と思えました。

また、主人公に恋愛感情を抱くのはチュ先生だけではありません。
ヨンジンの夫のハ・ドヨンは、囲碁を通じて主人公に興味を持ち、惹かれていきます。
惹かれていくことは否定してないのですが、だからと言って彼が既婚者の身で一線を超えるようなアクションは何も起こしません。
妻であるヨンジンの悪行が白日の基に晒されていく中でも、離婚への判断は極めて慎重で冷静でした。
このハ・ドヨンの理知的な振る舞いはドラマにおいて魅力的でした。
主人公もそんな彼の人を敬う気持ちを忘れない誠実な振る舞いに免じて、ヨンジンに最後のチャンスを与えます。まあ、ヨンジンは案の定そのチャンスを不意にして、社会的な死へと自ら突き進んでいくのですが……。

主人公は、ハ・ドヨンにもチュ先生にも、意図的に近づきました。
ハ・ドヨンはヨンジンの夫だからです。ハ・ドヨンが囲碁を嗜むため、主人公はチュ先生に習って囲碁の腕を磨きます。
チュ先生は、物語のキーとなるユン・ソヒの遺体が保管されている病院の息子だからです。
主人公は、2人に意図的に近づきましたが、その近づき方は、対象の近くを偶然を装って通り過ぎるだけ。後は、勝手に二人が気になって、逆に近づいてきます。
これを可能としたのは、主人公のクラシカルな美貌でしょう。主人公は全く着飾ることをしません。常に地味なファッションで、化粧も最低限に見えます。それでも、隠し切れない端正さが二人を惹きつけたのかもしれません。
常に派手で高級なファッションを好む加害者グループとは、ここも対照的でした。
主人公は、自分の魅力をどこまで正確に理解して、どこまでコントロールしていたのでしょうか。

⑨主人公を唯一取り乱させる存在

このドラマを通して、大人になってからの主人公は常に冷静です。加害者たちと対峙しても、ほとんど感情を露わにするようなことはありません。
急にジェジュンが現れたときには、狼狽えている素振りがあることもありましたが、基本的には堂々としています。

そんな主人公が唯一、泣き叫ぶシーンがあります。
主人公をネグレクトし、金のためならば売り飛ばし、大人になってからは金銭をゆする、アルコール依存症母親に対してです。
毒親、という言葉をよく聞くようになりましたが、主人公の母親は、そんな典型的な毒親です。彼女はある意味、主人公への最大の加害者でした。
主人公がいじめを苦に高校を退学する際、理由にヨンジンたちの名前を書きました。担任からも書き直せと暴力を奮われたのですが、最終的にはヨンジンの母から提供された金に目がくらんだ母親が、主人公が訴えた退学理由を示談書にサインすることで無効としたのです。

そんな母親とは当然連絡を取っていなかった主人公ですが、ヨンジンが主人公を娘の小学校から追い出すための策略のため「持たざる者は、家族が最大の加害者だから」と言って、18年前と同じように主人公の母親を金で利用して、目的を果たそうとするのです。

主人公の前に姿を現した母親は、主人公の借りた家に男と入り浸り、金をせびります。
またもや金に目がくらんだ母親のせいで、あれほど苦労して掴んだ小学校での教師の職を辞めざる得なくなった主人公は、母親がヨンジンから貰った金で買ったブランド品を切り刻み、泣き喚き、母親と揉みあいになり、ボヤ騒ぎに発展します。
常に冷静な主人公が、今までに見せなかった姿でした。
母親は、結局そのときのボヤ騒ぎをきっかけに、様々な精神疾患と判断され、強制的に病院へ入院させることで、母親への引導を渡します。

ともすると完璧な復讐者として強すぎる主人公のウィークポイントが、加害者グループではなく母親に表現されたことで、主人公の完璧な復讐者としての格を落とさず、されども主人公も完璧ではない1人の人間であることを提示させる、うまいやり方だったのかもしれません。

