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2021/01/08 第6回公判 最終弁論

女児3人個別に呼び出し校内の倉庫でわいせつ、元講師に懲役3年6月判決 https://www.yomiuri.co.jp/national/20210305-OYT1T50206/


1. 子供の供述で事実を認定することは危険である

  1. 子供の供述の特殊性
     子供はよく嘘をつきます。一人で噓をつくこともあれば、子供同士で他愛もない作り話をし始めることもあります。

     子供は目の前の大人に影響を受けやすい、迎合しやすい存在です。目の前の大人が何を求めているか、敏感に感じ取ります。大人の問いかけに嘘をついたり、大人の話に合わせて偽りの記憶を作り出し、あたかも存在した話であるかのように話したりします。

     一度子供が嘘や作り話を始めたら、取り返しがつきません。大人に怒られたくない、その一心で、一度ついた嘘をつき続け、作り話を語り続けます。

     追及されて困ったら、覚えてない、分からない、そう繰り返すことで自分を守ろうとします。一度話が作られたが最後、真実が語られる可能性は限りなくゼロに近くなってしまいます。

  2. 専門家への引継ぎの重要性
    真実の供述を得るためには、親が子供に話を聞いてはいけません。

     そもそも子供にとって母親は大きな存在です。母親を喜ばせたい、悲しませたくない、怒らせたくない。母親に嘘をつく、母親の話に迎合するには、いくらでも理由があります。

     親の前で話した記憶は子供の中に残り続けます。「こんなことを言えば、前と話が違うではないかと親に怒られる」そう考えた子供たちは嘘をつき続けるはずです。

     一度親の前で話をすれば、後戻りはできません。ですから、 親は話を聞かずに、専門家に引き継がなければいけません。

     専門家に任せるというだけでなく、質問の仕方も工夫しなければいけません。誘導しない、オープンに聞くというだけでは不十分です。相手との関係性を遮断し、その場のルールを決めてから、質問を始めなければいけません。

     訓練を受けた専門家だけがなせる仕事です。親や学校の先生、スクールカウンセラーなどが話を聞いてはいけないのです。

  3. 初期供述が適切に保全されなかった(不自然な供述に)
    しかし、この事件では子供の初期供述が適切に保全されることはなく、汚染なしで専門家に引き継がれるということはありませんでした。 第一に、子供が「触られた」という話をしたのは、母親の前が最初ではありませんでした。

     その前に、子供同士で話がなされていた可能性がありました。C さんは、お母さんに話す前に、最初に親友に話したと言いました。

     そもそも C さんは A さんと同じマンションに住んでいて、放課後に一緒に遊ぶ仲で、A さんと B さんは放課後のルームで一緒でした。B さんがお母さんに話したのは、C さんがお母さんに話してから約 1 週間後のことでした。

     いずれの親も自分の子供に対して子供たち同士で話すなとは言いませんでした。

     第二に、母親の子供への聴取は適切なものではありませんでした。LINEやアンケートを元に誘導し、子供に詳細を問い詰めるような聞き取りが行われました。

     第三に、司法面接までの間、そして、公判証言までの間も汚染は止まりませんでした。司法面接は汚染を食い止めることはできません。司法面接は、 司法面接の時点での記憶を取り出す方法としては適切ですが、司法面接よりも前の、汚染される前の記憶を取り出すことはできないのです。

     その結果、子供たちの供述は、体験していないがために不自然なものになり、変遷しました。法廷で覚えてない、分からないを繰り返す子供もいました。いずれも、子供たちの初期供述が正しい方法で保全されなかったことが原因です。

    それでは、3 人の子供たちの供述が信用できないことを説明したいと思います。

2. C さんについて

⑴ 母親の前で話したのは初期供述ではない
 ア 友達と話した作り話の可能性
  そもそも C さんがお母さんの前で話したのは、彼女の言う「事件」の話を最初にした場面ではありません。

  C さん自身が法廷で「最初に親友に自分から話した」と言いました(C証言 9 頁)。親友との間でどのような会話がなされたのか、詳細は明らかになりませんでしたが、お母さんの前で話したのが最初でないことは明らかです。

  また、C さんは、司法面接では「A ちゃんも 1 回そういうことあったんだよ」と述べました。C さんは A さんと同じマンションで、仲良しでした。

  放課後に一緒に遊んでいることもありました。遊んでいる最中に、Aさんから話をされて、何か特別なことのように感じて、張り合うように私もあるよと答えて記憶を作った可能性があります。

  さらに、C さんはお母さんに「でも、みんなやられているよ」と言いま した(C 母証言 3 頁)。誰かから話を聞いていなければ出てこないはずの話です。誰からも話を聞いてもいないにもかかわらず、「みんなやられている」と言ったのであれば、元の話も含めて嘘ということに他なりません。

