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王様のルール

「ドキドキとかワクワクとかそういうのがほしいんだよ」

と目の前の君が言った。

ドキドキとかワクワクは私もほしいけど、君も私も既婚者だよね? 既婚者はそんなのもう禁じられているんだよ。あの紙にサインした瞬間にドキドキとワクワクとはもうさようなら。それが王様のルールだよ。

ほら、これこれ。君の国民手帳にも書いてるでしょ?

『既婚者のドキドキとワクワクを禁じます』(国の王様より)

なのに気軽に君は言う。

「俺とドキドキしようよ!」

すごく爽やかな笑顔で誘惑される。

君とドキドキ?

なるほど。君は確かに魅力的で男らしい。一緒に手をつなげばドキドキするよね。目を見つめあえばワクワクしそうだ。もう10年もドキドキもワクワクもしてないから、王様のルールは気になるけれど隠れてやっちゃえばいいのかな?

私は、うーんってちょっとだけ考えたけど「いいよ」って答えた。

二人で手をつないで、二人で腕くんで、二人で見つめあってみたらドキドキしたしワクワクした。なんだやっぱり楽しいね。すっかり忘れてた。

「こういうのっていいよな!」って白い歯を見せて無邪気に笑う君。

「こういうのってうれしいね!」って明るく笑った私。

「このままさ、俺たちだけで飲み会抜けない?」

君が私をもっと誘惑した。

君はまたもう一つの王様のルールを破ろうと言う。

『既婚者が飲み会を途中で抜けるのを禁じます』(国の王様より)

王様のルールを2つも破ったらまずいんじゃない? って思うけど、君はてんで能天気。ニコニコニコニコと私を見つめ、純粋に楽しさを追い求める少年のように目を輝かしている。

そっか。君はまだ少年なんだね。

君はもうすっかり大人だけど、心はまだ少年だ。

一緒に飲み会を抜けようか?

一緒にドキドキとワクワクをもっともっと感じようか?


王様のルールを破ったらどうなるかって君も私も知らない。

王様のルールを破った人の話を聞いたことがないから。

あ、だけど少し前に山本さんちの奥さんが行方不明になってたなぁ。お隣の河野さんちの旦那さんも同じころに。

あちこちでたまに耳にする行方不明のニュース。神隠しかなってみんな言ってる。そういうことってたまにあるんだよね。

「早く行こう」って君が私を急かしてる。

飲み会のほかのメンバーはちょっと心配そうに私たちを見てるけど、大丈夫だよ。王様はきっとこんなの見てないよ。

じゃぁ、またね。

明日また会社で会おうね。


君が私の手をとる。

私が君を見つめる。

ドキドキワクワク。

なんて素敵。


1015文字

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