ヨンジンが主人公にダメージを与えるために、家族に狙いを付けたのは、適格な判断だったと言えるでしょう。しかし、その行為は後に我が身にも還ってきます。

見落としもあるのかもしれませんが、このドラマを見ていて、最後までヨンジンの母親が何故財産があり、何故権力を持っているのかイマイチ謎でした。彼女自身がお嬢様で財産があるかんじだったのでしょうか。または離婚した夫から贈与された財産が莫大にあったのでしょうか。
ただ、さまざまな後始末を依頼する警察署長とは中学時代から40年来の付き合いと言及されているので、彼らは主人公が現れなかった場合のヨンジンたち加害者グループの未来の姿として示唆されていたような気がします。
ヨンジンの母親は、ヨンジンのように財産と美貌で、昔から今に至るまでずっと、女王のように振舞っていたのではないでしょうか。

そんなヨンジンの母親は、主人公におばさんの夫の殺害計画の件で弱みを握られます。そして、主人公はヨンジンの母親にヨンジンがユン・ソヒを突き落とした証拠を引き換えに、自分を守るかどうか問うのです。
ヨンジンの母親は、自分を守るためにヨンジンを差し出すことを選びました。そして、主人公は、その証拠の引き渡し現場をヨンジンに目撃させるのです。
ヨンジンは母親を精神的な意味合いで失いました。主人公と同じく、ヨンジンが泣き叫んでいたのも、自身を裏切った母親の前だけでくらいだったように思います。
ヨンジンもまた、家族が最大の加害者となりました。彼女は、持たざる者ではなかったはずなのに……主人公への攻撃のために、ヨンジンは自分の母親が自分のためなら娘を差し出すという、一生知らなくても良かった真実を知ることになってしまいました。

最終的には、ヨンジンの母親もヨンジンと同じ刑務所に収監され、ヨンジンの母親から手先のような扱いをされていた警察署長は、自らが雇っていた半ぐれに殺されてしまします。
結局は、彼ら親世代もまた、自ら出た錆によって破滅していきました。

⑩復讐の果て

復讐の果てについて、あまり明るいものは想定しづらいでしょう。

ハ・ドヨンも、チュ先生に「愛しているなら復讐を止めるべきなんじゃないか」という趣旨の発言をしていました。それが普通の感覚でしょう。
主人公も果てを「地獄」と称していましたし、実際に復讐を終えた後は、チュ先生の前から姿を消し、あの廃ビルから、あのときと同じ雪の舞い散る中、飛び降りようとするのです。
チュ先生と幸せになればいいのに、どうしてと思うのですが、復讐を実際に行った者にしか分からない虚無感があったのでしょうか。
だけど、それを止めたのはチュ先生のお母さんでした。どうしてあのタイミングで現れることが出来たのかは謎ですが、まあ描写がないだけでソヒのお母さんから話を聞いた後に、主人公のことを探していたのかもしれないと思うことにします。
チュ先生のお母さんは、主人公に「私の息子を地獄から救って」と懇願します。復讐の果てがそこだと知っているなら、復讐をしようとしている息子を救って、そして「生きる道を与えて」と欲しいと。

思えば、母親にも同級生にも教師にも恵まれず、孤独に見える主人公にも味方はたくさん居ました。
チュ先生、おばさん、それに工場で同僚だった女の子、大家のおばあさん、16年越しに話を聞いてくれた警察官。
それらを振り捨てて、自ら身を投げ捨てるのは、やっぱり些か早いです。本当にチュ先生のお母さんが止めてくれてよかった。
安易に「そして誰も居なくなった」なんて結末は相応しくありません。

そこから時間が経過し、季節は夏になります。
復讐が行われた冬のシーンと対照的な、燦燦と太陽の光が眩しい画面が明るいシーンが続きます。
主人公はチュ先生の復讐の先生となって、今度は逆にチュ先生に協力します。持ち前の用意周到さで、復讐計画は着実に進んでいっているようです。
主人公は刑務所の更生プログラムの講師として、チュ先生は刑務所の医師として、復讐対象のもとへ乗り込んでいくシーンで、ドラマは終わります。
そのとき、今までは夏の日差しで明るかった空が、雨雲で曇っていくのは何を示唆しているのでしょうか。主人公とチュ先生の果てではなく、新たな復讐対象の果てを暗示していることを願います。
この新たな復讐の果てに、2人はようやく解放されるのでしょうか。どうか生きる道をお互いに与えて欲しいです。


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