  お母さんと話す前に、C さんの言う「親友」や A さんなどの友達と話し、 そこで話が作られた可能性は否定できません。

イ C さんの作り話
 C さんのお母さんは、C さんが着替えている最中に「何々先生ね、パンツまで脱がすんだよ」と急にちょっと楽しそうな感じで言った、と証言しました(C 母証言 1 頁)。

 C さんは、友達との作り話を、もしかしたら子供同士だけの内緒の作り話を、ついうっかり、お母さんに話してしまいました。 当然 C さんのお母さんは驚いて質問をします。ほんのいたずらの気持ちで口に出してしまった C さんは引き返すことができなくなってしまいました。

ウ 母親の聴取の仕方にも問題があった
 その後の C さんのお母さんの話の聞き方にも問題がありました。娘の「被害申告」を前提に質問を続けました。

 C さんのお母さんは「脱がしてどうするの」と聞きました(C 母証言 2 頁)。 本来であれば「脱がした後、どのようなことがあったの?」などと聞くべきです。「どうするの」と聞くのは、先生が何かすることが前提となり、C さんも当然その前提で答えてしまいます。誘導以外の何物でもありません。

 さらに時間をおいて、外から帰ってきた C さんに対して、お母さんは「さっきの話は本当なの」ともう一度話を聞いてしまいました(C 母証言 5 頁以下)。子供は、一度母親の前で話してしまえば、他の話をする余地がなくなり、その話を繰り返すようになってしまいます。母親の前で嘘をついた、そう思われたくないからです。繰り返し話を聞くことで、話が固定してしまいました。もし子供から被害の訴えがあれば、その供述を確認することなく、専門家に任せるべきでした。

 被害があったことを前提に、繰り返しお母さんから聞かれたせいで、Cさんの嘘は固定してしまったのです。

⑵ 司法面接の前にさらに話が大きくなる
 その後も C さんの話は大きくなります。

 スクールカウンセラーのカウンセリングに行く際に、C さんのお母さんは C さんに「今回あった件について、いろいろ相談に乗ってくれる人がいるから、その人にちょっと話を聞いてもらいに行くんだよ」と言われました(C 母証言 13 頁)。

 何かがあったことが前提の発言です。当然 C さんは母親の前でした話をもう一度してもいい、しなければいけないと思い、何かがあっ たことが前提でカウンセラーに話をしました。

 C さんのお母さんは、カウンセラーからカウンセリングで娘が話した内容を聞き、ショックを受けました(C 母証言 14 頁)。C さんがカウンセラーの前で話した内容は、C さんが聞いた話よりも大きくなっていたのです。

 そもそも本来、カウンセラーも C さんの話を聞いてはいけませんでした。 カウンセラーも証言したように、警察に被害届を出すような場合は、カウン セラーは子供との面談を断るものとされていました(Tカウンセラー証言4 頁)。

 しかし、想定外に C さんと面談することになってしまい、つい Cさんの話を聞くことになってしまいました。結果、姿勢等について誘導する質問をすることになり、C さんの話が大きくなるきっかけを作ってしったのです。

 さらに、C さんのお母さんは、カウンセラーから聞いた話を前提に、また C さんに誘導的な質問を繰り返しました(C 母証言 14 頁以下)。 母親に話して、スクールカウンセラーに話して、再度母親に確認されて、 C さんの話はどんどん大きくなっていきました。その後、C さんは司法面接に行き、嘘の話を繰り返したのです。

⑶ C さんの背中を押す材料
 ア 「正しいことだ」という思い込み
   C さんは最初、自分が話す内容が、悪いこととは思っていませんでした。

 しかし、お母さんから悪いことだと指摘され、スクールカウンセラーの前 では「何々先生を罰してください」「逮捕してください」などと述べるようになりました(カウンセラーT証言 18 頁)。

   スクールカウンセラーは何だろうと思いながらも、そのことを問いただしたりすることはありませんでした。

   その後も、C さんはお母さんと話をしたはずです。 その中で C さんは、 先生に触られたという話をすることが正しいことであると確信しました。 C さんが司法面接で「それわるいことでしょ」と述べたことは、その現れです。彼女は自分が正しいことをしていると思い込み、その後もその話を続けました。

 イ C さんの背中を押した
    公判の前に、C さんのお母さんは、C さんに対して、B さんのアンケートの話をしました。C さんは自分と同じ話をしている人がいる、だからそのまま話をしていいんだ、そう考えたに違いありません。

    C さんは、公判で証言する際にも、お母さんから「担任の先生にお股を触られたことを詳しく聞いてくれるから、素直にそのときあったことを話してね」と言われました(C 証言 15 頁)。

