Web小説発掘記 その254 バイタルサイン 作者 蒼空 結舞様

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前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。

あらすじ

落ちこぼれ看護学生の乾(いぬい) 利里(りざと)はトラウマを抱えた夢をよく見ている。
そして「自分なんて落ちこぼれ、欠陥品なんだ」といつも思いながら、学校に通っていた。
そんななかで同学年になった美男子看護学生、蒼柳(あおやなぎ) 真緒(まお)という人物とふとした形で触れ合い、初めは薄っぺらな友人関係を築こうとしていたものの、ある事件によって蒼柳は利里のことを気にかかるようになった。
しかし、利里には同性の片想い相手がおり、蒼柳も彼女がいるという関係にある。
自信はないが、過去の自分と決別する為に、利里は必死に努力をしてもがいている姿に、蒼柳は利里を利用しようとしても笑ってくれた彼を気にかかり、努力し健気な態度で接する彼に次第に惹かれていく。
トラウマの正体である“バイタルサイン”は、利里と蒼柳にとってどんな意味を表すのか。落ちこぼれ看護学生のリアルを描いた看護学生のじれったい恋愛が始まる。

ストーリーと見所

看護学校を舞台にしたBL小説。
(一応がっつりとした濡れ場があるので、その辺りは注意)

主人公は看護学校に通う男性で、トラウマがありそれが理由で留年し、落ちこぼれとされている。
どうやら容姿も優れているとは言えないらしく、諸々に関するコンプレックスが強い。

更には同性愛者で、ノーマルの男性に片思いをしたりもしている。
そんな彼の同級生(留年しているので年齢としては一つ下)のイケメンと交流を深めていき……。

といった感じのあらすじ。
序盤は主人公のやや陰鬱な心の声から始まり、そこにイケメン視点での主人公への気持ちの変化も描かれていく。

二人の関係性や同性愛への向き合い方など、そういった部分が印象的に書かれており二人が仲を深めていく様子やイケメンが主人公に惹かれていく過程などはかなり丁寧。

文章も基本的には読みやすいのだが、演出的な問題で三人称に一人称が混じる。登場人物の視点が急に変わるなど読んでいて少々「ん?」となる場面も多々見られた。

とはいえそれは前半から中盤にかけてのことで、後半ではあまりそういった部分は見られずお互いの視点が上手く分けられていたようにも思える。

後半に二回?三回ほどそれなりにがっつりとした濡れ場が用意されている。
なので一応R18?BLはその辺りがよくわからんのです。

物語としてのメインである二人の心の交流はしっかりと書かれており、最終的に結ばれるという結末も納得ができるようにはなっている。
何よりもイケメンの方が本来はノーマルであった自分が、主人公に惹かれていく戸惑いなどは特に力が入っている部分ではないだろうか。

などなど、BL小説として楽しめる要素は恐らく(BLはあまり詳しくはないので)ちゃんと盛り込まれているのだが、ストーリーに関してはやや強引というか、折角用意した材料を全部美味しく調理できているとは言い難い。

バイタルサインのトラウマが今一つピンとこない、序盤で主人公が片思いをしている人物の後半の扱いなど、割と根幹となる部分があっさりと解決してしまい、少々肩透かし気味だったのは残念なところ。

もっとも、この辺りに関しては読み手がBLに何を求めているかで評価も変わっていく部分ではあるだろう。

キャラクター

乾 利里

物語の主人公。
性格的にも能力的にもお世辞にも優れているとは言えない人物。
容姿も微妙なようだが、相手役の男性からすればそれがいいとのこと。

かなり卑屈な性格で、頭の中でいらんことを考えて落ち込んだりいらんことを言ったりしてしまう辺りは割とリアルさがあって悪くはない。

ただしとある理由があってアニメキャラにハマっているなどの要素は、やはり物語的には生かしきれていないようにも思えた。

蒼柳 真緒

相手役でイケメン。
女性に非常にモテるのだが、主人公に心を惹かれだす。

当初は自分のことをノーマルであると思っていたため、戸惑いのシーンなどが多く書かれている。
その辺りの描写は丁寧で、作品の面白さの一つといっていいだろう。

性癖に目覚めてからは攻め攻めである。
兄貴のことをクズと言っているが、顔だけが好みの女を束縛が強いといいつつもキープしてるのは君も大概だと思う。

総評

評価点

二人の気持ちの擦れ違いや、その先にある触れ合いを丁寧に書いた作品。

特に主人公の心理描写が多く、その内心が鮮明に語られるからこそ二人が幸福を掴むときには素直に良かったと祝福しなくなるような作りとなっている。

後半とはいえ、それなりに濃いめの濡れ場も用意されているので、その辺りも好みに合う人にとっては嬉しい要素になるだろう。

問題点

やはり幾つかの用意された要素を、ちゃんと書ききれているかというと疑問が残る。

素直にハッピーエンドになったので良しとするか、なんかちょっと雑に片付けたなと思うかは人によりけり。

また極めて個人的な部分ではあるが、登場人物の会話において「○○だな~」のように「~」が多用されていたこと。

恐らくこれは曖昧な返事や、冷たい返しではないことを強調するためのものなのであろうが、下手に多用され過ぎている所為でキャラクターの解像度が下がっているようにも感じた。

加えて登場人物の心情の幾つかを()で語ってしまっていた辺りは、少々残念さがある。

最終評価 52点(Web小説としては充分な良作)

色々書いたが、二人の関係を微笑ましく追いかける分には充分良作な小説といって間違いない。

特に序盤は暗澹とした気持ちを抱えていた主人公の心が少しずつ解れて行ったり、反面イケメンが戸惑いながらも自分の気持ちに気付いて行ったりと、読んでいて二人のやり取りや心の交流を充分に楽しむことができる。

所要時間は凡そ1時間ほど。

極めて個人的な感想

メインである二人の関係性はしっかりと書けていたように思えます。
僕自身が細かいところを割と気にしてしまう人なので、そういった部分が気にならない人なら充分に楽しめるでしょう。

特にBLなどは二人の関係性、所謂「尊い」的な感情を重要視するようなものであると考えているので、そういう意味ではよくできた作品だと思います。

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