見出し画像

キス

「会ってもいいよ」

短いラインをあなたに送った。

すぐに既読がついて、返信が来た。

「ほんとに? いつ会える?」


人で賑わう通りから一本外れた場所にあるバーで8時に。

ドアを開けるとあなたが先に来ていた。

「やっと連絡くれて、うれしかったよ」

そう言って彼は緊張した表情を私に向けた。

私はどんな表情を返しただろう。少しだけ微笑んだのかもしれない。

あまいのがいいと言った私のために、あなたがフルーティーなカクテルを選んでくれた。カクテルは鮮やかな水色で、壁にかかっているライトの光を浴びてキラキラ揺らめく。私はグラスの表面を指で優しく撫でる。


「これを飲んだら行こうか」

あまいカクテルと、あまい瞳のあなたに見つめられて、私は小さく頷いた。


ホテルまでの道を手を繋いで歩いた。まるで恋人のように。


「抱きしめるだけでいいから」というあなたの言葉を信じたわけでもないし、信じなかったわけでもない。人肌が恋しいと寂しそうにつぶやいたあなたの体にそっと肌を寄せる。

あなたは壊れそうな宝物を包み込むように私を優しく抱きしめた。私の頬があなたの胸に触れて、あなたの鼓動が届く。速く打つその音が私のどこかを刺激して、思わずあなたの胸にキスをした。あなたの体の熱が唇から伝わってくる。

あなたの手が私の頬に触れ、ゆっくりと私の顔をあげさせた。近づく唇。漏れるかすかな吐息。

「抱きしめるだけのはずでしょ」

唇が触れる一瞬前に私はあなたの瞳をじっと見つめてそう言った。

切なそうに笑うあなたが愛しくて、こんな言葉がこぼれる。



「じゃあキスだけね」



お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