   もう違う話をする理由も必要もありません。だからこそ公判でも嘘の話をし続けたのです。

   C さんの証言は嘘の証言です。信用できません。

⑷ 重要な部分の変遷
  C さんの話が嘘だと言える根拠、一つ目は話がころころ変わっていることです。

  C さんは「おまた」を触られた回数について、母親の前では 3 回と言い、 司法面接では 1 回と言い、証人尋問では 2 回と言いました。 触られた回数という重要なことが、誰かが聞くたびに回数が変わる、そんなことはあり得ません。子供がつく嘘だからこそ、話が一貫せず、回数が増えたり減ったりするのです。

 話が変わったことは他にもあります。触られたときの洋服です。
  C さんは司法面接では上の洋服は脱いでいないと話していましたが、法廷では上の洋服は脱いだと言いました。しかし弁護人に変遷を追及されると、 「分かりません」と答えました(C 証言 23 頁)。

 もし本当に被害に遭っていたとすれば、その時に自分がどのような洋服を着ていたか、上の洋服を脱いでいたかどうかは、確実に記憶しているはずです。それが変遷し、追及されると分からないという。これは体験していなかった、嘘だとしか言いようがありません。

⑸ 法廷で困ると「分からない」「覚えてない」
 二つ目は法廷で「分からない」「覚えてない」を繰り返したことです。

 ア A さんの話を聞いたかどうか
  A さんの話を聞いた、C さん自身は司法面接でそう述べました。しかし、 C さんは法廷では「分かりません」と言いました(C 証言 17 頁)。C さん のお母さんも C さんから聞いたと証言しました。

  子供同士で話をしていることが大人に知られたら、自分たちの話が疑われて、嘘がばれてしまう、都合が悪い、そう考えて、とっさに分からないと嘘をついたのです。

 イ どちらの手で触られたか
  C さんは、司法面接では、「左手だと思う」と述べ、「先生は左利きなので左手の人差し指で触られたと思います」という検察官の問いかけにも 「うんうん」と答えました。

 しかし、法廷では、検察官から「どっちの手で触られたか分かるかな」 と聞かれて、「分かりません」と答えました(C 証言 7 頁)。弁護人の反対尋問にも同じように答えました(C 証言 22、23 頁)。もしかしたら C さんは、司法面接の後で、1 年 1 組の先生が右利きだったと思い出したのかもしれません。

 誰かに聞いたのかもしれません。自分の話が噓だと思われたら困る、そう考えた C さんは「分からない」とごまかしたのです。

 ウ 床に寝っ転がった
  C さんは、司法面接では寝転がっていたといい、検察官の主尋問でも自分から寝転がっていたと言いました。しかし、弁護人の反対尋問では分かりませんと答えました(C 証言 26 頁)。

  C さんが被害に遭ったというのは 1 月 25 日のことです。1 年 1 組の倉庫の床に洋服を脱いで寝転がれば冷たいはずです。もしそうであれば非常に特徴的な出来事であり、特徴的な記憶です。検察官の質問には寝っ転がったと答えていたのに、弁護人の質問には分からないというのは不自然です。

  もし実際に床に寝っ転がったということを体験していたのであれば、1 月に冷たい床に寝っ転がったというのは、大変特徴的な体験です。誰から聞かれてもそのようなことがあったと答えるはずです。体験していないからこそ分からないと答えたのです。

 エ 粘土
  C さんは、司法面接では図工の時間で紙粘土をやっていたと言いました。 しかし、法廷では最初は粘土を使っていないと言い、次に忘れたと言いました(C 証言 3 頁)。

  もしかしたら C さんは、司法面接の後で、1 月 25 日の図工の時間に紙粘土はやっていなかったと気づいたのかもしれません。自分の話が嘘だと思われたら困る、そう考えた C さんは「忘れた」とごまかしたのです。

⑹ 不自然な証言
 三つ目は、図工の時間に倉庫に連れていかれたという証言が不自然なことです。

 図工の時間には周りに他の子供たちがいるはずです。先生が一人の生徒だけを教室から連れ出せば、騒ぎになるはずです。1 年生ですから、無邪気に後を付いてくる子がいるかもしれません。先生と C さんの二人だけがいない状況が続けば、騒ぎ出す子もいるはずです。そのような騒ぎになれば、隣の 1 年 2 組の先生や子供も当然気付くはずです。しかしそのようなことがあったという証拠はありません。

 しかも倉庫の入り口は、1 年 2 組から丸見えです。授業時間中に 1 年 1 組の先生が児童を連れて二人きりで倉庫に入るようなことがあれば、1 年 2 組の先生が声をかけたり、注意をしたりするはずですし、そのことを覚えているはずです。しかし、1 年 2 組の先生はそのような証言をしていません。

