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4年間。すれ違いのままで

自分は大学一年から進学塾で働いていた。スーツで学校に行き、そのまま仕事に向かう毎日。アルバイトとはいうものの、それなりに真面目に働いていた。

教職課程
教員を目指す学生はこれを履修する。大学生活を半分捨ているようなものだ。人よりもたくさんの授業を受け、専門的な知識を詰め込み、大学4年次の教育実習に向かう。
そこに一人飛び切り明るい女の子がいた。
英語の教員を目指す女子大生。
かわいらしく無邪気に振舞う彼女は誰とでも友好的に話しかける。

一方、自分はといえば、社交性は皆無。擦れた性格で、世の中を斜めに見つめるヒネクレモノ。

教職課程をこなす中で、もちろん同じ講義で顔を合わせることが多くなる。

自分は進学塾で業務をしている分、それなりにテクニックは身についてきた。彼女は相変わらずの大学生の趣。
自分は塾で授業スキルを積み重ねる。

大学3年になり、模擬授業を披露することになった。
それなりにうまくこなし、ボクは周りから一目置かれるようになった。
彼女も自分に話しかけることが多くなる。
「〇〇サンはたぶんすぐに教採(教員採用試験)合格しちゃいますね」

フザケ混じりにそう話す屈託のない彼女の笑顔が自分にほんのわずかな心の平穏をもたらす。

彼女を意識しながら、残りの大学生活を過ごす。

卒業式の日、一応彼女に告白をした。

彼女は群馬県。自分は福島県。

そして、お互いに地元に帰らなければならない。

自分の引っ越しは卒業式の翌日だった。

たどたどしい言い回しで、彼女に想いを伝えると、彼女は少し驚いた顔で

「私も〇〇サンが好きだったんですよ。声をかけられずに4年間過ごしちゃいましたね」


そうやって自分の大学生活が終わりを告げたのである。
卒業式が今までの人生のピークだった。

そして、今でも当時の彼女の笑顔を思い出す度に、毎日の苦難を乗り越えられるサプリメントとなっているのだ。

すれ違いばかりの4年間。

最後の一言でこの4年間のすれ違いが、悔やまれるも、充実した時間に感じたのだった。そして、自分の半生最大の恋物語が終わりを告げた大学卒業式になったのだ。


#忘れられない恋物語

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忘れられない恋物語

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》