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月を見ながら

一日一日と日を追うごとに、京介との距離が離れていく気がして、怖くなる。

抱きしめていたぬくもりが、薄れていく。

きっと心も。

そう思うと寂しくなってラインでメッセージを送った。

「ねぇ、今何してる?」

すぐに既読がついて、電話がかかってきた。

「月を見てた」

私はソファーから立ち上がって窓に近づきカーテンを開けた。夜空に輝く月がいた。

「きれいな月だね」
「そうだな。少し欠けてるけどな」
「うん、少しね」

月は少しくらい欠けているほうが好き。見事な満月よりも、少し足りない月。そのくらいのほうが優しく見える。

「あ、ちょっとごめん。なんか誰か来た」

スマホの向こうからインターホンの音が聞こえたと同時に京介はバタバタと玄関に向かったようだ。

「ちょっと、一旦切るよ」

すぐにそう聞こえたから「うん」って答えた。

誰が来たんだろう。

月を眺めながら京介を待つ。優しい月がほのかな光で夜空を照らしている。

スマホが光った。

「もしもし」
「ごめん、宅急便だった」
「あ、うん、そっか」

ちょっとほっとした。転勤になった京介とあまり会えなくなって、なんだか不安になる日が増えた。

「沙織、あのさ」
「うん」
「寂しくないか?」
「え・・・」

彼が突然そんなことを言うから、蓋をしようとしている寂しさがあふれてくるじゃない。目に涙が浮かんだ。声だけじゃなくて京介に触れたいよ。

「うん、寂しい」

素直にそう伝えた。

「俺も、寂しくてさ」
「うん」
「たぶんすごく寂しいみたいで」
「うん」
「耐えられないんだ」
「うん」

涙が止まらなくなった。京介が寂しいほうが胸が苦しくなるから。

「だからさ」
「うん」
「結婚しないか?」
「え?」

突然のプロポーズに驚いて、言葉に詰まってしまった。

「ダメか?」
「あ、え、ううん、突然だったから」
「うん、ごめん。でも前から考えてた」
「うん」
「もう離れていたくないなって」
「うん、私もそばにいたいよ」
「じゃあさ」
「うん、でも・・・仕事があるから」
「ああ、うん、だけど結婚するならさ、辞めるしかないから」
「うん、そうなるね」
「ああ、そうだよな。急には無理だろうけど、その方向で考えてほしい」
「うん。え・・・」
「ん? 何?」
「その方向って」
「うん」
「どっちが? どっちが仕事を辞めるの?」
「え・・・」
「え・・・」

幸せな予感と不吉な予感。



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