 C さんの話が作り話であるからこそ、このように明らかに不自然な証言となったとしか言いようがありません。

 ⑺ DNA(黒﨑医師の意見)
  被害に遭ったとされる 1 月 25 日当日、C さんが履いていたレギンスから採取された付着物について、DNA 型鑑定が実施されました。

 このレギンスについては、C さんが自宅で脱いで、洗濯する前に警察に提出されたものです。C さんの家族を除いて、犯人以外の人物がレギンスの腰に触る可能性は低いと言えますから、第三者の DNA 型が検出されれば、それが犯人の DNA 型である可能性が高いと言えます。また、C さんは法廷では1年1組の先生に服を脱がされたと言いましたから、1年1組の先生がレギンスに手を触れたはずであり、1 年 1 組の先生の DNA 型が検出される可能性が高いと言えます。

  DNA 型鑑定の専門家である黒﨑先生が、この DNA 型鑑定の結果を前提に意見を述べました。

  15 の座位のうちの 3 つの座位から、それぞれ一つずつ、誰も持っていない型が検出されたことをもって、黒﨑先生は「女児本人、それから両親、それから被告人の型と一致しない第三者の型がこの DNA の資料の中に含まれているというふうに考えるのが妥当だろう」と意見を述べました(黒﨑証言 9 頁)。もし被害に遭ったというのが事実であれば、1 年 1 組の先生以外の別の人物が犯人である可能性を示す証拠です。

  また、15 の座位のうち 5 つの座位について被告人の型が含まれていないことをもって、黒﨑先生は「積極的に被告人の DNA が含まれているということを指摘できる所見ではない」と意見を述べました(黒﨑証言 12 頁)。これは 1 年 1 組の先生が犯人でない可能性が高いことを示す証拠です。

  いずれも 1 年 1 組の先生が犯人であるという C さんの証言と矛盾する内容です。もし C さんの証言の通りに、1 年 1 組の先生が犯人であったとすれば、全く逆の結果になったはずです。この鑑定と矛盾する C さんの証言は信用できません。

3. A さんについて

⑴ 母親による誘導
 A さんのお母さんは、C さんのお母さんから送られてきた LINE でショックを受け、Aさんに対する質問を始めました。

「今日図工の時間に先生に一人だけで呼ばれたか」
「先生の部屋を知っているか」

寝室に移動してからも
「先生の部屋に行ったことがあるか」
「その部屋はどんな部屋なのか」
「どうしてそこに呼ばれたのか」
「その部屋の中で何があったのか」

 親から立て続けに質問さられた場合に、子供にはそれぞれの質問に自由に回答できる余裕はありません。Aさんは倉庫で何かがあった前提で話をしてしまいました。

さらに、Aさんのお母さんは、C さんのお母さんの LINE の内容に沿って、「おなかを触られた?」「パンツを脱がされた?」などと質問を続けました(A 母証言 5 頁)。

 いずれも誘導以外の何物でもありません。A さんは否定することができませんでした。

 なお、A さんはお母さんの「お股も触られたの」という質問に対して、はいともいいえとも答えていません(A 母証言 5 頁)。A さんのお母さんは「娘 がギュッとしがみついてきたので、触られたと思った」と証言しました(A 母証言 6 頁)。

しかし、これは C さんのお母さんから送られてきた LINE の 影響で、A さんのお母さんが自分の娘も被害に遭ったと思い込んだにすぎません。A さんはお母さんの前でも陰部を触られたとは言っていません。

 さらに A さんのお母さんの誘導は続きます。A さんのお母さんは、自分の娘が被害に遭ったと思い込み、司法面接の前に A さんに「学校でされたことについて話を聞きたいお姉さんが 2 人いるので、お話できる」「正直に話しなさい」と言いました(A 母証言 11 頁)。

 これでもう A さんは、お母さんの前でした話とは別の話をすることはできなくなってしまいました。もし司法面接でお母さんの前でした話とは別の話をして、万が一お母さんに知られたらどうしよう。嘘をついたと思われてしまう。そう考えたに違いありません。

 司法面接での A さんは、お母さんの前でした話を繰り返したに過ぎなかったのです。

⑵ 司法面接の「内容」が信用できない
 司法面接で A さんが検察官に話した内容自体も信用できるものではありません。

 まず、触られたタイミングについて、A さんは 3 時間目の体育の後に倉庫に連れていかれて触られたと言いました。

 3 時間目と 4 時間目の間には5 分の短い休み時間しかありません。5 分の休み時間の間に、着替えを始めて濡れていることに気づき友達と話す、先生と倉庫に行って、体操服を脱がされて触られてまた体操服を着る、席に戻って洋服に着替える、これらの行為をすることはおよそ不可能です。

 もし授業に間に合わなければ、Aさんと先生がいないことに気づく子供たちが出て、騒ぎになったはずです。そのような騒ぎになれば、1 年 2 組の先生や子供たちが気付くはずですし、そのような 出来事があれば1年 2 組の先生が 1 年 1 組の先生を注意するはずです。

 1 年 2 組の先生もそのような印象的な出来事を記憶しているはずでしょう。しかし、そのような事実も証拠も存在しません。不自然です。

 また、A さんは 3 時間目の体育の後は道徳だったと言いました。しかし、10 月以降の時間割(弁 1・2)を見ると、体育が 3 時間目にある場合に、4 時間目は国語の授業であり、道徳の授業ではありませんでした。事実に反しています。

 さらに、A さんは司法面接で、「わからない」を連発しました。 「触られたときにどんな感じがしたか」という質問に対して「わかんない」、「触られた部分がどちらの穴か」という質問に対して「わかんない」、「触られ方がどのようであったか」という質問に対して「わかんない」と答えまし た。

 本当に体験したのであれば、触られたというだけでなく、どのような触られ方だったのか等の詳細を語ることができるはずです。体験していない事実 だからこそ分からないと答えざるを得なかったのです。

 このように不自然で、事実に反し、詳細を語らなかったのは、体験していない事実、存在しない事実について語っているからに他なりません。司法面接の内容でわいせつ行為があったと認定することはできません。

⑶ 公判証言も信用できない
  ア 詳細を覚えていないは不自然
   A さんは、1 年 1 組の先生にお尻とお股を触られたことがあると言いながら、詳細については繰り返し覚えていないと言いました。

触られたときにどこにいたのか(A 証言 3 頁)
触られた時の姿勢(A 証言 4 頁)
洋服を着ていたかどうか(A 証言 5 頁)
触られたときの気持ち(A 証言 5 頁)
椅子が濡れていた話(A 証言 6 頁)

などについて、いずれも覚えていないと証言しました。

 挙句の果てに、 A さんは司法面接の時のことも覚えていないと言いました。 本当に体験したのであれば、詳細を語ることができるはずです。体験していない事実だからこそ、覚えていないと答えざるを得なかったのです。 詳細については覚えていない、でも触られたのは間違いない、このような証言は決して信用することはできません。

イ 裁判長の誘導
 A さんの証人尋問の最後に、裁判長が質問し、Aさんが答えるという場面がありました(A 証言 9 頁)。

  お尻とかお股を触られるというのは、あなたにとっては嫌なことですよね。
  うん。
  1 年生の時のことなので、覚えていないという感じなんですか。
  (うなずく。)
   今うなずいたのかな。
  うん。

 いずれの質問も誘導です。

 前者は「もしお尻とかお股を触られたら、どう感じますか」などと聞くべきです。後者は覚えていないという答えを押し付けるものです。この A さんの証言をもって、嫌なことで時間が経っているから詳細は覚えていない、それは自然なことである、しかし 1年 1 組 の先生に触られたのは間違いないなどということはできません。

 もし本当に体験していて、それが嫌なことであったのであれば、1 年たってもなお克明に覚えているはずです。嫌なことであれば記憶が減退していて詳細を語ることができなくても仕方がない、などという経験則もありません。

 法廷で詳細について証言できないのは、体験していないからにほかなりません。お母さんの前でも司法面接でも嘘をついてしまい、あれは嘘でした、とは言えません。だからこそ覚えていないとごまかしたのです。1 年 1 組の先生に触られた、ということも嘘なのです。

⑷ 証人テストは検証されていない
 A さんが証言する前に、検察官の前で打ち合わせをした、いわゆる証人テストの際にどのような様子だったのかについては、全く明らかになりませんでした。

証拠が開示されず、検察官を証人として尋問する請求も却下されたからです。

 もしかしたらAさんは検察官の前では被害の存在を否定したかもしれません。当時のことを覚えていたけれども、全く別の話をした可能性も否定できません。検察官はメモの開示を拒否し、その立証を放棄しました。もし法廷と同じように話す様子があったのであれば、記憶がないという話の裏付けとなるのですから、検察官は証人に証人テストの時のことを尋ねたり、証人テストを担当した検察官の報告書を請求したり、検察官の証人尋問を請求したりしたはずです。

 2号書面の請求が予定される事件で、検察官が自分にとって有利であれば証人テストの経過を立証しようとすることは明らかです。

 メモの開示を拒否し、検察官の証人尋問に反対する態度は、法廷での証言と は別の可能性を示唆するものです。

 裁判所も証人テストに関する証拠開示命令を出さず、検察官の証人尋問請求を却下しました。A さんの証人テストの様子も含めて、供述経過全てを検証すべきです。A さんの司法面接を採用し、これのみで公訴事実を認定するのはあまりにもアンフェアです。

⑸ 体育の後で椅子が濡れていたエピソード
 A さんは、お母さんの前や司法面接で、体育の後で椅子が濡れていた、その後で倉庫に連れていかれて触られたという話をしていました。

 1 年 1 組の先生も、体育の後で椅子が濡れていたエピソードがあったことは認めています。このエピソード自体は存在していたといえます。

 何かのエピソードと結びつけて、話を作ることはいくらでも可能です。

 そもそも体育の後という話が不自然であることは、先ほど述べたとおりです。 存在するエピソードと結びついて語られたからと言って、その話が信用できるとはならないのです。存在するエピソードと結びついて語られると、一見 それらしい話に聞こえてくるので、注意する必要があります。
 
 だからといって元の話が作り話である可能性はなくなりません。存在するエピソードと結びついて語られたからといって、元の話が信用できる保証はないのです。

4. B さんについて

⑴ 子供同士の話
 そもそも C さんの被害があったとされる 1 月 25 日から B さんのお母さんが B さんに話を聞く 1 月 31 日までの間、1 週間弱の時間がありました。 Bさんは、放課後のルームで A さんから話を聞いたり、A さんを通じて C さんの話を聞いたりしていた可能性があります。もちろん C さんから直接話を聞いたかもしれません。

 B さんが A さんや C さんを含む友達からいろいろな話を聞いていたとしても、不思議ではありません。

⑵ アンケートと母親による誘導
 B さんのお母さんは、学校から配られてアンケート(「体に触られ、不快であった」)を利用して、B さんに「性的にというか、体を触られたりとか、 何かそういうことがあったか」を質問しました(B 母証言 2 頁)。

 アンケートの内容自体が誘導です。また、アンケートに基づいて行われた お母さんの質問も誘導でした。

 学校での子供たちの会話とアンケートとお母さんの誘導で、話が作られた 可能性は否定できません。

⑶ 司法面接の「内容」が信用できない
 作り話のまま、B さんは司法面接で話をしました。だからこそ司法面接でB さんが検察官に話した内容自体も信用できるものではありませんでした。

まず、触られたタイミングが不自然です。B さんは給食の時間に倉庫に連れていかれて触られたと言ました。給食の時間は、子供たちが集まって食べているので、先生が B さんに声をかけて連れて行こうとすれば、他の子供たちが気付きます。倉庫の入り口は 1 年 2 組の教室から丸見えなので、1 年 2 組の先生や児童が気付くかもしれません。そうすれば騒ぎになったはずで す。

 しかし、そのような事実も証拠も存在しません。不自然です。

 また、触られたときの描写が不自然です。Bさんは洋服を全部脱いで床に寝っ転がったと言いました。しかし B さんが被害に遭ったという時期は 12月です。床に裸で寝っ転がったとしたら、冷たすぎて触られている間も我慢できないはずです。明らかに不自然です。

 さらに、司法面接の内容はお母さんの前で話した内容と一貫しません。

 B さんはお母さんの前では陰部を触られたとは言いませんでした。しかも 1回しか体を触られたことはないと言っていました。しかし、司法面接では陰部を触られたと言い、2回体を触られたことがあると言いました。触られた場所や回数という重要な点について変遷することはあまりにも不自然です。

 実際に体験していない、作り話であるからこそ、内容が不自然だったり、 変遷したりするのです。司法面接の内容も信用できません。司法面接の内容でわいせつ行為を認定することはできません。

⑷ 「あると思うが覚えていない」「嫌なことで思い出したくない」証言
 法廷で裁判長から質問されて、B さんは次のように述べました(B 証言21 頁)。

パート1
 自分が学校の先生か誰かに体を触られたことがないのというふうに聞かれたことは前にもあったのかな。

 はい。
 そのときは,今でいいんですけど,それはあなたは触られていないという記憶なんですか。お母さんと友達以外だよ。
 あると思う。

 いずれの質問も誘導です。B さんが答えた「お母さんと友達以外に体を触られた」という限度では何の事実も認定できません。

パート2
 どこを触られたという記憶なのかしら。
 それは覚えていない。

 どこを触られたのか覚えていないというのは不自然です。もし B さんにとって体験したことが嫌なことであったのであれば、1 年経ってもなお克明に覚えているはずです。

 嫌なことであれば記憶が減退していて詳細を語ることができなくても仕方がないなどという経験則もありません。法廷で証言できないのは、嘘だからにほかなりません。母の前でも司法面接でも嘘をついてしまい、あれは嘘でした、とは言えません。

だからこそ、覚えていないとごまかすしかなかったのです。

パート3
 それは忘れちゃったの。それは思い出したくないのかな,それとも本当に忘れちゃったという感じなのかな。

 思い出したくない。
 それは,ちょっと思い出すのが嫌なのかな。
 うん。
 それはどうしてって言える。何でかなというのは自分の気持ちとして。
 言えない。

 再度誘導です。覚えてないとごまかしたところ、裁判長が「思い出したくないから話したくない」というような助け舟を出したので、誘導に乗って「嫌だから思い出したくない」と答えたのです。しかし覚えていないというのと 思い出したくないというのは矛盾する話で、支離滅裂であると言わざるを得 ません。

 このやり取りをもって、Bさんの公判証言を、嫌なことで時間が経っているから覚えていない、それは自然なことである、などということはできません。

⑸ 証人テストは検証されていない
 証人テストの際の様子については、Bさんにも A さんと同じことが当てはまります。

 B さんが証言する前に、検察官の前で打ち合わせをした、いわゆる証人テストの際にどのような様子だったのかについては、全く明らかになりませんでした。

 証拠が開示されず、検察官を証人として尋問する請求も却下されたからです。

 もしかしたらBさんは検察官の前では被害の存在を否定したり、当時のことを覚えていたけれども全く別の話をした可能性は否定できません。 

 検察官はメモの開示を拒否し、その立証を放棄しました。もし法廷と同じように話す様子があったのであれば、記憶がないという話の裏付けとなるのですから、検察官は証人に証人テストの時のことを尋ねたり、証人テストを担当した検察官の報告書を証拠調べ請求したり、検察官の証人尋問を請求したりしたはずです。

 2号書面の請求が予定される事件で、検察官が自分にとって有利であれば証人テストの経過を立証しようとすることは明らかです。メモの開示を拒否し、検察官の証人尋問に反対する態度は、法廷での証言とは別の可能性を示唆するものです。
 
 裁判所も証人テストに関する証拠開示命令を出さず、検察官の証人尋問請求を却下しました。B さんの証人テストの様子も含めて、供述経過全てを検証すべきです。
 
 B さんの司法面接を採用し、これのみで公訴事実を認定するのはあまりにもアンフェアです。

⑸ 体がかゆいエピソード
 B さんは、お母さんの前や司法面接で、体に湿疹ができていたという話をしていました。 B さんのお母さんもそのようなことがあったといいます。このエピソード自体は存在していたといえます。

 しかし、これは A さんでも指摘したことですが、何かのエピソードと結びつけて、話を作ることはいくらでも可能です。そもそも給食の時間という話が不自然であることは、先ほど述べたとおりです。存在するエピソードと結びついて語られたからと言って、その話が信用できるとはならないのです。

5.  3 人の供述の共通性

⑴ 「支え合うから信用できる」という仮説の危険
 さて、ここまで、A さん、B さん、C さんの話が信用できない理由を説明してきました。

 もしかしたら A さんと B さんと C さんの話が「倉庫でわいせつ行為をされた」という意味で共通し、支え合うから信用できる、そう考える人がいるかもしれません。

 もし A さんと B さんの話が倉庫でお股を触られたという点で似ている、だから相互に信用できると考えるのであれば、A さんの話が信用できることを前提に、B さんの話が信用できると考えることになります。逆もまた然りです。これは裏返せば、A さんの言うような行為をする被告人は、B さんにも同じような行為をしている、という推認を許容することになります。

 これは悪性格立証以外の何物でもありません。このことはもう一人 Cさんが加わって、3 人になっても同じことです。

 3 人の供述が共通し、支え合うから信用できるというのは被告人の悪性格立証につながるものであり許容できません。

⑵ 倉庫の描写が詳細かつ具体的なのは当たり前
 また、3 人の供述については、倉庫の描写が詳細かつ具体的で信用できる、だから信用できると考える人がいるかもしれません。

 しかし、一度でも倉庫に入ったことがある人なら、倉庫の中に置いてあるものについて語ることは難しいことではありません。この倉庫が常時施錠されていた証拠はありません。休み時間に子供たちが先生の目を盗んで入り込んでいたとしても何も不思議ではありません。C さんは倉庫に入ったことがあるのを認めました。

 倉庫に入ったことがある人なら、子供たちがした程度の説明をすることはたやすいはずです。倉庫の描写が詳細かつ具体的であることは、倉庫でわいせつ行為があったことを裏付けるものではありません。

6. 1年1組担任は事件を起こしていない

⑴ 倉庫は誰もが自由に出入りできた
 1 年 2 組の先生や教頭先生の証言で、倉庫の管理状況が問題になりました。 鍵はかかっていなかったという1年1組の先生と話が一致しない、1 年 1 組の先生の話は信用できない、そう考える人がいるかもしれません。

 1 年 2 組の先生は、平成 30 年の 11 月頃に 1 年 1 組の先生から倉庫の鍵の場所を聞かれた、1 年 1 組の先生が倉庫を見たいというので、「あの中には勉強に使うものは何も入っていないよ」などと言ったなどと証言しました。

 しかし、倉庫には 1 年生の授業で使用するものが多数あり、1 年 2 組の先生も 1 年生の授業で使用するものが入っていたことを認めました。1 年2 組の先生の語ったエピソード自体が客観的な状況に反しています。1 年2 組の先生が勘違いをしていて、1 年 1 組の先生から鍵の場所を聞かれたというエピソード自体がなかった可能性が高いと言えるでしょう。
 
 そもそも 1 年 2 組の先生も鍵がかかっていると思っていたというだけで、実際に鍵がかかっていることを確認したことはない、と証言しました。

1 年 2 組の先生は、倉庫の使用状況を知らなかったのです。

 教頭先生は、平成 30 年度に倉庫の扉を自分で開けようとしたことがある、 鍵がかかっていたという趣旨の証言をしました。これは倉庫にいつも鍵がかかっていたかのような話です。

 しかし同時に、扉を引っ張ったら鍵かかかっているはずだから開かなかった、それが鍵が締まっていたという意味だ、とも証言しました。写真を見ればわかりますが、倉庫の扉は取っ手を押して開けるもので、取っ手を引いて開けるものではありません。取っ手を引くだけでは開かないのは当然です。

 教頭先生が扉を開けることができなかったことは、扉に鍵がかかっていたことを意味しません。

 結局のところ、倉庫に鍵はかかっていたという証拠はないのです。1年 1 組の担任の先生が鍵を私物化していたという証拠もありませんでした。

 1 年 2 組の先生の証人尋問と被告人質問では、倉庫の中身の説明がありました。倉庫の中身を確認すればよく分かるように、倉庫には 1 年生の教材や備品がたくさんありました。誰もが自由に出入りして、荷物を出し入れできるような状況だったのです。

 鍵はかかっていなかったという 1 年 1 組の先生の話が信用できない、ということはできません。1 年 1 組の横の倉庫には誰もが自由に出入りできたのです。

⑵ DNA(黒﨑医師の意見)
 C さんが証言したように、1 年 1 組の先生が下の洋服を脱がしたとすれば、その一部であるレギンスに触れたはずです。1 年 1 組の先生の DNA が付着して、その付着物から 1 年 1 組の先生の DNA 型が検出されたはずです。

 しかしレギンスの付着物については、DNA 型の 15 の座位のうち 5 つの 座位では被告人の型が検出されず、黒﨑先生は「積極的に被告人の DNA が含まれているということを指摘できる所見ではない」(黒﨑証言 12 頁)と意見を述べました。

 これは 1 年 1 組の先生の自分は犯人ではないという訴えを裏付けるものです。

⑶ 同僚からの評判
 1 年 1 組の先生について、1 年 2 組の先生は次のように述べました。

     o 与えられた仕事を一生懸命やる、真面目な勤務態度だった
     o 1 年生のクラスをうまくまとめている
    o 保護者からの苦情を聞いたことはない

 教頭先生も次のように述べました。
     o 前任校での評判も良かった
     o 適性があるので難しい時期を担う1年生の担任に当てた
     o 勤務態度はまじめだった

 1年生の担任として丁寧で細かい非常に素晴らしい仕事ぶりだった同僚に評価され、責任をもって1年生の担任を務めていたのに、子供たちにわいせつ行為をするなど考えられません。彼が小児性愛者である証拠もありません。彼はこのような事件を起こすような人ではありません。

7.  おわりに

 この事件の直接の証拠は子供たちの供述しかありません。お母さんたちの証言や先生たちの話は、そこから派生する証拠でしかありません。子供たちの供述は、いずれも汚染され、その内容にも問題があり、わいせつ行為があったと 認定できるようなものではありません。そのような証拠で、ひと一人の人生を狂わせていいわけがありません。

 学校の先生になるために一生懸命努力を重ねてきました。その努力が実を結び、1 年生の担任を務めるようになりました。

 管理職の先生や同僚の先生から評価され、生徒や保護者からもいい先生だと思われていました。

 何よりも彼自身が、子供たちのために一生懸命働いていました。 子供たちを傷つけるようなことを、子供たちを悲しませるようなことを、彼がするはずがありません。

1年1組 担任していた〇○先生(実名)は無罪です。ありがとうございました。

                                以上

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